第3話 鬼角の味
「お前かここらを荒らしているのは!」
開幕騒々しいクソガキが現れた。年のころは十の半分も行かないだろう。
だが豪華な装束に青の肌。伸びる巨大な一本角はその力を彷彿とさせる。
「困るんだよな。お前みたいなわかってない鬼。人間を絶滅させてどーすんのって感じ。生かさず殺さず飼いならさなきゃいけないんだ。ソコ、わかってる?」
何を言っているのだこいつは。
「若。無頼の鬼など構っている場合ですか」
もう一人の鬼が現れた。いや、これは人間だ。角はただの飾りだ。こちらの身なりも身分の高さを物語っている。
「是正丸。俺の事は海王丸でいいって言ってるだろ」
「若。どこに目があるのかわからない以上若は若です」
こいつらはなんだ。俺は自分のみすぼらしい姿に腹が立つ。
なぜこんなガキが良い服を着て慕われている。
鬼に堕ちてまで格差を与えようというか。
俺は金棒を生意気なガキの方に投げる。
直撃した金棒に俺が呼びだした雷雲をぶつけると面白いように痙攣する。
「ギャアアアア!!!」
これは愉快だな。俺の力は鬼にも効く。
どうせ鬼など食う所はないだろう。
俺は雷の力で金棒とそれに張り付いたガキの体を手にする。
臭い。人間の体なら焼け焦げてもここまで食欲を誘わない匂いは発しないだろう。
臭い。だが一部分だけ旨そうな匂いがする。
ガキの角だ。ここだけが俺の食欲を刺激する。
俺はガキの角を頭蓋からへし折ると口に含む。
「美味し。美味すぎる。これは美味だ」
俺は思わず言葉に出してしまった。
咀嚼する角が口の中で噛むたびに力へと変えられる。
喉を嚥下した角の欠片が俺の中に満ちていく。
この力を持った角が俺の一部になっていく。
「よくもやってくれたな無頼の鬼め! 成敗してくれる!」
もう一匹の角飾りの人間が術のようなものを発動する。
邪魔だ。
俺は先ほど手に入れた水の力でそいつを水牢に閉じ込める。
静かだ。なんて素晴らしい力だ。
静寂程贅沢なものはこの世にないだろう。
しばらくすると絶命する角飾り。
素晴らしい! こんなに綺麗な人間の体が手に入るとは!
何という力! これで汚れた人間さえも綺麗にできて旨すぎる!
俺は上機嫌で水牢を回転させる。
おおお! 綺麗になるどころか服も解かれていく!
何という神能力! ありがとう名も知らぬガキ!
俺は鬼になって初めて他者に感謝した。
水牢回転が終わると全裸になった人間を取り出す。
女か。食いでがないかと思ったが肉は締まっている。これならありか。
口に含むが、まあ普通の人だな。普通に美味い。
味に性別は関係ないな。
「ご馳走様」
俺は手を合わせて呟く。
本当にご馳走だった。鬼の角がここまで美味いとは。
人間はご飯だ。鬼の角はおかずだ。
両者揃ってこその食事だな。