第26話 鬼神
「美味そうだ」
散々不味いものを食わされたが、美味に昇華された神は見事な角として生まれかわった。
湾曲した七支刀。なんともいえぬ光を放つ不可思議な代物だ。
「これは本当に食ってしまっていいのか?」
「勿論。そのための角だもの。遠慮なく召し上がれ」
「そうか。それではいただきます」
「喚きも欲しいです!」
「まて、これをそのまま齧ったらお前の顔が吹き飛ぶぞ。欠片になるまで待て」
そして俺は刃に歯を立てる。濃厚な光の本流が全方位に放たれる。
口の中が爆発しそうだ。その輝きを吸い取っていく。
喉を嚥下する光の本流。
それに追随するかのように口の中の光が収まっていく。
この角の旨味はこれで流れ出したようだな。
残りはパキンと子気味の良い音を立てて割れる。
ここも旨い。パリパリと独特の触感が歯応えを愉しませる。
視界に入った喚きの顔を見て俺は七支の一つを折って渡す。
コ、キン。コ、キンとこれまた子気味の良い音で捌いていく喚き。
それを一口頬張ると喚きの顔が変わった。
「・・・美味しいです。神は居ました。
美味サマ! あなたは鬼の神! 鬼神です!」
「そこは全面的に同意だな。アレをここまで美味しくできるとは」
「そお? そこまで言われるとこそばゆいな」
「神食らいの鬼神だ。まさに読んで字の如くだな」
「あーしはトドメ刺して食べただけでしょ」
「そのままでいいんですよ! 嘆きの鬼切断包丁喚き! 神食らいの鬼神美味! ・・・え、と、大飯食らいの無頼鬼、大いなる餓え!」
ショボいが的は射ているな。
「ご馳走様」
「お粗末様でした」
ふぅ、力が渦巻く。さっきのもたれた神の肉が嘘のようだ。
「大餓サマはなにか呼び名に拘りはないのですか?」
「ないな。二つ名などを付けられても人間が逃げるだけだ。俺はただの鬼でいい。箔をつけても得られる物が何もない」
「鬼同士ではどうです?」
「それこそ意味がない。人食い鬼であればその角を食らう。人無し鬼であれば見逃していたが、今は美味が居る。もう鬼は全滅させてもいいぐらいだ」
「では、鬼殺しの鬼肉喰い、鬼食い大餓はどうです? 神食らい、鬼食らい、人食らいでぴったり分かれます!」
「それならさっきの大飯食らいの大餓でいい。誰も逃げない絶妙に弱そうな名前だな」
俺の手が神雷に触れる。強すぎれば鬼討つ人間さえ寄ってこない。
これももう役目を終えたか。俺はその刃を口にする。
「大餓サマ!? 泣いているのですか!?」
「ああ。鬼の目にも涙だ」
「私にも一口くださいな」
「やめておけ。お前では涙どころか鼻血が飛び散るぞ」
辛い。これは辛子ではなくワサビの系統だ。
流石に刃の部分だけに留めておくか。




