第11話 食材
「やめてください! 私達姉妹が何をしたというのですか!?」
喚きの言葉に俺は噴き出しそうになる。
どの口で言うのか。
俺達はいま人通りの激しい町の一角で人の友釣りをしている。
美味と喚きの鬼姉妹が人間達に石を投げられる場面だ。
俺は新たに得た能力の影潜りで美味の影に隠れている。
これで人間どもは俺から逃げ出さないという最高の状況を作り出せるという事だ。
「私達姉妹もあの鬼に従うしかなかったのです!」
人間を率先して調理しているお前が言うのか!
おかげで今日も大漁だ。
件の鬼に捨てられた鬼姉妹が人に助けを求めるのだが、まあこうなるな。
喚きの高い声で続々と人が集まってくる。
なんという爆釣れだ。
流石は元貴人は違う。
「せめて妹だけでもお腹いっぱい食べさせてあげたいのです! 全ての咎は私が背負います!」
うねりのような憎悪の声が上がる。
それに呼応して更なる人間がやってくる。
どこにこんなに人が居たのか。
うねりを抑えるために更に人が集まってくる。
「ありがとうございます! この御恩は決して忘れません! いただきます!」
喚きの顔が恍惚に満ちている。
食を愉しむために自分を変えるのはいかがなものか。
俺は風を起こすと美味と喚きを囲う群衆を巻き上げていく。
この演劇のお代は命だ。それを巻き上げていく。
ーーー
「どうでしたか美味サマ。とても美味しくなったでしょう? これが調理です!」
俺達はそのまま食事へと洒落込んでいる。
確かに素晴らしい劇だ。
この後のごはんが美味くなるというのもわかる。
これは愉悦というものか。
美味しい食事ではなく愉しい食事というわけだ。
「あーしは、こいつらが美味になったとは思えない。これで味が変わるの?」
喚きは自身の角を砕いて美味の人間の上に振りかける。
「人間なんてどれも同じですよ、美味サマ。人間を変えるのではなく、食事への道筋を変えるのです。これからの食事に彩りを加えるのが私の調理です」
やはりそうなるな。人間は変わらない。
「喚き。あーしはさ。美味しい人間が欲しいんだ。こんなことに当たり前のように巻き込まれてるような、狩られているような人間じゃない。鬼を狩れるような本当の人間が欲しいんだ」
なるほど。二人の美味の拘りはこうか。
喚きは変わらぬ人間に彩りを加える。
美味は人間自体の味を求めている。
これは平行線だな。
二人の視線が俺に刺さる。
「俺は喚き派だ。人間など変わらない。それよりもおかずとなる鬼の角に拘りたい所だ。お前達を連れるのはそのためだ」
喚きが嘆息する。
「それは私派とは呼べません。大餓サマを取り込めたと思ったのですが、本当に人間に興味がないのですね」
興味か。人間の気持ちなど考えたこともなかったな。
「あーしは大餓派だよ。美味しい人間から美味しい角が出来上がるの。大餓に美味しいおかずを食べさせたいの。だから大餓は私派閥。食材に拘るんだから」
二人で頷きあう。
美味への探求に俺は口を出す必要はなさそうだな。




