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67 王宮を離れても想う、いつまでも

「イシュカ!」



 陛下の執務室を辞して、王宮の廊下を歩いていると声を掛けられた。

 振り向くと、ロークが足早にやってきた。

 同じ王宮にいるのに、久しぶりに出会った。



「久しぶりだね、イシュカ」


「王太子殿下、お久しぶりでございます」



 あ、また顔つきが変わってる……。

 大きな目標を達成したからか、さらに凛々しさが増しているように感じる。

 だから、私は自然と頭を下げて挨拶をした。



「固い挨拶はいらないよ」


「いえ、ここは王宮ですので……」



 ちらりと近衛騎士に視線を向ければ、それに気が付いたロークが苦笑した。

 ロークについているのは、メルヴィン様とグレッグではなく近衛騎士だ。



「……ここでは仕方ないか。イシュカ、なかなか顔を出せずにすまない」


「殿下がお忙しいのはわかっておりますから、気になさらないでください」


「俺としては、もっとイシュカに会いたいんだけどね」



 ふわりと甘く微笑まれ、私は少し泣きたくなった。



「イシュカ、改めて。陛下のこと、感謝する。公務に復帰できるほど回復できたなんて奇跡だ。イシュカのおかげだよ」


「もったいないお言葉です」


「今日は、もしかして陛下のところへ?」


「先ほど伺いました」


「じゃあ、褒美の話は聞いた? 議会で承認がおりているんだが」


「伺いました。私には身に余る光栄でございました」


「良かった。褒美は三つあったと思うんだが、俺も色々意見を言わせてもらった。特に、イシュカの冤罪は晴らしておきたかったんだよ」


「殿下。冤罪のこと、本当にありがとうございます。私は殿下に救ってもらってばかりですね」


「違うよ、イシュカ。俺がイシュカに救ってもらっているんだ。これから俺は国の中枢に関わっていく。イシュカにもこれまでと同様に関わってほしい。そのために、王宮術師団での地位と私室も用意させもらった」


「殿下、そのことなのですが……お断りさせていただきました」



 ロークが目を丸くした。

 断られると思ってなかったのだろう。

 珍しく狼狽した表情を見せた。



「イシュカ、どうして……?」


「陛下にも申し上げたのですが、復帰できることは光栄に思いますが、今は聖女としての仕事を精一杯勤め上げたいと思っております。それと、私室に関しては政情がどうなるか分からない状況で、聖女というあいまいな地位の者がいると、いらぬ誤解を与えると思います」


「いらぬ誤解……? イシュカ、俺はいらぬ誤解だとは思えない。俺としては誤解される方が好都合だ」



 断言してくれるロークにうれしさが募る。

 でも、私は首を横に振った。



「なりません、殿下。今の状況がどういう状況なのか、殿下が一番わかっておいでのはず。殿下には家柄も人柄においても、きっと相応しい方がいらっしゃいます」


「俺にとって相応しいのは……っ」


「それに、もうすぐ王宮を辞する予定です」



 私はぐっと顔を上げて、ロークに言った。



「え……王宮を、去るのか?」



 ロークが虚をつかれた表情をした。



「はい、殿下。これから国中を回って、結界を張りなおす旅にでようと思います。スクルドが聖女の代替わりのタイミングで、結界を張りなおした方が良いからと」


「旅に……俺のもとから離れるというのか」


「私がお役に立てるとするならば、こういったことではないかと思います」


「……だめだ、イシュカ。俺は許さない」



 うつむき加減のロークが、有無を言わさない声音を発した。



「ですが、このことに関しては国王陛下からも了承を得ております」


「結界を張りなおしたいのなら俺も行こう。しばらくすれば落ち着く。時間は取れるはずだ」


「いえ、殿下のお手を煩わせるわけにはまいりません。これから先もご多忙であるのには変わりません」


「それでもだ。俺はイシュカを手放す気は……」


『王太子、イシュカの邪魔をしないでくれる?』



 声が聞こえたとたん、腕につけたブレスレットが熱く反応した。

 スクルドの竜神石が、まばゆい光を放ち輝きだす。

 ひと際強い光を放った後、目の前にスクルドが現れた。

 そのスクルドは、ロークを鋭い双眸で射抜いていた。



『イシュカは聖女として役目を果たしに行くんだ。この国を安定させるためにね。この国を統治する王族であるお前が、聖女の役目を止めていいと思っているのか?』


「俺はそんなつもりは……っ」


『王太子、こんなことをしている場合か? お前は賢王を目指すんじゃなかったっけ? お前はお前の役目を果たさなきゃ』


「そんなこと、わかっている。だが……っ」


『イシュカはとうに腹をくくってる』



 スクルドがぴしゃりと言いのけた。

 ロークが唇を噛んだ。



『やりなよ、役目を』



 私は深く頭を下げて、ロークの許しを待った。



「イシュカ、必ず迎えに行く……っ」



 ぐっと奥歯を噛みしめたロークが、去っていった。

 近衛騎士を連れた背中を見送る。

 その後、何か言いたそうにスクルドが私を見ていたが、素知らぬふりをした。



 さよなら、ローク。

 あなたと一緒にいれた日々は、いつも輝きキラキラしていた。

 あなたへの想いは、言葉にはしなかったけれど。


 あなたのことが、好き。


 きっと、いつまでも。






 一週間後、私は王宮を去り、カスタリアへと戻った。

 旅立つ前にソニアにポーションを任せるために仕事を教える。

 王家からもらった支度金を活用して、新しい作り手にも入ってもらった。


 それからセレーネ侯爵家が再興し、聖女が誕生した地ということで、カスタリアへ居を構えることになった。

 お父様をはじめ、家族はとても喜んでいた。

 王宮追放されたことで、しばらく一緒に暮らせなかったから、家族との穏やかな日々を過ごしていた。


 そうこうしているうちにひと月が経ち、私はカスタリアを旅立った。

 ランドリック王国にある結界を巡る旅へと。

 いつカスタリアに戻れるのかはわからないけれど、私は今まで以上に前を向くことにした。

 どこか心に寂しさを抱えていたけれど。

 それには見ない振りをした。





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