62 病床の国王陛下の新事実
「イシュカと申したか。面を上げよ」
陛下に声をかけられ、ゆっくりと顔を上げた。
陛下は頬がこけていて、医師でない私が見ても、体調が優れていないことがわかる。
しかし双眸は鋭く、ロークと似通っている容貌だった。
「イシュカよ、よろしく頼む」
「はい、陛下。精一杯務めさせていただきます。では、失礼いたします」
私は臥せっている陛下に、意識を集中した。
「水解析」
水質鑑定のスキルを発動する。
手のひらにほわりと光が集まり、陛下へと向けた。
手のひらを介して、陛下の体内にある血液や体液という、人間の体にある水の情報が集まってくる。
水術師の間ではあまりやらないことだけど、水質鑑定のスキルを応用すれば簡易な診断ができる。
今回診断する理由は、お体に合ったポーションを作ること。
一気に快方に向かわせたいため、スクルドとウルズの水と祈りの力を使ったポーションを作る予定だ。
「や、やめなさい! 何を勝手なことをしているのですか!? 陛下の体は王宮医しか診てはいけないのですぞ! ……ぐえっ」
「立場をわきまえろ」
王宮医がわめき散らしながらこちらへ駆け寄ってきた。
だけど、すぐさまグレッグに押さえつけられた。
「……っ、これって……」
集まってきた情報に、じっとりと汗が出てくる。
元々お体が弱い上、疫病にかかっていると聞いていたから、想定していた成分情報が入ってくる。
けれど、予想外の情報が出てきた。
「イシュカ、顔色が……何かあったか?」
隣にいるロークが私を覗き込んだ。
「で、殿下……恐れながら、申し上げます。陛下の体には毒が蓄積されています。体内で作られたものではなく、摂取しなければ検出されない毒です」
隣にいるロークが目を丸くし、周りの人間は息を飲んだ。
私はじっと王宮医を見つめた。
「医師として、なぜ治療の際に見逃していたのでしょうか?」
「わ、私は何も知らん!!」
「グレッグ、その王宮医を捕縛しろ。それから、この部屋にいる侍従も侍女も含め、部屋から出るな」
「ひいっ」
ロークが素早く指示を出し、すぐにグレッグとメルヴィン様が動いた。
陛下の寝所は、一気に緊迫感が増す。
王宮医はグレッグによって捕縛され、この部屋にいる侍従と侍女は、近衛騎士によって膝をつかされた。
「イシュカ。すぐに陛下の治療はできるか?」
「もちろんです」
「スクルド、ウルズ!」
名を呼べば、腕につけたブレスレットが熱く反応した。
スクルドとウルズの竜神石が、まばゆい光を放ち輝きだす。
ひと際強い光を放った後、目の前にスクルドとウルズが現れた。
『呼んだか。イシュカ』
「な……!」
「っ……!」
この部屋にいた王宮の者たちは一様に目を丸くし、言葉を失っていた。
しかし国王陛下だけは、じっと竜神たちを見つめていた。
「これは、一体……」
「陛下、ご安心ください。この者たちがカスタリアの竜神たちです」
「……まさか、生きている内に目にすることができるとは」
ロークが目配せをして、私はそれに頷いた。
「スクルド、ウルズ。国王陛下のポーションづくりに力を貸してほしいの」
『もちろんじゃ。イシュカ』
スクルドとウルズは手を掲げると、自らの水を生み出した。
二つの水はやがて交わり、大きな水滴となって私の目の前に揺蕩う。
『イシュカ、祈りを込めよ』
スクルドに言われた通りに、私は水に集中した。
すると、水の中に渦を巻く水流を感じる。
その水流を感じながら、作りたいポーションをイメージした。
国王陛下への治癒の祈りを捧げ、水に込めた。
すると突然、カッと光があふれて水が激しく揺れる。
しばらくすると水に紋章のような印が現れた。
その紋章の周りを水流がぐるりぐるりと回ると、調和がとれたように静かになった。
再び水滴が私の目の前に揺蕩う。
『上手くできたようだな』
「ありがとう、スクルドとウルズ。殿下、完成しました」
「ありがとう、イシュカ。そして、スクルドとウルズも」
ロークは医療道具の中から小瓶を取り出すと、私に渡した。
揺蕩う水に小瓶を近づけると、すうっと水が入っていく。
小瓶を掲げて揺らすと、水にある紋章もふるりと揺れた。
その小瓶を再びロークに渡すと、彼は国王陛下の寝台に近づいた。
「陛下。これは聖女イシュカが祈りを込めて作ったポーションです。どうぞ召し上がってください」
「ありがとう」
ロークが介助し、国王陛下がポーションを飲み込んだ。
すると突然、国王陛下の体からひと際強い光が放たれた。
眩しくて、思わず目を細める。
強い魔力のようなものがあふれ、空気が振動する。
光が落ち着きゆっくりと目を開けると、顔色に赤みが差した国王陛下がいた。
「陛下、ご気分はいかがですか?」
体をゆっくり起こされた陛下が、目を丸くしながら、手を握っては開きを繰り返す。
そして、一つ大きく深呼吸をされた。
「まさか……こんなことが……」
「陛下?」
「ローク、苦しくない。苦しくないんだ」
「良かった。父上……」
今まで王太子殿下としての表情だったのに、それが崩れた。
眉を下げて、泣きそうな表情で笑った。
「イシュカと申したな。そして竜神殿。ありがとう。感謝する」
「陛下、もったいないお言葉でございます」
私は深く頭を下げた。お役に立てて、本当に良かった。
そして何より、ロークが嬉しそうで。
……あなたの力になれたことが、本当に嬉しい。
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