58 盗まれた事件の真相明るみに
「リオンが調べたところ、ヘンリエッタが作ったポーションは、王宮の禁忌をおかして加護の泉の水を使用しておりました」
私は目を瞠った。
執務室にいる者が皆一様に厳しい表情をしている。
「ホーマー様、本当にヘンリエッタは加護の泉の水を使用していたのですか? あの泉は王宮の結界なのですよ!?」
「ああ、信じられんことにな」
ヘンリエッタ、なんてことを……。
王宮術師なら誰もが知っている。
王宮の禁忌をおかすことは、重罪に値する。
「どうしてそんなことを……」
「初めヘンリエッタはいつも通りにポーションの作製に入っていたが、イシュカのようにすぐにはできなくてな、かなり苦戦をしていたのだ」
ホーマー様がため息を零しながら続けた。
「だがあるタイミングで、レベルの高いポーションを作った、とヘンリエッタが言ったのだ。すぐに宰相閣下の預かりになったため、そのポーションを調べることができなかったのだが、手に入れて調べてみると、どうもヘンリエッタが作ったものではないのだ」
ヘンリエッタが作ったものじゃない?
それはどういうことなのだろうか。
「ホーマー様、それはあるタイミングが関係しているのですか?」
「実はヘンリエッタが一週間ほど休暇を取ったことがあったのだ。シャーロット様のお使いのためだと言ってな。それ以降なのだ、レベルの高いポーションが出てきたのは。だが、それはヘンリエッタのものではない。ポーションは作り手の癖がでるからすぐにわかったよ。あのポーションは……イシュカの癖に似ている」
私はひゅっと息を飲んだ。
うそ……まさか……。
「水術師長、それは間違いないか?」
ロークの指摘に、ホーマー様がこくりと頷いた。
「間違いございません。私だけでなく副官であるリオンも確認しております」
「なるほどな」
ロークがそう言って、ふうと溜息をついた。
「殿下、何か気になることが……」
「水術師長殿、実はこのカスタリアの屋敷から、イシュカのポーションが盗まれた事件があったのですよ」
ロークの代わりにメルヴィン様が話すと、ホーマー様が顔を青くした。
「ま、まさか……」
「事件現場の倉庫は賊に荒らされたように見えましたが、わずかに術の残滓が残っていて、賊の中に王宮術師並みに力を持った者がいることが分かっています。調べればわかるでしょうが、おそらくポーションを盗んだのはバントン嬢でしょうね。条件が合っています」
「なんてことを……」
私と同じ心境の言葉をホーマー様がつぶやいた。
ヘンリエッタ、どうしてそこまで……?
私を王宮追放しただけでは足りなかったの……?
無意識にぐっと握った手のひらに、温かくて大きな手が重なった。
「イシュカ、大丈夫か?」
「……ありがとう、ローク。大丈夫よ、びっくりしただけ」
ふっと顔を上げれば、気遣わしげなロークの視線とぶつかった。
耳元に囁かれた声に、私も小声で感謝を返す。
ロークの気遣いに、気持ちが立て直るのを感じた。
「水術師長殿、そのレベルの高いポーションはどうなったのです?」
「リオンが調べたところによると、そのポーションはオズウェン公爵家によって貴族たちに優先的に販売されていたようです」
「オズウェン公爵がやりそうなことだな」
「ですがまたある時を境に、ヘンリエッタがまたポーション作りに専念しておりました。疫病が強毒化したタイミングでもありましたが、今になって考えてみると、イシュカのポーションの在庫がなくなったのでしょうね」
「イシュカのポーションがなくなり、効果が高いものを作り出そうとして、加護の泉の水を使った。そういうことだろうな。オズウェン公爵にでも追い詰められたか」
「殿下のご推測通りかと。加護の泉の水を使ったポーションだということが事前にわかっていたので、陛下には使わないようにさせていただきました」
「水術師長、感謝する。陛下に使われてしまっていたら、もっと大きな問題になっていた」
「もったいないお言葉です、殿下。しかし、私は当然のことをしたまで」
ふっと目元を緩めたロークに、ホーマー様が恭しく頭を下げた。
ふむ……とあごに手を当てたメルヴィン様が口を開いた。
「それにしても、バントン嬢はどうやって加護の泉の水を手に入れたのでしょうか?」
「衛兵への聞き込みで、加護の泉へ近づいたのはシャーロット様だと判明いたしました」
リオン様の報告に、皆驚きを隠せない。
「これはこれは……」
「オズウェン公爵家の権力を使って、衛兵たちを加護の泉から一定時間引き離したようです。その時に水を採取されたかと」
「どこまでも身勝手なご令嬢ですね」
メルヴィン様が呆れた表情を見せた。
「だが、なかなか見せなかった宰相閣下の隙だ」
グレッグが力強く言うと、ロークが鷹揚に頷いた。
「グレッグの言う通りだ。隙どころか大きな過失だ。重罪を見過ごすわけにはいかない」
「……では、ローク様。王都へお戻りになりますか?」
「ああ。オズウェン公爵から政治の実権を王族に取り戻そう」
威厳に満ちたロークが言葉を発すると、この場にいた全員が自然と最敬礼をとった。
『僕も王都へ行こうかなぁ』
声が聞こえたとたん、腕につけたブレスレットが熱く反応した。
スクルドの竜神石が、まばゆい光を放ち輝きだす。
ひと際強い光を放った後、目の前にスクルドが現れた。
『イシュカたち、面白い話をしてるね』
「スクルド、聞いていたの? いきなり出てきたらびっくりするじゃない」
『びっくりしてるのは、イシュカだけじゃないと思うけど』
「え?」
振り向けば、ホーマー様とリオン様が口をぽかんと開けていた。
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