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57 王宮の報せをもたらす元上司

「舟運事業の経過報告ですが、王都の販売所から在庫の問い合わせが多数入っています。カスタリア産の野菜は質の高さが受けていて、王都のレストラン向けに高値で取引されている状態です。貴族の間ではカスタリア産の野菜が流行っているようですよ」



 執務室でメルヴィン様が現況を報告した。

 舟運事業を本格的に初めてひと月が経った。

 カスタリアから王都へ運ばれる商品は、メルヴィン様のご実家を通して販売されていて、どれも好評のようだ。



「想定より高い収益が出ている。さっそくカスタリアの民たちに還元できたな」


「皆、ローク様に感謝されていますよ。カスタリアが豊かになっていると。仕事にも精を出していますし、良い循環です」


「それは良かった」


「ああ、それと。ポーションの在庫を増やしたいと問い合わせが来ているのですが」



 ロークが見ていた資料から顔を上げて、私を見た。



「イシュカ、ポーションの在庫はまだある?」


「今、少なくなってきていて、希望の個数をお渡しできるかどうか……」



 私が作ったポーションもありがたいことに、みなさんに喜ばれている。

 ただポーションを作るのは私とソニアだけ。

 作業できる時間が限られていて、なかなかスピードが上がらない状況だ。

 王宮術師団にいた頃は術師みんなでポーションを作っていたので、短期間で多くのポーションを用意できたけれど、今はそうはいかない。



「失礼します! ローク様、報告です!」



 突然、使用人に呼ばれて執務室を出ていたグレッグが、血相を変えて慌てて入って来た。



「何事だ、グレッグ」


「国王陛下が倒れられたとのこと!」


「陛下が!?」



 まさか国王陛下が倒れられるなんて……。

 ちらりとロークを見ると、眉を顰め、持っていた書類をぐっと握っていた。



「ローク様、報せをもたらした王宮術師が来ているのですが」


「通せ」


「失礼いたします。ご無沙汰しております、王太子殿下」



 執務室に現れたのは、かつての上司である水術師長のホーマー様と副官のリオン・スウェーン様だった。



「ホーマー様とリオン様!?」


「イシュカ……本当にここにいたのだな。久しぶりだな」


「……ご無沙汰しております。ホーマー様。それにリオン様も」


「元気そうで何よりだ、イシュカ」



 二人とも私に笑いかけてくれるが、私はというと驚きを隠せないまま、慌てて挨拶をした。



「どうしてお二人がここへ?」


「私がリオンにお願いしていたのですよ。何かあれば報告するようにと。王宮からの使者で信用できる者は少ないですから」



 メルヴィン様がこともなげに言うから、私はさらに驚いた。

 リオン様は上位貴族だと知っていたけど、まさかメルヴィン様とつながっているとは思わなかった。



「積もる話もあるでしょうが……まずはリオン。殿下に報告を」


「はい、メルヴィン様。王太子殿下に申し上げます。十日ほど前に国王陛下が倒れられ、王宮医より疫病が原因だと診断されました」


「陛下は疫病にかかられたのか」


「はい。治療は続いておりましたが芳しくなく……。ですが、あるポーションが陛下の病状を快方に向かわせました。そのポーションは舟運で王都に運ばれてきた、カスタリア産のポーションです」



 リオン様がそう言うと、ちらりと私を見た。

 その視線につられてか、執務室にいる人たちの視線が一斉に向けられた。



「それはイシュカのポーションだな」


「やはりイシュカの作ったポーションだったのですね。ホーマー様が王宮医に提案し、陛下に許可を得て一度だけ使用しました」


「イシュカよ、君は本当に良いポーションを作る。宰相閣下による王宮追放を止められなかったことが、本当に悔やまれるよ。イシュカ、本当にすまなかった」



 ホーマー様にしみじみと言われた後、頭を下げられたので慌てた。



「ホーマー様、頭を上げてください。王宮追放はホーマー様のせいではないのですから。それにあのことがあったから、私はここへ来てローク様のお手伝いができましたし、新しいポーションを作ることができたのです」


「イ、イシュカ……まさか、殿下のことをそのように呼んでおるのか?」



 あ、しまった。

 ホーマー様が顔を青くしている。

 王太子であるロークをそのように呼ぶようになった経緯を知らないなら、不敬を働いていると思うだろう。



「水術師長、イシュカにそう呼ぶように俺が許している」



 すっと私の隣に移動してきたロークが、私の肩を抱いた。

 そんな様子をホーマー様とリオン様が見て、目を丸くしていた。



「イシュカがいなければ、陛下……いや父上の病状も回復しなかった。イシュカ、ありがとう」


「少しでもお役に立てなら良かったです」



 しばらく厳しい表情だったロークが、少し表情を緩めた。

 お体の弱い国王陛下をロークは気にかけていたから、少しでも安心してくれたのかもしれない。



「それで陛下が快方に向かわれたなら、イシュカのポーションを継続しているということか?」


「いえ、それが……使用は一度のみです」


「一度だけだと? どういうことだ」


「それは私から説明させてください」



 ロークの厳しい声音に、ホーマー様が一歩進み出た。



「国王陛下への治療のために、イシュカのポーションの継続を進めておりましたが、宰相閣下から停止命令が下り、あえなく断念せざるを得ませんでした」


「オズウェン公爵か。理由は何と?」


「……辺境の、片田舎のポーションなど信用できない、と」


「宰相が言いそうだな。しかし、王宮術師団でもポーションを作っているのだろう? そちらは使っていないのか?」


「……王宮のポーションに問題があります」



 問題がある!?

 ホーマー様の言葉に私は目を丸くした。

 王宮のポーションと言えば、水術師が作っているものだ。

 つまり、国が認めている効果のあるポーションを意味する。

 私が王宮術師団を去らざるを得なかった後、一体何が起きているの?



「実はこのことが、今回私が直接王太子殿下のもとへ伺った理由でございます」


「それはなんだ? ポーションは誰が作っているのだ」


「ポーションを作っているのは、水術師のヘンリエッタ・バントンという者です」


「その者を任じた理由は?」


「優秀な人物ですが、殿下の婚約者であられるシャーロット様と懇意にしている者で、宰相閣下からも期待をかけられておりました」


「オズウェン公爵の息がかかった者か。それで問題とは何だ?」










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