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51 千年ぶり!?最後の聖女と遭遇だ

 私の前にロークが飛び出した。

 ロークの体にムチが巻きつく。

 ロークの動きを封じたムチが上空へ向けてしなった。



「わあああああああっ!!」




 ロークが絶叫する。

 上空に放り投げられたロークの体が、今度は一気に腐敗した泉に叩き落された。

 激しく水音が鳴り、ロークがムチによって泉に引きずり込まれていった。



「ローク!!」



 助けなきゃ!

 迷うことなく私は泉に飛び込んだ。

 すぐさま詠唱する。



水中泡沫(アクアバブル)



 私の周りに空気が生まれる。

 これで水の中でも動ける!

 泉の奥へと引きずられるロークを懸命に追いかけた。

 ローク……! このままでは……っ。

 ぎりっ、と奥歯を噛みしめた。



 ロークを助けたい。

 ロークを失いたくない!

 ロークを失うのが……怖い。



 だって、だって……!




 私はロークのことが……好きだから。




 認めたとたん、心臓がぎゅっとなった。


 認めることが怖かった。

 傷つきたくなかった。

 だって、ロークは王太子で、一緒にはなれないから。



 彼は、好きになってはいけない人。



 けれど、生きていてほしい。


 笑っていてほしい。



 彼が王として君臨する国は、きっと幸せだ。

 ……たとえ、私は近くにいられなくても。



 自分の命を犠牲にしても、ロークだけは助けなければ。

 あと、もうちょっと……っ。

 腕を限界まで伸ばし、やっとロークに触れられた。

 ロークの腕をつかんで、私がまとう空気の層をすべてロークに渡そうとした。



『そこにいるのはだあれ?』



 ふいに声が聞こえた。

 その時、泉の奥底からまばゆい光があふれた。



『あらら、久しぶりに人を見たわ。こちらへいらっしゃい』



 柔らかな声が誘う。

 だ、誰なの!?

 光が強引に私たちを包んで引っ張った。






 ここは、一体どこ……?

 光の壁が周りにあって……いや、光の球体の中にいるという方が正しいかもしれない。

 しかもここは空気もあるし、水の抵抗もない。

 私たち、泉の中にいて溺れかけていたわよね?

 倒れこんだ体勢になっていたことに気づき、むくりと起き上がった。



『大丈夫だったかしら? そちらの男性は、意識はある?』



 そうだったわ!

 私の傍で倒れているロークの脈を確認する。

 ……よかった、生きてる。

 ほっとしたと同時に、はっと息を飲んだ。

 私に話しかけたのは、誰?

 私はロークを背後にかばって、声がした方に向きを変えた。



『よかった、生きているみたい、って……あらあら、警戒されているのね』



 いつでも術を発動できるようにかまえたけれど、そこにいたのは巫女が着るような白のローブをまとった女性だった。

 え、こんなところに……人!?



「あの、あなたは一体……」


『わたくしは聖女カノン。こうやって人と話すのは千年ぶりかしら』


「へ!?」



 聖女カノン!? って、あの聖女カノン?

 スクルドとウルズが教えてくれた、水の国デルフィの聖女のこと?

 いにしえの時代の人ではなかったのか。

 何でこんなところにいるの!?

 目を丸くしていると、私に向ってにっこりと微笑んだ。



『わたくしのことを知っているのね?』


「は、はい。あの、私はイシュカ・セレーネと申します。あなたのことは、竜神のスクルドとウルズから伺っています」


『スクルドとウルズから!? 久しぶりに聞いたわ、二人の名前を。竜神たちは元気にしているかしら?』


「えっと、元気ですし、泉の上で竜神ヴェルザンディ様を相手に戦っていると思います」


『まあ、兄弟げんかね!』



 竜神の状態を元気という言葉で表すのもどうかと思ったけれど、カノンの兄弟げんかという表現もどうかしていると思う。

 この人、いにしえの時代の最後の聖女で、悲しい最後を遂げたイメージがあるんだけど。

 なんだかイメージが違う。



「あの、あなたは本当に聖女カノン様なのでしょうか? いにしえの時代の方だと聞いていますが……」


『ええ、そうね。わたくしの肉体はとうに朽ち果てているわ。今の姿は霊体といわれる姿なの。だから、あなたはわたくしには触れられないわ。触ってみる?』



 そう言われて、好奇心のままカノンの体に触れようとした。



「あれ!? ホントだわ、透けてしまう……」



 そこに見えているのに、まったく触れられない。



『霊体だということがわかったかしら』


「は、はい。でもカノン様は天に召されず、どうしてこんなところに……」


『カノンでいいわ、イシュカ。……まあ、いわゆる監禁みたいな感じね』


「か、監禁!?」



 え、竜神ヴェルザンディって、ヤンデレなの!?

 美少年然としているのに……。



『カスタリアが大洪水に見舞われたことは知っているかしら? ヴェルザンディはその時からあらゆるものが信じられなくなって……ヴェルザンディの泉がその時からゆっくり腐敗が進んでいったの』


「腐敗が進む?」


『水には状況を記憶する性質があることを知っているかしら?』


「はい。スクルドが教えてくれました」


『それならわかると思うけれど、水はその場所その場所で成分が違う。それは水がその成分を記憶しているからなのよ。そして記憶するのは、人間の感情などのエネルギーも記憶することができるの』


「感情もですか!?」


『そう。ヴェルザンディの泉は、カスタリアの大洪水が起きた時代での悲しみや苦しみから、二年前に起きたデルフィ地方の戦での恐怖や不安まで、負の感情を刻々と記憶しているわ。泉の腐敗は進み、ヴェルザンディの正気を奪っていったわ』



 そんなことが……。

 泉の腐敗がまさかそういう理由が原因だなんて思ってもみなかった。







お読みいただきありがとうございます(^^)


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