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46 大洪水。水に沈んだカスタリア

「全員無事だな。過酷な状況の中、よくがんばってくれた。誰も命を落とさなかったことは僥倖だった。

 それもここにいるイシュカのおかげだ。そして、見えていると思うが竜神たちの助けがあったからこそだ」



 ロークが私を立ててくれるが、私は首を横に振った。



「竜神たちはともかく、私はお手伝いをさせていただいたまでです。命を落とさず無事であったこと、あなた方の勇敢さを誇りに思います」


「イシュカ……」


「怪我をされている方はいらっしゃいますか? 私が治療します」



 くるりと周りを見渡し申し出たのだけど、眉根を寄せたロークが止めに入った。



「ちょっと待って。イシュカ、かなり力を使ったから疲れているんじゃ……」



 確かにかなり力を使っている。

 力を使いすぎれば、私が倒れてしまう可能性がでてきてしまう。

 けれど、みんなをこのままにはしておけない。



『イシュカ、僕たちがまた力を貸そう』


『それくらいはお安い御用じゃ……何せ妾たちの責任もあるからの』



 妾たちの責任って……どういうことかしら?

 ありがたい申し出の中に、不穏な気配を感じさせるウルズのつぶやきに眉をひそめた。

 今回の大雨と何か関係があるというのかしら?



『イシュカ、唱えよ』



 じっとウルズを見つめると、微笑みで返された。

 今は言うつもりはないらしい。

 私はウルズに促されて、水術を詠唱しみんなに向って解き放った。



回復水流(ヒールストリーム)



 スクルドとウルズの力を借りれば力を消費させることなく、すんなりと全員を回復させることができた。

 良かったとホッとしたのもつかの間、さらに驚いた作業員たちから聖女コールが起こってしまった。

 あの、恥ずかしいのでやめてほしいです……。





 ◆ ◆ ◆





「ウルズ、そろそろ話してくれてもいいんじゃないかしら?」



 城の温室近くの中庭の四阿で、優雅に寛ぐウルズに切り出した。

 救助が無事に終わり、ロークたちとともに城へ戻ってきた。

 みんなが無事に戻ってきたことをナンシー様は喜び、手を貸してくれた竜神たちに、ナンシー様お手製の花々を振舞われた。

 竜神たちはほくほく顔で堪能していたけれど、竜神たちの傍にいた私はそれどころではなかった。



 ――何せ妾たちの責任もあるからの



 私はウルズの言葉に引っかかりを覚えていて、その真相が気になって仕方がなかった。



『まあ、そうカリカリするな。ストレスはお肌の天敵じゃぞ?』


「そのストレスの原因は誰なのよ?」


『話したくないわけじゃないぞ?』



 ウルズがふうとため息をついた。



「ウルズがあの時言ってた言葉が気になってたの。あなたたちの責任ってどういうこと? 今回の大雨やアケロース川の氾濫と何か関係があるの?」



 矢継ぎ早に聞けば、隣のスクルドが苦笑した。



『落ち着けイシュカ。僕が話すよ。そろそろイシュカにも話さなくてはならないと思っていたからな』


「それは俺も聞いても良いかな、スクルド?」



 声がした方を振り向けば、ロークが四阿に近づいてきた。

 仕事があると執務室に行ったはずだけど。



「ローク。こんなところに来て大丈夫なの? 仕事があったんじゃ……」


「それもあるんだが……今回の氾濫について竜神たちの意見を聞きたいと思っていたんだ。どうにも気になってしまって。ここを通りかかったら、ちょうどイシュカたちの話声が聞こえたからね。声をかけさせてもらったんだよ」



 ロークも今回のことが気になっていたのね。

 スクルドはロークを見て、こくりと頷いた。



『いいよ、王太子。お前も聞きなよ』


「ありがとう、スクルド」


『今回のアケロース川の氾濫は……あれらの原因は僕らの弟ヴェルザンディの仕業だ』


「え!?」



 僕らの弟のヴェルザンディ……って、つまり竜神!?



『氾濫が起こったアケロース川はヴェルザンディの管轄にある森にある泉が源流点だ。そこを起点として水を操る。ヴェルザンディの方が水を操縦する力は僕よりも上だ』


「水を操る……」


『水はすべてつながっておるから、雨を降らすこともできるんじゃ。水は弟の力に共鳴して、威力をいかようにも変えられるんじゃよ』


「じゃあ、今までも土砂降りの雨は……」


『ヴェルザンディの力だな』


「竜神ヴェルザンディ様の力が原因……」



 思わず眉根を寄せてしまう。



「でも、竜神としてカスタリアの地を守っているのでしょう? スクルドとウルズと同じように、カスタリアの繁栄を望んでいるんじゃ……」


『ヴェルザンディはカスタリアが王都であった頃のような繫栄を望んでいないよ。そして人を信じず……この地を憎んでいる』



 まさかの言葉に私はごくりと息を飲んだ。

 憎んでいるだなんて……。

 基本的には穏やかなスクルドとウルズからでは想像できない感情だ。



「カスタリアを憎んでいるとはどういうことだ? 竜神ヴェルザンディに何があった……?」



 これまで静かに聞いていたロークが口を開いた。



『水の国デルフィが今現在存在しないということは、滅んでいるということがわかるな?』


「ああ」


『国が滅んだのはヴェルザンディが原因だ。王都カスタリアを大洪水で沈め、その歴史を終わらせた』


「王都カスタリアを大洪水で沈めた……!?」



 私は目を瞠って、伏し目がちに話したスクルドを見つめた。

 確かに今のカスタリアは、まさか王都があったとは思えないくらい面影がない。

 華やかなランドリック王国の王都と比べて、のんびりとした辺境の地の町だ。

 この地が水に沈んでいたなんて。






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