45 竜神の力を借りて放つ術
二人の竜神が視線を合わすと、竜神たちの体がきらきらと青白く輝く。
二人の竜神が腕を高く掲げ、力強く振り下ろした。
その瞬間、青白い光が私の全身を包みこむ。
「何、これ……魔力がみなぎってくる……」
『イシュカ、もう一度水術を唱えろ』
スクルドに促されて、すばやく詠唱した。
「水圧砲撃!!」
グググガガガアアアアッッッッッッ
私の腕から巨大な水の渦が生まれ、荒れ狂う川を横断した。
水の渦は高い壁となり濁流を防ぐ。
アケロース川の流れが自然の摂理に反して止まった。
さらに勢いが止まらない水の渦は、空に向かって突き進み分厚い雲を突き破った。
雲が霧散し青空が見え、柔らかな光が射しこむ。
「すごいわ……水術の威力が数倍にも上がっているなんて」
こんな水術なんて見たことがない。
自ら生み出した術だけれど、あまりの凄さに呆然としてしまった。
『これであれば、十分に救助ができるじゃろう』
「ありがとう。これでみんなを助けられる」
中州に視線を移すとローク達の先導のもと、取り残されていた人たちが安全に救出されていた。
残り一人が川岸に無事避難できたところで、私は術を解いた。
たちまち川が自然な姿に戻る。先ほどと同じように、濁流が勢いよく流れていく。
けれども空は曇天が消え去り、気持ちの良い青空が広がっていた。もう大雨は心配ないだろう。
「間一髪だったわ。スクルド、ウルズ、ありがとう」
『よくやった、イシュカ』
『妾も役に立てて良かったわい』
互いに微笑み合っていると、ふと多くの視線を感じて振り向いた。
ここにいたニコラス閣下と作業員たちが、目を丸くして私たちを見ていた。
「イシュカ嬢、感謝する。ありがとう。しかし、こんなすごい術を使えるとは」
「しかも竜神様まで降臨するなんて……」
「竜神様から加護を受けられている方っていたんだな」
「もしかしてこの方は伝説の……聖女様では!?」
「せ、聖女!?」
聖女に向き合い始めたけれど、私はまだまだ、ただの水術師ですからね!?
けれど、私を見る目がキラキラしている。
「イシュカ!」
そんな中、名前を呼ばれて振り返るとロークが駆け寄ってきた。
そして勢いそのままに、ぎゅっと強く抱きしめられた。
「え、ローク!?」
「良かった、無事で………突然ここに現れたから心配した」
私の肩に顔を埋めたロークの声が少し震えていた。
ロークのこんな声、初めて聞いた。
「急に来てごめんなさい。居ても立っても居られなくて……」
「こんなところに来るなんて危ないだろう? でも、正直助かった」
ロークが顔を上げて、私の額に自分の額をこつんと合わせた。
「全員を助けられたのはイシュカのおかげだ。正直少し難しいかもしれないと思っていたから……ありがとう」
少し眉根を下げたロークが弱々しく笑った。
思っていた以上に過酷な状況だったのかもしれない。
でも、こういう状況で大事なのはやっぱり心だ。
「この地の領主であり王太子であるロークが応援に来ていたから、みんな頑張れたんだと思うわ。こういう時に大切なのは心だと思うの。みんなの心を支えたのはあなただわ。きっとあなたのやるべきことなのね」
「イシュカ、君って人は……」
安心させるように笑ってみせると、さらにきつく抱きしめられた。
ロークと視線が合うと、ふわりと甘く微笑まれる。
とたんに心臓の奥の方がきゅんとなった。
『いつまでそうしているつもりだ、二人とも』
はっとして気づけば、呆れた顔をしているスクルドがいた。
「スクルド、ウルズ。ありがとう。本当に助かった」
『かまわない。それがイシュカの願いだったからね』
『カスタリアの民が無事であったことは、妾たちも喜ばしいことだ。二人が力を合わせている姿は、まるで聖女と賢王のようだったぞ』
「聖女と賢王か。そう見えるんだったらこれほど嬉しいことはないね。俺たちもそうありたいと思わないかい、イシュカ?」
「そ、そ、そ、そうありたいって……!」
『王太子よ。お前、隠さなくなってきたな?』
ロークの態度にあたふたしていると、ぽかんと口を開けた作業員たちが目に入った。
「す、すごい……」
「おれたちには何も聞こえないが、お二人は竜神様とお話しされているのか」
「とんでもない方々だ……」
「それにしてもお似合いのお二人だな」
「ああ。きっと竜神様も祝福されているのだろうな」
う、うそ! みんなの前でロークと抱き合ってしまっているわ!
それに、お、お似合いの二人って……!
とたんに恥ずかしくなって、離れようと慌ててロークの胸を押したけれど、腰を引き寄せられ深く抱き込まれた。
「ロ、ローク?」
「お願い。もう少しこのままでもいい?」
「良いわけないでしょう。離れてください、ローク様」
「オレたちもイシュカに労われたいところですが」
すたすたとやってきたのはメルヴィン様とグレッグだ。
今度こそロークの胸を押してぱっと離れる。
は、恥ずかしい……二人にもずっと見られていたのかしら。
「お二人とも救助作業、お疲れ様です。ご無事で何よりです」
「ありがとう、イシュカ」
「ありがとうございます、イシュカ。イシュカの労いが一番心に響きますよ。さてローク様、そろそろ領主としての仕事をしましょうか?」
「わかっている」
メルヴィン様の容赦ない指摘にロークは苦笑いをし、作業員たちに向き直った。
お読みいただきありがとうございます(^^)
ブックマークや↓の☆☆☆☆☆の評価を押して応援していただけるとうれしいです。励みになります。
どうぞよろしくお願いいたします。




