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43 ポーションを作った者の正体は?

「本当にどこで手に入れたのだ? あれはイシュカのポーションに似ているのだが……」



 ヘンリエッタの出て行った扉をみつめて、私はため息をついた。

 水術師長として、彼女とはポーションのことできちんと話をしておきたかったのだが。

 彼女が何かをしていることはわかっていた。

 だが彼女の背後にはオズウェン公爵家がいるため、様子を伺っていただけにすぎない。



「ちゃんと話をできたかはあやしいがな……」



 そうひとりごとを言って、執務机の椅子を引き深く腰かけた。

 そして、引き出しの奥からポーションを取り出す。

 これはヘンリエッタが持っていた疫病を治癒する不思議なポーションだ。

 疫病に対する治癒の力が強く、毒性が強くなっても効果があった。

 申し訳ないがこれをヘンリエッタが作ったとは考えにくい。

 彼女は確かに優秀だが、それは一般的な規格の中での話だ。

 世の中には規格外がいる。それがイシュカだった。


 イシュカ・セレーネとヘンリエッタ・バントンは同期だ。

 王宮術師団の入団テストでは、成績のトップはヘンリエッタだった。しかし、成長スピードが異様に早かったのがイシュカだ。

 持って生まれた術力の保有量は膨大な上、ひとたび水術を発動すれば力強い水術が展開される。彼女だけしか使えない水術すらある。

 それに加えて、水術師にとって特に必要な水質鑑定というスキルが、水術師の中で最も能力が高かったのだ。すべてにおいて、水術師長である私すら超えている。

 疫病対策のためのポーション作りをまかせるのは自然の流れだった。



「ホーマー様、お戻りになっていたのですか」



 目を向けると、副官であるリオン・スウェーンがこの研究室に入って来た。



「さきほど、ヘンリエッタとすれ違いましたが……何かありましたか?」


「……ああ。あのポーションのことでな」


「とうとう聞かれたのですね。それでヘンリエッタは何と?」


「自分で作ったと主張していたよ」


「そうですか。残念ですが、言質は取れましたね。ホーマー様、これを」



 机の上に差し出された書類を手に取った。

 そこに書かれているのは、ヘンリエッタが作ったポーションの成分解析のことだ。



「水質鑑定で確認し、確かに彼女が作ったのかもしれませんが、彼女のオリジナルではないと断定できました。それよりも大変なことが……ヘンリエッタは王宮の禁忌をおかして、加護の泉の水を使用しておりました」


「加護の泉の水を……!?」


「はい。加護の泉は王宮を守る結界の一つであり、それを使うことは禁じられています。ヘンリエッタもわかっているはずです」


「なぜそんなことを……」


「衛兵への聞き込みで、加護の泉へ近づいたのはシャーロット様だと判明いたしました。オズウェン公爵家の権力を使って、衛兵たちを加護の泉から一定時間引き離したようです。その時に水を採取されたかと」



 書類を確認すると水を採取した時期とヘンリエッタがポーションを作った時期が一致する。

 これでわかったことは、どこからか手に入れたポーションをヘンリエッタが作ったものだとし、そのポーションの在庫が減った辺りから、ヘンリエッタがそのポーションをまねて作りはじめたということだ。



「ヘンリエッタが作ったポーションは、毒性が強くなる前は効果がありましたからね。今の疫病には効果はありませんが」


「ふむ、加護の泉の効果だったか」



 神聖な水のため水質はわかっていても、王宮の水術師とてこういった使い方をしたことがない。

 しかしその水を持ってしても、ヘンリエッタがどこからか手に入れたポーションの力は強い。

 それこそ神力を感じるほどだ。一体どこの水なのか。

 それにイシュカのポーションのくせに似ている。

 王宮追放された彼女はどうしているのだろうか。



「まったく、国王陛下のお体が弱いことをいいことに、オズウェン公爵家はやりたい放題ですね」


「しかしオズウェン公爵家の権力を使ったからと言っても、シャーロット様は派手な動きをしていると思うのだが、どこからか指摘はされなかったのか?」


「それはないですね。オズウェン公爵家はどこから手に入れたのか、良く効くポーションを貴族たちに優先的に販売しましたからね。すでに懐柔済みですよ」



 リオンが苦笑交じりに答えた。

 彼も貴族階級の人間だ。そう言った情報を耳にすることがあるのだろう。



「王都の経済状況が悪化していても、ポーションで健康が守れる上、自分たちの権力は脅かされない。プライドの高い貴族たちはオズウェン公爵家に付き従うでしょう」



 政治経済を司る貴族たちがこんなことでいいのだろうか。思わず溜息が零れた。

 水術師長と言っても王宮術師であるため、政治に直接関わることはない。

 けれどもこの国の行く末を案じ、良い方向へ行くことを願っている。




「王都はこんな状況ですが、王太子殿下の領地であるカスタリアが活気づいていると評判のようですよ」


「カスタリアが?」


「カスタリアは王都と違って、国がこんな状況でも民は豊かに暮らし、経済状況も右肩上がりのようです」


「それはすばらしい。王太子殿下が努力をなされているのだな。それに比べて婚約者筆頭のシャーロット様は……」


「殿下の婚約者の座もオズウェン公爵家が強引に進めようとしていますが、殿下も陛下のことを案じ、よく我慢なさっていると思います」


「殿下が目に見える成果を上げ続ければ、流れが変わるのかもしれないな。できれば、殿下にふさわしい女性が隣に立ってくださればこの国も安泰なのだがな」


「ええ。本当に」


「しかし、カスタリアが活気づいたのはなぜだ? あそこは辺境の地で、特に何かがあるというわけではないと思うのだが……」


「殿下がカスタリアに温泉施設を作ったそうです。なんでも、病を抱えた者が温泉に入ると治癒されて帰ってくるらしいです」


「それは興味深い温泉だな」


「その話が広がり、王都の民がわざわざカスタリアへ訪れているとか。それとここ最近の話ですが、毒性が強くなった疫病を治すポーションが手に入るようです」


「そんなポーションがカスタリアにあるだと……?」



 目を丸くした私に、リオンはこくりとうなづいた。

 もしや、ポーションの出どころはカスタリアではないのか?

 病を治癒してしまう不思議な温泉があり、王太子殿下が采配を揮っている。

 神力を感じるほどのポーションが作られたのが、不思議な温泉のあるカスタリアだったとしたら納得できる。

 それに何より、イシュカのポーションのくせに似ているのだ。



「まさか……イシュカがカスタリアにいるのか?」


「私もその可能性を考えておりました。あのポーションを作ったのがイシュカであれば納得できます。レベル違いのポーションを作れるのは、この国にはイシュカしかいません」


「ああ、そうだ。イシュカはポーションでいつもこの国の民を救っていた。カスタリアで同じことをしていても不思議ではない」


「ええ。私もそう思います。彼女はいつも真っ直ぐでしたから」


「ああ、そうだな。リオン、イシュカに会いに行こうと思う。会える可能性があるのならそれにかけるべきだ」


「私もそう思います。彼女は追放されていい人間ではない。この国にはイシュカが必要です。私もお手伝いします」



 互いに顔を見合わせて、こくりとうなづいた。







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