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41 すばらしいアケロース川の活用案

 毒性が強くなってから死者が増えているようだと、王都からもたらされた報告で気になっていたのだ。

 それに疫病のせいで物資も滞っているようだし、王都の経済が停滞し始めているとも聞いている。




「イシュカの新しいポーションができたんだ。少しでもカスタリアに来て治療できる人が増えればいいのだが……」



 けれども、疫病のせいで健康に働ける民が少なくなってきている。

 当然、わざわざ辺境の地であるカスタリアに足を運べる者も少ないだろう。

 王都の経済が落ち込めば、国全体に影響が及んでくる。

 宰相たちはそれが分からないわけではないはずなのに、一体何をしているんだ。

 ……俺が王宮で力を持っていれば。

 歯がゆい思いに、ぐっと奥歯を噛みしめた。



「ねえ、ローク。ポーションをアケロース川を活用して運べないかしら?」


「アケロース川を? ……舟運か!」



 俺は目を瞠った。

 イシュカのアイデアはとてもいい。



「お父様が王宮の運輸局で補佐官をやっているのだけど、舟運を担当しているの。それで家でもその話をよく聞いていたから、アケロース川も活用できないかなと思って」


「なるほど。アケロース川は王都の近くを流れる川に合流するな。船で川を下って運べれば王都までの運搬はかなり楽だ」


「ポーションだけじゃなくてシノレス村で採れた野菜も運べたら、王都の人たちも健康になるんじゃないかしら」



 辺境の地であるカスタリアから王都へ物資を運ぶ手段は馬車が一般的だ。

 しかし、どうしても時間がかかるのが難点だ。

 その点、舟運であればかなりの時間短縮が見込める。

 物資を運ぶ船や運びたい地点に河港を建設し物流の拠点を造る必要があるが、カスタリアの財政は潤い始めているから費用の問題はクリアできるだろう。

 ポーションや農産物で国民の健康が守れる上、販売ルートが確立できればカスタリアの財政はますます潤う。



「イシュカ、すばらしいアイデアだね」


「ホント?」


「カスタリアには舟運をするために必要な船や河港はないが、造ってしまえば問題ない。むしろ水資源が豊富なんだ。積極的にやっていくべきだったな。すぐに取り掛かろう」


「それがいいと思う。カスタリアの人たちは疫病から守れるけれど、王都の人たちにも苦しんでほしくないもの。水術師としてずっとポーションを作ってきたから」


「そうだね。ありがとう、イシュカ。王都でもカスタリアでも君に助けられてばかりだ」


「ううん。それは私の方よ。ロークには王宮を追放された時に助けてもらっただけじゃなく、ここで水術師として働かせてもらっているもの。感謝してもし足りないくらいよ。だから、私にできることがあれば何でも言ってほしい。私、頑張るから」



 イシュカは俺を見てにこっと微笑んだ。

 簡単に俺にそんなこと言ってもいいのかな。

 俺は無防備なイシュカをさっと抱き上げると、膝の上に横抱きで乗せた。

 驚いて固まったイシュカの耳元に囁く。



「じゃあ、賢王を目指す俺の隣に立ってほしいな。賢王の隣には聖女が必要だと思うんだ。これはイシュカにしかできないと思うんだけど、どうかな?」



 至近距離でじっと見つめれば、みるみるうちにイシュカが顔を真っ赤にして、俺の上から逃げようとしたががっちりと腕で拘束する。

 本当にかわいいんだから。

 しかし、そのかわいさを俺だけのものにしたいのに、イシュカの魅力に気がついた者がなんと二人もいる。

 俺はイシュカの手を取り指先に口づけた。



「消毒だよ」


「え、ちょ……!?」


「パーティーの時にされていたね?」


「み、見ていたの……?」


「俺が目を離した隙にこんなことになるなんて……イシュカが魅力的すぎるのが悪い」


「いやいやいや、魅力的過ぎるって何!?」



 イシュカがあたふたている時、唐突にバンッ、と激しく扉が開いた。



「日も暮れた時間だと言うのに、イシュカを連れ込むなんてどういう了見ですか、ローク様?」


「膝に乗せるなんて……すぐに離れてもらいましょうか。オレはあなたを切りたくない」


「おいおい。物騒だな、グレッグ」



 勝手知ったる執務室にずかずかと入ってきたのは、眉をひそめた俺の側近たちだ。

 イシュカと良い感じだったのに、勘の良い奴らだ。

 しかし、二人が入ってきたことに一番狼狽えたのはイシュカだったようで、一気に捲し立てる。



「ええっとね、連れ込まれたわけじゃなくて! 私が良かれと思って食事を持ってきたんです。それでちょっと食事の量が多かったから、一緒に食べていただけなんです。ホントですよ!」


「だったら、この状況はなんですか」


「こ、これは……そ、そうだわ!」



 イシュカはぱっとテーブルに手を伸ばし、デザートの一つとして用意されたクッキーを一枚つまんだ。

 そのまま俺の口元にクッキーを差し出す。



「あ、あーん?」



 反射的にぱくりと食べた。なんならイシュカの指も少し食べてしまった。

 この甘さはただのクッキーの甘さじゃない。

 ヤバい。それはもう色々と。

 もうイシュカは……俺にどうなってほしいんだ。

 食べさせてもらったことが僥倖過ぎて、熱くなった頬を隠すように片手で顔を覆った。



「ほ、ほら! 食事中だったでしょう!」



 イシュカは慌てて膝から降りて、なんでもないことをアピールする。

 そんなことをアピールしても、今の状況に衝撃を受けた二人に通じるわけがない。

 嫉妬のような視線を向けられたが、俺は今それどころじゃない。



「あ、グレッグとメルヴィン様がここに来たってことはお仕事ですよね? 私がいたらお邪魔でしょうから失礼しますね!」



 恥ずかしさを笑ってごまかしながら、イシュカはあたふたと執務室から出て行く。

 かわいすぎるだろう。

 残されたのはイシュカを想う男三人で。

 それなりの地位があるにも関わらず、幼馴染みの気安さで互いに牽制しあっていた。






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