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37 竜神の泉で農地改革だ!

「はあ!? アンタが王太子だって!?」



 ロークが頬をかきつつにこりと笑えば、ジャンはあごが外れるくらい口をぱかりと開けた。

 そうよね、びっくりするわよね。あの時、偽名を使っていたし。

 ウルズの泉へ訪れてから一週間ほど経った。

 私とロークはメルヴィン様を伴って、再びシノレス村を訪れていた。



「ジャン、お前ローク様に会っておったのか!?」



 驚いた声を出したのは、ジャンの隣にいる村長さん。

 ジャンのお父様だと紹介された。

 村長さんの屋敷の応接室で、私たちは向かい合っていた。



「そうなんだよ、親父。以前この村に立ち寄られたんだ。その時は身分を隠しておいでで……」


「驚かせてすまない」


「い、いや! 滅相もございません」


「俺としては前回の時のようにフランクに話してもらえる方が助かるんだが」


「え、えっと……」


「ローク様は戦にも出て、兵士と割とフランクに話していたんですよ。不敬にはなりませんから、安心してくださっていいですよ」


「ああ! カスタリアの雷火(いかずち)!」



 メルヴィン様の言葉にジャンが反応した。

 やっぱりランドリックの国民にはこの二つ名が浸透している。私も同じように言ったもの。

 ロークがいかに国民に人気があるか、よくわかる。



「そういうことなら……前回みたいに話すよ。ローク様はまた何でこの村に?」


「この村で頼みたいことがあって来たんだ」


「頼みたいこと?」


「ああ。単刀直入に言わせてもらう。この村を中心とし、周辺の村とで協力して農地改革をしたい」



 ロークが王者然とした力強い双眸で、ジャンと村長を見た。

 けれど、ジャンは眉をひそめた。



「農地改革!? いや、でも前も言ったが、ここは根腐れをおこしてしまう悪い土だぞ? 収穫が増えるとは思えねえが……」


「それを解決する方法を見つけたんだ」


「え、本当に!? あの時調査に来ていたが、何かわかったってことか!?」



 ジャンが目を丸くして、次にロークのそばに控えていた私を見た。



「はい。わかりました。ヒントはあの不思議な農地だったんです」


「この村の?」


「そうです。水質鑑定をしながら、あの農地に染み出る水を辿ったんです。そうしたら、竜神ウルズの泉とつながっていました」


「竜神様の泉ですか!?」



 息を飲んだのは村長さんだった。



「親父、竜神様の泉ってまさか……」


「そのまさかだ。いにしえから伝わっている伝説の泉のことだ。場所はわからなかったが、この村の近くにあったのか!」


「そうなんです。そこで竜神ウルズと話し合うことができ、泉の力を使わせてもらえることになりました」


「はあ!? 竜神様と話しただって!?」



 ジャンはまたもあごが外れるくらい口をぱかりと開けた。

 村長さんも信じられないと目が言っている。



「えっと、なかなか信じられないですよね。これがウルズからもらった竜神石です」



 私は腕につけたブレスレットを見せた。

 スクルドのアメジストとカナリーダイヤモンドがあり、新たに加わったウルズのアクアマリンが輝いている。

 これで信じてもらえるかしら?



「竜神様と会話ができ、さらには伝説の竜神石を持つとは……。そんなことができるのは、過去に存在した最高峰の魔力を持つ聖女だけだ。もしや、あなたは現代の聖女様では!?」


「いえいえ、私そんな立派な人間ではないですよ」



 くわっと目を見開いた村長さんに言われたけれど、私は首を横に振り苦笑した。



「イシュカはそう言うんだけどね、竜神から聖女と認められているんだよ」


「もう聖女そのものじゃねえか。ということは、ローク様の言う農地改革はかなり勝算があるってことなんだな?」


「ああ、その通りだ。イシュカも言っていたが、泉の力はあの農地にもたらしていたものと同じだ。だから、すでに扱いを知っているこの村を中心にやってほしい。だから、ジャン、君を責任者としてまかせたい」


「オ、オレ!?」



 ジャンが目を丸くし、息を飲んだ。

 ロークが私たちを連れて、シノレス村に再び訪れた理由がこれだ。

 カスタリアの北の地域を農業地帯に変える。

 それをまかせられるのはジャンだ、とロークが決めたのだ。



「力を貸してほしい。あの農地のことをよく知っているし、俺が正体を明かしても堂々としたふるまいができる。ジャン以外に適任者が思いつかない。どうだろうか?」



 ロークがジャンをじっと見据えた。

 そんなロークのまなざしを受け止めたジャンが、ふっと笑った。



「面白そうじゃねえか。やってやるよ!」


「ありがとう。助かる。ジャンにまかせれば、成功すると思っているよ」


「ああ。まかせろ!」



 ロークが鷹揚にうなづけば、ジャンがドンと胸をひとつ叩き、にっと笑った。

 良かった!

 これでロークが懸念していた食料の問題が解決する方向へ動きそうね。

 私も無意識に口角が上がっていた。



「それで、ローク様はどうやって農地改革を進めるつもりなんだ?」



 メルヴィン、とロークが呼んだ。

 ジャンの疑問に答えるために、メルヴィン様がテーブルに設計図を広げた。



「泉の水を引くために水路を作る予定です。その水路から農地へ水を引けるようにします」


「じゃあ、まずは水路の工事からか」


「そうです。但し見ていただいたらわかると思いますが、現時点では農地をあまり広くしません」


「確かに思ったより狭いな。両隣の村の範囲くらいか。なぜだ?」



 設計図から顔を上げたジャンが、ロークに視線を移した。



「初期は実験の意味も兼ねている。本当にこの計画で行けるのか試したい。それと、市場の価格の暴落を防ぐためだ。収穫が増えすぎると市場価格が下がる。それに伴い売上が減少する。それを避けたいんだ。領民を豊かにしたいからね」


「ローク様……」



 ジャンと村長さんが心を打たれたのか、ジーンとしている。



「ローク様、我が息子をいかようにもお使いください。そして、私も。カスタリアを豊かにするためにお役立てください。あなた様にならついていきたいと存じます」


「ありがとう。そう言ってもらえてうれしい。だが、俺はついてきてくれるよりも、互いに協力しながら一緒にやっていきたいんだ」



 にっこりと笑ったロークに、ジャンと村長さんがさらに感動したのは言うまでもない。






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