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36 陰陽の水でポーション誕生だ

『そうだな。聖女の修行を順調にこなしているからね。イシュカなら扱えるだろう』



 ウルズの泉の水も素晴らしい水だ。

 掛け合わせるとさらにすごいことになりそうだけど、なんだかただ水を混ぜるだけじゃなさそうな気がする。



『イシュカ。お前に新たな竜神の泉の水の使い方を教えるよ』



 スクルドは小さな手を掲げると、自らの水を生み出した。

 それと同時に、ウルズの泉から水が飛び出し、一直線にスクルドに向かう。

 二つの水はやがて交わり、大きな水滴となって私の目の前に揺蕩う。



「スクルド、これは?」


『僕の泉の水とウルズの泉の水を掛け合わせた状態の水だ。つまり陰陽が合わさった状態だな』


「陰陽が合わさった……」


『陰陽が合わさると、単体の水では生まれない新たな力を生み出す』


「どんな力なの?」


『祈りの力を具現化する力だ』



 はっと息を飲んだ。

 そんな力、聞いたことがない。

 祈りの力の具現化、それはつまり想像したことが創造されるということだろう。

 でも、本当にそんなことができるの?

 伝承に登場する神様しか使いこなせない力ではないのだろうか。



『半信半疑という顔だな。祈りの力というのは本来人間なら誰でも持っている力だ。特に誰かのために祈る力は大きな力を得るもの。かつての聖女はこの水と祈りの力を使って、人々の病を治していたんだ』


「すごい……」


『イシュカ、お前にならできるよ。水に祈りを込めれば、祈った通りのポーションが出来上がる。まずはやってみればいい』



 本当にできるのかしら……?

 目の前にある水をじっと見つけて、ごくりとつばを飲み込んだ。



『イシュカ、祈りを込めよ』



 スクルドに言われた通りに、私は水に集中した。

 すると、水の中に渦を巻く水流を感じる。

 その水流を感じながら、作りたいポーションをイメージした。

 作りたいポーションは、ナンシー様の難病に効果があるものだ。

 お世話になっているナンシー様を助けたい。

 治癒の祈りを捧げ、水に込めた。

 すると突然、カッと光があふれて水が激しく揺れる。

 しばらくすると水に紋章のような印が現れた。

 その紋章の周りを水流がぐるりぐるりと回ると、調和がとれたように静かになった。

 再び水滴が私の目の前に揺蕩う。



「できたの……?」


『上手くできたようだな。イシュカ、お前が祈って生まれたポーションだよ』


「これが新しいポーションなのね」


『さっそく持ち帰るがいい』



 こくりと頷いたのはいいけれど、どうやって持って帰ろうかしら……。

 迷っているとロークが近づいてきて、私の手のひらに何かを乗せた。

 手渡されたのはポーションの容器にぴったりの小瓶だ。



「イシュカ、これを。イシュカがポーションを作るかもしれないと思って、数本持ってきていたんだ」


「良かった。助かるわ。ありがとう」


「イシュカ、この水には一体何を祈ったんだい?」


「ナンシー様の病が治るようにって」


「そうか。ナンシーの。ありがとう、イシュカ」



 ロークが優しく微笑んだ。ロークもずっと気にかけていたものね。

 揺蕩う水に小瓶を近づけると、すうっと水が入っていく。

 せっかくだから、ロークの持ってきた数本の小瓶に水を詰めた。

 一本のポーションを掲げて揺らすと、水にある紋章もふるりと揺れた。



「不思議だわ。これでポーションが出来上がるなんて。スクルド、この紋章は何なの?」


『それはお前の祈りの形だな。祈りが変わればその紋章も変わる』


「ということは、紋章は祈りの情報が入っていると思えばいいのかしら?」


『その通りだ。水には記憶する性質があるんだ。その水はお前の祈りという情報を記憶し、その効果が現れるようになっている。体内の水が情報に反応するんだ』


「このポーションはとんでもないな。体内の水が情報に反応して治癒するのか」



 ロークも目を丸くして驚いていた。

 これはとんでもないポーションの作製方法だ。

 まさか情報を与えるだけで、こちらの望んだポーションが出来上がるなんて。

 これまで作ってきたポーションは薬と違い、水の成分を基にしているけれどポーションの効果によっていれる薬草などが変わってくる。

 けれども、このポーションは純粋に水だけで作られている。

 ただの水だから、ポーションや薬の相性を考えなくてもいいことになるし、欲しい効果が得られる。

 水術師の同僚や上司のホーマー様が聞けば、ひっくり返りそうだ。



「たくさん作ることはできるの?」


『もちろん。イシュカが水に祈ればな』


「なるほど。素晴らしいポーションだが唯一欠点を上げるとするなら、イシュカしか作れないということだね」


「そうね」



 二人して苦笑してしまった。

 その点は聖女しかできないらしいから仕方がない。



「でも、これでナンシーの病が治るね」


「うん。早くナンシー様に贈りたいわ」


「それだったら、城でパーティーでも開こうか」


「パーティー?」



 いたずらっぽく少年のような表情で殿下が提案する。



「そう。名目は宿泊施設の開業パーティー。そこで、ウルズの泉の水で育った野菜で料理を提供して招待客の反応を見つつ、サプライズとしてナンシーにポーションを贈るのはどうかな?」


「素敵ね!」



 私は殿下の提案に一も二もなく賛成した。



「ナンシー様、喜んでくれるかしら?」


「きっと喜んでくれるよ」


「ウルズの泉の水で育った野菜で作った料理を振舞うのも素敵。ソニアにも食べてほしかったし、私も食べてみたいし」


「俺も。城の料理人が腕によりをかけて作ってくれると思うよ」



 ふふ、と目を合わせて笑いあった。

 城の料理人さんたちの腕は確かだし、素敵なパーティーになりそうだ。



『ポーションで治癒すれば、彼女も喜ぶだろうな』


「ふふ。スクルドもうれしいのね。ナンシー様に懐いているものね」


『懐いて……!? いやいや、僕は崇拝されているんだぞ!』


「はいはい」


『兄上、他の人間とも交流がおありなのですか……?』


『そうだな。もっと他にもいるぞ』



 ウルズが目を丸くし、それから優しく笑った。



『兄上、楽しそうですな』


『折をみて、ウルズも紹介してやろう』


「結局みんな聞こえないから、私が紹介することになるんだけどね」



 ふんぞり返って偉そうにしているスクルドにツッコめば、ロークもウルズも笑った。



『……あやつもこの二人に出会えば、何か変わるだろうか』



 ウルズが何かを呟いた気がするけど、パーティーに想いを馳せていたせいでわからなかった。








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