32 この農地、豊作なのはどうしてか?
「ああ。イシュカは王宮術師団に所属する水術師だ。土に含まれている水質鑑定をすることで、土の状態を調べることができるんだ」
「おお、水術師か。そんなこともできるんだな。農地の状態をみてもらえるならありがたい。シノレスはカスタリアの中じゃ、根腐れをおこしてしまう悪い土だから」
「やっぱりそうなのですね」
「おかげで作物があんまり育たなくてな。あんたらも見ただろ? 野菜が育っていないのを」
「ええ」
「だから育った野菜が貴重で、この村じゃ野菜泥棒には敏感なんだ」
そうか。
だから、私たちを最初に見た時に険しい表情だったのね。
ジャンの行動に納得だわ。
「シノレスでは自給分の農作物は足りているのか? この状態なら足りていないように思うんだが。必要な分だけ購入しているのか?」
「いや、買ってねえな」
「買っていない?」
私は小首を傾げ、ロークは眉根を寄せた。
「この村の住人の人数であれば、足りるということですか?」
「いや、そうじゃない。せっかく水術師が来てくれたんだ。ぜひ調べてほしいことがあるんだ」
「私に調べてほしいことですか?」
どういうことかしら?
疑問が深まり、頭の中はハテナが飛ぶばかり。
「農地はここだけじゃないんだ。村のはずれにも農地があるんだが、その農地は不思議なんだよ」
「不思議?」
「その農地だけは必ず豊作になる。しかも、成長スピードが早くて収穫を年に三、四回できる」
「え、収穫を複数回できるんですか!?」
思わず大きな声を出してしまった。
だって、信じられない。
二毛作ができる土地はあるけど、それ以上に収穫ができる土地なんて聞いたことがない。
年に三、四回って、どういうことなの?
「そんな農地があるなんて聞いたことがないな」
ロークも半信半疑の状態だ。
そんな私たちにジャンがニヤリと笑った。
「信じられねえのはわかる。見てみないと分からねえと思うしな。案内しよう」
ジャンが村の中心に向かって歩き出した。私たちもその背についていく。
シノレス村は長閑な村だった。
村自体があまり大きくないのか、背の低い民家が一つの場所に集まって建てられている。
村の人がこちらを珍しそうに見るので、ぺこりと頭を下げてあいさつをした。
ジャンは民家が少なくなり林がある方へ進み、やがて通り抜けた。
「ここだ」
ジャンが指さす方へ視線を向けて、息を飲んだ。
「本当にたくさん実ってる……」
うそ……信じられない。
ジャンが言っていた通り、農作物がたくさん実っていた。
小麦や根野菜、葉野菜と様々な野菜が生き生きと育っている。
しかも、収穫が終わったと思われる農地は、再び耕したのか新たな芽が育っていた。
「村の入り口の農地と違う……違い過ぎるわ」
「そう、違い過ぎるんだ。オレたちもなぜかはわからねえ。こんなに育つのはここの農地だけなんだ。説明のしようがねえから、周辺の村には知らせてねえんだ」
「なるほど。道理で俺たちも知らないはずだ」
「知らせるべきだとは思っていたんだが、見ての通りの土地の広さでな」
そうなのだ。この農地はそんなに広くない。
見渡せる範囲にしかなく、しいて言えば、村の住人が自給自足する分には足りると言ったところ。
「ホントに不思議ですね。調べてみてもいいですか?」
「おう。頼むよ」
ジャンの了承を得ると、私は農地の側に立って土に意識を集中した。
「水解析」
水質鑑定のスキルを発動する。
手のひらにほわりと光が集まり、農地へと向けた。
手のひらを介して、土の中の水の情報が集まってくる。
「……この土の中の水の成分には、細胞の力を最大限に引き出す効果がある。成長スピードの上昇、作物の栄養素の最大化、細胞の循環の正常化。スクルドの泉の水も素晴らしかったけれど、この水も私がこれまで鑑定してきた中でもトップクラスだわ」
「水術師はすごいな。そんなにことまでわかるのか!」
「イシュカは水術師の中でも、トップクラスの実力者だからね」
「この水を含んだ土はすごい力を持っているわ。おそらく、ここで育てた野菜を食べた人は病気にならないんじゃないかしら。もし病気になったとしても自然に治癒してしまう。重い病を持っている人なら回復力を高めて完治する可能性が高いわ」
「おー、よくわかるなぁ。シノレスの村は病人が滅多に出ないことで、ちょっと有名なんだ。だがな、原因不明で先祖代々なんだろうと言われている。そうか、この農地の作物のおかげなのか」
村の住人に滅多に病人が出ないなんてすごいことね。
この土に含まれている水の力のおかげだ。
もしかして、病を抱えたナンシー様もシノレス村の野菜を食べ続ければ、回復力がさらに上がってポーションを使えばすぐに治癒するかもしれない。
それに体の弱いソニアだって。
この野菜で基礎体力や回復力が上がって、この村の住人のように病にかかることが滅多になくなるんじゃないだろうか。
そうすればソニア本人も水術師に本当になれるだろし、ご家族のメルヴィン様もきっと安心される。
「ソニアやナンシー様に食べてほしいな」
「そうだね。彼女たちは体のことで悩んでいるから、ちょうどいいね」
「でも、本当に不思議。ここだけなんて」
村の入り口の農地と随分と水の成分が違った。
この狭い農地の範囲内でしか、良い水の影響は受けていないのだろう。
だったら、一体どこからこの水は染み出ているのか。
「この土の中にある水は、どこから染み出ているんだろうな」
「私もそれを考えていたわ」
「イシュカ、水質鑑定でこの水を辿ることはできる?」
「水を辿る?」
なるほど。水を辿るか。ロークの発想は面白い。
そんなことをした水術師は、私を含めてもいないだろう。
確かに水質鑑定のスキルを使えばこの水が、どこから来ているのか分かるかもしれない。
「やったことはないけれど、水質鑑定のスキルを使い続けながらできるかもしれない。やってみるわ」
「ありがとう、イシュカ」
私たちはジャンにいとまを告げて、この水がどこから来ているのか調べることにした。
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