29 新しい泉を探す相談を
「この地には三柱の竜神がいるんですよね? スクルド以外の竜神の泉の水を使うことで、さらに良いポーションを作れたらなと思ったんです」
私が思いついた案はこれだ。
これなら疫病のポーションだけじゃなく、ナンシー様のポーションの糸口も見つかる可能性がある。
「どんな水の成分を持っているのかはわかりませんが、竜神の泉が強力じゃないなんてことはないでしょう。スクルドに相談してみようと思います」
「だったら、俺も一緒に相談させてもらえないだろうか。実は俺もスクルドに相談したいことがあったんだ」
「スクルドにですか?」
「ああ。この話は後で執務室でしたい。時間をもらえるかな、イシュカ」
「わかりました。スクルドにもお願いしておきますね」
「イシュカ、ありがとう。グレッグ、すまないがこの現場を頼む。メルヴィンは俺と一緒に執務室へ」
殿下は手短に指示を出すと、側近二人はかしこまりました、と請け負った。
スクルドに相談って何かしら?
きっと泉と関係があるとは思うんだけど。
私もソニアとステッド先生に後を任せ、殿下とメルヴィン様とともに城に戻った。
温室でナンシー様からお花をもらっていたスクルドと合流し、事情を話した後、殿下たちがいる執務室へ向かった。
『王太子よ、相談とは何だ? イシュカもポーションことで相談してきたんだが』
「スクルド、単刀直入に言うと他の竜神の泉の場所を教えて欲しい」
『他の竜神の泉ねぇ……ふむ』
殿下の言葉に、スクルドはふわふわと宙を浮きながら思案する表情を浮かべた。
『他の泉に行きたい理由は、イシュカはポーションを作りたいのだろう?』
「そうよ」
『では、王太子は?』
「俺はポーションのこともあるが、カスタリアの農業のために泉を活用したいんだ」
『農業だって?』
私が想像していたことと違って、思わず目をぱちくりとさせた。
「今年は温泉施設ができて、徐々に観光客が増えていることもあって食料の消費が早いようなんだ。しばらくすれば宿泊施設もできる。そうなると、どうも食の部分が引っかかってね」
「なるほど。ローク様が気にしておられた問題はそこでしたか。確かに経済は潤うかもしれませんが、領民たちにも食の問題が波及しそうですね」
メルヴィン様が意見を言うと、そうだ、と殿下が同意した。
「農作物は一夜でできるものではないし、先を見据えて手を打っておく必要があると思うんだ」
『だから農業か』
「しかし、ローク様。カスタリアの土地は農作物の収穫量を上げるには、少し難しい土地だったと思いますが……」
「難しいのですか? 水資源が豊富な地域なのに」
顔をしかめたメルヴィン様に、かぶせるように投げかけてしまった。
だって、農作物を育てると言えば土と水だ。
人口の少ないカスタリアは、農地に使える土地には余裕があるはず。
それに水資源が豊富だから、どこを農地にしても育ちそうだけど……。
「水資源が豊富なのが問題なのですよ。南側の平野は昔から農耕地帯になっていて、農業をするのに適しているのですが、平野はあまり面積がありません。北側の山の辺りに農地を広げられればいいのでしょうが、土に水が含まれ過ぎているのです。根腐れを起こしがちなのですよ」
「それで泉の話につながるのですね。これは水がからむ問題だから」
「そうなんだ。他の泉の力がどんなものかはわからないが、可能性をかけたいと思っているんだ」
『そうか。だけど、僕からは教えられない』
あっけらかんと言われて、私と殿下はぽかんと口を開けてしまった。
「お、教えられないとは……」
「ど、どうしてなの?」
『これは聖女の修行としよう。イシュカ、竜神の泉はお前が見つけるんだ』
「へ?」
私が、見つける?
「って、また修行!?」
『そうだ。ちょうどいいだろ? 僕の泉も見つけたんだ。他の泉も見つけられるはずだ』
「簡単に言わないでよ!」
スクルドの泉の時は地図で見つけた近くの泉に行ったけど、結局のところ偶然見つけたようなものだ。
カスタリアにはいくつか泉があるから、それを総当たりで行かなきゃいけないってこと!?
むむむ、と私は眉根を寄せた。それは殿下も一緒だったようで。
「これは総当たりで行くしかないのか。ただそれだと時間がかかるな」
「そうですよね」
「時間は有効に使いたいんだが……イシュカ、ついでに調査を絡めて農地へ赴いてもいいかな?」
「調査ですか。かまいませんが」
「土の成分の調査をしてみたいと思っていたんだ。イシュカが農地の水質鑑定をしに行くならどこに行く?」
「農地の水質鑑定に?」
殿下の質問を反芻する。
水質鑑定は水だけでなく、水を含んでいるものを鑑定することができる。
だから、土の中にある水も鑑定できるのだ。
カスタリアの土は水が含まれ過ぎているということから、土と水のバランスが悪いと言える。
だから土の養分を水が流してしまって、ちゃんと育つことができないのかもしれない。
……そうだわ!
「あの、メルヴィン様。地図を確認させてもらってもいいですか?」
「ええ。どうぞ」
メルヴィン様にお願いすると、すぐにテーブルに地図を広げてくれた。
私はじっとカスタリアの地形を見る。
メルヴィン様の言った通り、南側には農耕地帯がある。
今まではこれで食料が足りたのかもしれないけれど、殿下はそれでは困るって言っているのよね。
北の山の方はぽつぽつと農地があるくらい。
確かに北側に農地を広げられたら、食糧問題は解決しそう。それくらい土地は余っている。
でも、問題は土と水のバランスが悪いということなのよね。
だったら、やりたいことが一つある。
「メルヴィン様、ひとつ聞いてもよろしいでしょうか?」
「何ですか?」
「北側の土地で一番状態の悪い農地はどこでしょうか?」
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