28 盗まれた。ひとつ残らずポーションが……
「きゃああああああ!」
ソニアの悲鳴を聞きつけ、診察室から奥にある倉庫へ走った。
ソニアにはポーションの納品のために、倉庫へ行くことをお願いしたのだ。
「ソニア、どうしたの!?」
倉庫の前で立ち尽くしているソニアが振り向いた。
「イシュカ、大変よ! こ、これ……」
「え……!?」
息を飲んで凝視する。
彼女が指さした倉庫内は空っぽだった。
「うそ……ポーションが、無くなってる……」
なんで、どうしてなの!?
倉庫内へ入り、信じられなくて何度も見回す。
けれど、何度見てもひとつ残らずなくなっていた。
「わたくし、サイモンに伝えてくるわ。ついでに城への連絡も頼みに」
「お願い」
お互い頷き合って、ソニアは診察室へ駆けだした。
スクルドの泉の水で作ったポーションは、城下町の臨時診療所に納品し、ステッド先生から患者さんに処方してもらっていた。
「まだポーションの在庫は二ヶ月分ほどあったはず。誰かに入られた?」
ようやくその考えにたどり着いたとき、ゾッとした。
きっとポーションは盗まれた。
一体誰が……?
怖くなって慌てて倉庫から出て診察室まで戻る。
まさかポーションが盗まれるなんて考えてもみなかった。
スクルドの泉の水で作った思い入れのあるポーションなのに……悔しい。
警戒心が薄かった自分を責める気持ちが、奥底からどんどん湧いてきてしまう。
しばらく待っていると、息を切らせて殿下がやってきた。メルヴィン様とグレッグも一緒だ。
「イシュカ、何があった!?」
「殿下! 大変です。倉庫に保管していたポーションがひとつ残らず無くなっているんです。倉庫には二ヶ月ほどの在庫があったのですが」
「おそらく賊に侵入されたのだろう。すぐに調べる。イシュカはここで待っていて」
殿下が指示をすると、すぐさま側近が倉庫に向かった。
「昨日まではポーションの在庫はあったのか?」
殿下の質問にはステッド先生が答えた。
「はい、ありました。昨日も患者にポーションを処方しましたので」
「それはいつ頃?」
「夕方。診療所の終了時間間際ですね」
「患者の中に怪しい者はいなかったか?」
「いなかったと思いますね。ただ、最近は観光客の診察も行っていたので、自信はないですが……」
ステッド先生はそう言った後、難しい顔をして黙り込んだ。
無理もない。まさか診療所でこんなことが起こるなんて、予想しているはずもないだろうから。
「ローク様」
倉庫に調べに行っていたグレッグが戻ってきた。
「何か分かったか?」
「はい。倉庫の屋根にあった天窓がこじ開けられていました。そこから侵入したと思われます。証拠を見つけにくいように策が講じてありました」
「手慣れているな。やはり賊か」
「おそらく……申し訳ございません。診療所にも防御結界を張っておくべきでした」
「いや、グレッグのせいじゃない。普通は城にしか張らないものだからな」
王宮や貴族の屋敷、領主の住まう城や屋敷には、一般的には防御結界が張られていることが多い。
そうすることで、飛んできやすい術からの攻撃から守っているのだ。
「グレッグ、あなたは真面目過ぎますよ。今回は防御結界を張っても無駄だったようですよ」
後から倉庫から出てきたメルヴィン様が苦笑していた。
「何を見つけたんだ、メルヴィン?」
「倉庫にはわずかに術の残滓が残っておりました。残滓から推察するに、並みの防御結界など無効化してしまう手練れのようですよ。賊の中には術師もいるのでしょう。しかも、王宮術師並みに力を持った者です」
「王宮術師並みに力を持っているなんて……ちょっと厄介ですね」
私は眉根を寄せた。
王宮術師は術師の中でもトップクラスの術師だ。王宮術師団に入るにはそれ相応の力がいる。
どうしてそんな人物が賊の中に混じっているの……?
「そういう者たちだからこそ、ポーションの価値が分かっていたということか」
「そうでしょうね。カスタリアへ旅行に来た王都の民が、ポーションを買って帰っているようですし、疫病が流行る王都で噂になっていてもおかしくありませんね」
「そうだな。イシュカのポーションが高額で取引されているのが、たやすく想像できるよ」
「後、考えられるのが、ポーションの水の成分の鑑定をして、同じようなレベルのポーションを作るというところでしょうか。ポーションの土台となる水の成分がもっとも重要になるってことでしたよね、イシュカ?」
「ええ。その通りです」
ポーションは水の成分が土台になるから水を重視する。水術師としての基礎知識だ。
スクルドの泉の水はなくとも、似たような成分を持っている水で作れば、同じレベルのポーションを作れるだろう。
水術師にとって、水の成分がわかることはもっとも重要なことなのだ。
そう水の成分が大事……って、あ! そうだわ、いいことを思いついた。
「だとしたら同じレベルのポーションを作れば、今の王都では飛ぶように売れるでしょうね。悔しいですが」
「本来ならばイシュカが受け取るべき報酬だ。メルヴィン、王都の者に連絡を取り、調査を依頼するんだ」
「かしこまり……」
「ちょっと待ってください!」
大きな声を出した私に、みんなの注目が集まった。
「どうした、イシュカ?」
「あの、提案なのですが、もうワンランク上げたポーションを作るのはどうでしょうか?」
「もうワンランク上? イシュカの作ったポーションはレベルの高い回復力があるのに、そのさらにその上のものを?」
「そうです。ポーションを盗まれたことは悔しいですが、どうせならさらに良いポーションを作って、あっと言わせたいのです」
茶目っ気たっぷりに言うと、くつくつと殿下が楽しそうに笑った。
「イシュカ、それはいいな! 賊たちも驚くだろう。自分たちが盗んだものよりも、さらにいいものがあったとわかれば悔しがるだろうな」
「勝手に尻尾を出すかもしれないですよ?」
「違いない。だが、どうやってポーションを作るつもりなんだ?」
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