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27 期待以上。発展していくカスタリア

「カスタリアの宿泊客が増加傾向にあるようだな。利益も十分に上がっているようだし」


「そうです、ローク様。温泉施設の評判を聞きつけて、カスタリアへの観光客が増えています。城下町にあるいくつかの宿泊施設は、満室の時も増えていますから順調ですよ」


「それでこの提案書か」


「温泉施設に隣接する宿泊施設の工期を早めるために、人員の増員は必要かと」



 温泉施設・水の郷は、オープンしてから順調に客足を伸ばしている。

 最初は領民ばかりだったが、徐々に領外へと評判は広がり、王都の貴族も訪れるようになった。

 執務室に届けられた俺の手元にある書類は、領地の管理を任せているニコラスからのものだった。

 妻であるナンシーが積極的に表の仕事をこなすようになったこともあり、ニコラス自身もより積極的に領地経営に関与してくれるようなった。ありがたいことだ。



「わかった。承認だ。ニコラスに伝えておいてくれ」


「かしこまりました」



 書類にサインをして、執務机にある承認箱に入れる。

 この後、メルヴィンがニコラスとともに仕事内容を詰めていくだろう。



「……と、待てよ」



 指示をしながら、ふと気づいたことがある。



「なぁ、グレッグ。カスタリアの食料はどうなっている? 十分な量があるのか?」


「食料ですか? 確か例年より消費が早いと聞いています。おそらく観光客が増えていることが原因かと」


「消費が早い、か。何か手を打つ必要があるかもしれないな」



 宿泊施設やカスタリアの飲食店での食の提供は必要不可欠だ。

 もしかしたら「食」の部分は今の生産量では賄えないのではないだろうか?

 農業は一朝一夕でできるものではない。

 土地や水の確保を考えなければならないが……やはりここは「水」か。

 スクルドに泉を使わせてもらえるか聞いてみるのもいいが、カスタリアには三柱の竜神がいる。

 他の竜神の泉に行くのはどうだろうか。

 スクルドに相談する必要があるな。



「それにしても、イシュカが来てから仕事が面白いように進みますね。今度は食料が課題になるなんて。期待以上の成果を上げてくれますね」



 メルヴィンが書類を捌きながら、感心して言った。



「イシュカのおかげでカスタリアが豊かになるな」


「何をニヤニヤしているんですか。イシュカを思い出しているんでしょうけど」



 呆れた表情をメルヴィンに向けられた。

 ……そんなにニヤニヤしていたかな。

 想い人が素敵すぎて、仕方がないと思う。



「そう言えば、ローク様に一つご報告が」


「なんだ?」


「宰相閣下が王都で流行っている疫病の対策に、手を焼いているようですよ」


「どういうことだ? いつもなら王宮術師団の水術師たちがポーションを作っているだろう?」



 毎年対処をしている疫病の対策なんて、頭の切れる宰相なら難なくこなすはずだ。

 王都で何が起こっている?

 眉根を寄せた俺に、メルヴィンが苦笑しながら答えた。



「今回水術師の一団が作ったポーションは、あまり効果がないようですよ」


「……イシュカがいないからか」


「そうでしょうね」


「イシュカを追放するからだ。カスタリアで作ったイシュカのポーションの効果は高くて、トレムス家の使用人が疫病にかかった時はあっさりと治癒したのに」



 グレッグがそう言って顔をしかめた。

 すっかりイシュカに心を傾けているグレッグは、面白いほどに表情に出るようになった。

 まさか、グレッグがライバルになるとは思ってもみなかったが。

 水術師の本領を発揮したイシュカのポーションは、症状が出ても数日で回復すると、ステッド医師から報告が上がっている。

 そのイシュカがいない王宮術師団のポーションの質は、推して知るべしだ。

 王都にいる民が心配だな。



「ポーションの評判は王都の民にも届いているらしく、辺境のカスタリアまで購入しに来ているみたいなんです。イシュカたちはポーションの増産に追われているようですよ」


「ソニア嬢も頑張っているということか」


「……ええ。まさか妹がここまで頑張るとは」



 困った風な口ぶりだが、兄としての優しい眼差しが隠せていない。

 メルヴィンの妹であるソニアを幼い頃から知っていて、妹のようにかわいがってきた。

 体が弱いこともあり、メルヴィンが随分気をもんできたことを見てきている。

 公爵令嬢という立場もあり王太子の婚約者候補になっているが、政略面はさておきお互いその気はない。

 彼女の気持ちが誰にあるかなんてわかっていたし、そのために水術師になりたいだなんて微笑ましく思ったものだ。



「ソニア嬢が来たことは偶然だったが、結果的には良かったと思うよ。良かったじゃないか」


「水術師になりたいだなんて父がどう出るかは分かりませんが、イシュカには感謝しかないですよ」



 ふっと笑ったメルヴィンは、口元に柔らかさが乗っていた。

 珍しいな。そんな笑い方をするなんて。



「失礼します!」



 突然執務室の扉が開いたかと思うと城の衛兵がドタバタと入室し、そのまま片膝をついた。



「突然のご無礼をお許しください」


「どうしたのですか、慌てて」


「報告です。昨夜、城下町にある臨時診療所に何者かが侵入した形跡があり、納品されていたポーションが全て無くなっているとのこと」


「それは本当ですか!?」


「はい」


「ポーションが盗まれたということか」


「そのようです、殿下」



 イシュカのポーションを盗むなんて。

 怒りがあふれそうで、奥歯をぐっと噛みしめた。

 一体誰が?

 イシュカのポーションの評判でも聞きつけての犯行か。



「すぐに確認しに行こう」


「ご案内します!」



 俺は席を立ち、急いで城下町の臨時診療所へ向かった。







お読みいただきありがとうございます(^^)


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