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24 幸せよ。素敵な仕事をありがとう

 かくして、ソニアとのポーションづくりが始まった。

 ソニアのこの行動にステッド先生はもちろん、兄であるメルヴィン様も驚いた。

 ソニアにスクルドを紹介すると、さらに驚いたことは言うまでもない。



「で、できたわ! イシュカ、イシュカ! できたわ!」



 私は作業の手をとめて、上擦った声で呼んだソニアのところへ近寄った。

 研究室の調合台の前でにらめっこをしていたソニアだけど、今はキラキラと瞳が輝いている。



「ど、どうかしら。できたんじゃない!?」


「慌てないでソニア。今から確認するから」



 調合台にセットされていた疫病のポーションを手に取り、天にかざす。

 中身はにごりがなく、透き通った液体がゆらゆらしていた。



「うん。合格。上手にできたわね、ソニア」


「ほんとに!? やったわ、ひとりでポーションが作れたわ!」



 ソニアの可愛らしい顔に、ぱあっとうれしい表情が浮かんだ。

 ソニアがポーションづくりを始めてから一か月半。呑み込みが早いから、上達もとても早かった。

 本当に水術師になれば確実に戦力になる。水術師長のホーマー様が喜びそうだ。



『やっとできたのか。お嬢サマが頑張ったじゃん』



 ふわふわと宙に浮いていたスクルドが、私の手元にあるポーションをじろじろと見た。

 最初は面倒くさがっていたけれど、親身になって手伝ってくれていたのだ。



「竜神様は何とおっしゃって?」


「頑張ったね、と」


「まあ! ありがとうございます」



 ソニアはスクルドの声は聞こえない。

 ポーションづくりをしている時は、私が間に入って通訳をしている。

 最初は驚きを隠せなかったソニアだったけど、会話がないもののスクルドとはすっかり打ち解けていた。



「私も確認してみてもよろしいですか?」



 研究室に一緒にいたステッド先生が、私と同じようにポーションをかかげ、眼鏡の奥の瞳を細めてじっくりと見定めている。

 ステッド先生は私の作ったポーションを褒めてくれるが、先生のチェックは厳しい。

 ソニアは先生の顔色をうかがい、ごくりとつばを飲み込んだ。



「うん。良いポーションですね。ソニアお嬢様、良い師匠に巡り合えましたね」


「ありがとう。サイモン」



 サイモン先生がソニアの頭をぽんぽんと撫で、穏やかに微笑んだ。

 ソニアは俯いたけど赤くなった頬を隠したいだけのようで、口元が緩んでいた。



「では、ソニアお嬢様が作ったポーションを早速もらっていきますね」


「サイモン、本当に!?」


「ええ。こちらには疫病のポーションを取りに来たんですよ。ソニアお嬢様のポーションも品質に問題はないですし、きっと患者さんも喜ばれると思いますよ」


「おめでとう、ソニア!」


「ありがとう! これもイシュカのおかげだわ!」



 ソニアは大きな瞳をうるうるさせて、私に抱きついてきた。

 うれしいよね、初めて人に使ってもらえるのって。

 私も身に覚えがあるから同じようにうれしくなった。



「ソニアお嬢様とセレーネさんは、本当に仲良くなられましたね。まるで姉妹のように」


「ふふ。わたくしもそう思っていたわ。イシュカといると楽しいもの」


「私もソニアといると楽しいわ」


「イシュカ、今いいかい?」



 コンコンとノックする音が聞こえ振り向くと、嬉しそうな表情の殿下が来ていた。

 なんだか機嫌が良さそう。何か良いことでもあったのかしら。



「どうされましたか?」


「温泉施設が完成したよ」



 私は目を瞠った。

 着工から三か月かけてとうとう完成したのね!



『王太子、それは本当か!?』


「本当だよ、スクルド。これから皆で見に行こうと話をしているんだが、イシュカたちもどうだろうか?」


「ぜひ、お供させください!」



 殿下の提案に一も二もなく飛びついた。

 最初は私が竜神の神域内から水を引く作業をしたから訪れていたけれど、それ以降は大工さんたちの仕事になったし、ポーションを作っていたから見ていないのだ。

 どんな風に完成したのだろう。今から楽しみ。




 ◆ ◆ ◆




 森の中にあるスクルドの泉へ行く道は、きれいに舗装され通りやすくなっていた。

 その道を進むと、森と溶け合うように作られた二階建ての木造の温泉施設が完成していて、木材の塀が奥へと続いていた。おそらく塀の奥には温泉があるのだろう。

 ここには殿下と二人の側近、スクルド、一緒に行きたいといったソニアとともに馬車でやってきた。



「待っていたわ、イシュカ!」



 温泉施設へ入ると、玄関で待っていたのはナンシー様だった。



「ナンシー様、温泉施設が完成したと伺い参りました」


「ふふ。イシュカに一番に見せたくてローク様にお願いしたのよ。さ、入って」



 え、そうだったの!?

 殿下を見ると穏やかに笑っていた。

 ナンシー様にわざわざ呼んでいただいたなんてうれしい。

 温泉施設の内部は木のぬくもりが感じられる豊かな空間になっていて、ナンシー様のセンスがそこかしこに発揮されていた。



「すてき……」



 胸がときめき、溜息が零れた。



「イシュカにそう言ってもらえると嬉しいわ」


「この内装はナンシーおば様が考えられたの!? とても素晴らしいわ!」



 初めてこの場所に訪れたソニアは、先ほどからはしゃいでいる。



「ソニアちゃん、ありがとう。目の肥えた公爵令嬢に言ってもらえると自信がつくわね」


「王都にいる貴族もきっと気に入ると思うわ」



 ベールで顔は見えないけれど、うれしそうな雰囲気が伝わってきた。



「二階はイシュカの依頼通り、ポーションの研究室になっているわよ。素敵なお部屋にしておいたから」


「ありがとうございます!」


「イシュカ、後で見に行きましょうよ」


「そうね、ソニア」



 ポーションを量産するためには、スクルドが水を出すのではなく、泉の水を直接採取する必要があった。

 だから、せっかく神域から水を引いたので、ここにポーションの研究室を構えようということになったのだ。私とソニアはここへ足蹴く通うことになるだろう。



「ナンシー様、素敵な空間が出来上がりましたね」


「イシュカ、ありがとう。私、幸せよ。すてきな仕事をさせてもらえて」


「私は何も……」


「ううん。イシュカがいなかったら、何かに夢中になった日々を過ごせなかったわ。だから、ありがとう」



 ナンシー様は私の手を取り、両手できゅっと握った。

 その手からナンシー様の情熱が伝わってくるようで、とてもうれしい。







お読みいただきありがとうございます(^^)


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