23 水術師になりたい理由は恋心
「じゃあ、なぜ王太子であるロークお兄様があなたを助けたのよ?」
「それは……戦争の後、野戦病院にいた殿下を偶然治療させていただいたからのようです。私は気づいていなかったのですが」
「え……あなたもしかして、野戦病院の聖女様!?」
「聖女だなんて、とんでもございません!」
「水術師だし、あなたでしょう。隠すことないわ。メルヴィンお兄様から話は聞いているもの。なるほど、だからロークお兄様はあの態度なのね。疑って悪かったわ」
誤解は解けたけれど、野戦病院でのうわさをソニア様も耳にしていたなんて、恥ずかしすぎる。
「そう、あなたが……。イシュカさん、あなたに折り入ってお願いがあるの」
「お願い、ですか」
「わたくし、王太子妃にはなりたくないの。水術師にしてくれないかしら!?」
「へ!?」
今、とんでもないことが聞こえた気が……。
「へ? じゃないのよ。イシュカさん。わたくしは本気なの!」
ほ、本気!?
ソニア様が勢いよくテーブルに乗り出して、カチャンとカップが鳴った。
「本気って……理由をお伺いしても?」
「わたくし、ポーションが作れるようになりたいの。ポーションは水術師でないと作れないのでしょう?」
「そうですね。でも、どうしてポーションを?」
「それは、その……」
急に頬を染めてもじもじしだしたが、キッと睨むように前を向いた。
「サ、サイモンの隣に立ちたいのよ!」
「ステッド先生の……?」
「あ、あなた、毎日サイモンと一緒にいるなんて、ズルイのよ!」
真っ赤になりながらソニア様が叫んだ。
え、ソニア様はステッド先生のことが好きなの!?
もしかして睨まれていたのって、嫉妬も含まれていたってこと……?
でも、気になることがある。
「ですが、公爵令嬢というお立場だとご当主がお許しにならないのでは?」
「そうなのよね。でもわたくしは体が弱くて、とてもじゃないけれど王太子妃の務めが果たせそうにないわ」
「お体が弱いのは幼い頃からですか?」
「そうよ。だから、サイモンにはずっと診てもらっているの。サイモンは優しくて、いつもわたくしを気遣ってくれる。公爵令嬢という立場がそうさせているのかもしれないけれど……でも、わたくしはそれが嬉しいの。せっかくサイモンの近くにいるのに、離れるなんて考えられないわ」
ソニア様が眉根を寄せ、ぎゅっと唇を噛んだ。
本当にお好きなのね、ステッド先生のことが……。
そんなに好きになれるなんて羨ましい。
……って、何で殿下の顔が浮かぶのかしら。
「それでね、イシュカさん。わたくし、一度サイモンに告白したのだけど」
「え、告白!? 大胆ですね……」
「でも、本気にしてくれなくて。あちらは伯爵家でわたくしは公爵家。身分差も年齢差もあるから……。だったら、わたくしがサイモンの役に立って、手放したくない女になればいいと思ったのよ」
それで水術師に……でも、水術の資質はあるのかしら。
貴族はデビュタントの時期に、王宮で魔力の有無や扱える術の資質を判定することが慣例だ。
水術の資質がないとポーションは作れない。
下位貴族である私がそのことを聞くのはどうなのだろう。
私が微妙な表情をしていることに、ソニア様が気づいた。
「心配しなくても大丈夫よ。わたくしの資質は水術だから。お花畑のシャーロットみたいに無理なお願いはしないわ」
「そうでしたか」
「ねえ、イシュカさん。お願いできないかしら?」
不安そうにこちらを見てソニア様が言った。
うーん、どうしよう。
水術師になるには資質があればいいが、王宮術師団に一度入団した水術師でないとポーションの生産者としては名乗れない。
ただ、水術の資質があれば、助手としてポーションづくりをすることはできる。
ちょうど疫病のポーションを量産しなくちゃならないし、人手がいるから手伝ってもらった方がいいのかも。手伝ってもらえれば、ナンシー様のポーションづくりに時間を割けるし。
ご当主がお許しになるかは分からないけれど、ソニア様が水術師になりたいのなら、ここで経験を積むのはいいのかもしれない。
「ソニア様、水術の資質があれば補佐としてポーションづくりを学ぶことはできます。ちょうど疫病のポーションを量産する必要があって人手が欲しかったので、手伝っていただけると助かります」
「もちろん手伝うわ! イシュカさん、ありがとう」
「よろしくお願いいたします。ソニア様」
「まかせて! 完璧にポーションを作ってみせて、サイモンが手放せない女になってやるんだから!」
嬉しそうな表情から一転、今度は気合十分とばかりにソニア様の目に力が入っていた。
恋する女性は強いな。
「ソニア様、明日からさっそくポーションづくりをされてみますか?」
「ええ。お願いしたいわ。わたくしは厳しい淑女教育を乗り越えてきたの。ちょっとやそっとじゃ弱音は吐かないわ。ビシバシ鍛えてちょうだい」
なんと頼もしい。
根は素直そうなご令嬢だし、しっかり手伝っていただけそうだ。
「それから、わたくしは教えてもらう立場だし歳も近いから、敬称も敬語も外してほしいわ。気合が入らないもの」
「よろしいのですか?」
「もちろんよ。わたくしはイシュカと呼ぶわ」
「わかったわ。ソニア」
ここへ来てから敬称も敬語もやめてほしいとよく言われるけれど、ソニア様、もといソニアは歳が近いからなんだかうれしい。
「ありがとう。ところで……サイモンもいるのよね?」
「いつもいらっしゃるわけではないわ。城下町で臨時の診療所を開所したので、あちらにいることが多いの」
「そ、そうよね。じゃあ、サイモンが来た時にはしっかりとポーションが作れるようになっていたいわ」
頬を赤らめながら目を逸らしたソニアはなんだか可愛い。
ステッド先生と今度会った時に、どういう反応をするのだろう。
ちょっと楽しみになってきたな。
お読みいただきありがとうございます(^^)
ブックマークや↓の☆☆☆☆☆の評価を押して応援していただけるとうれしいです。励みになります。
どうぞよろしくお願いいたします。




