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18 研究中。何度も作るポーションを

「スクルド、水」


『ほい』


「スクルド、水」


『よっ』


「スクルド、水」


『へいへい』


「もうっ、上手くいかなーい!」



 うーん、どうしたものか。ポーションづくりが上手くいかない。

 一週間前から城内に用意してもらった一室を研究室にして、私はポーションづくりに励んでいた。



『また水を出そうか?』



 スクルドが手をひらひらさせると、うねるように水が出てくる。

 竜神であるスクルドは、自分の神域にある泉の水を自在に生み出せるらしい。

 水術師が作るポーションは水の成分を基にして、薬草など様々なものを調合して作製する。

 水の成分が大半なので大量の水が必要なんだけど、スクルドが水を出してくれるから、ポーションづくりを何度も試すことができる。

 スクルド様様である。



「一旦、ストップするわ。もう一度考え直したいし。それにスクルドも疲れたでしょう? 何度も水を出しているとエネルギーが減るんじゃないの?」


『そんなことはない。エネルギーの補給はイシュカが失敗したポーションの数々で摂取しているからな』


「え、そうだったの!?」


『イシュカのエネルギーは美味いから、いくらでもいけるぞ』



 道理で失敗作が部屋からなくなっているなと思ったのよ。

 誰も作っていない難病に対してのポーションだから、失敗作のポーションがかなりの量になっていたんだけど、そのほとんどをスクルドがエネルギーの補給として使っていたのか。



「スクルド」


『何だ?』


「疑問なんだけど、その小さな体にどれだけの量のエネルギーが必要なの? 小さいんだからそんなにエネルギーが必要とは思えないんだけど」


『小さい言うな。僕のエネルギーは片っ端から使われているぞ』


「使われている……?」


『僕が摂取したエネルギーは、この国に点在している泉を起点とした結界に使われているんだ』


「結界!?」


『王宮にもあるだろう加護の泉というものが。あれは僕たち竜神の泉で結界だ。ただ少しずつ綻び始めているから、時折戦争のような争いが起きる』



 思わずぽかんと口を開けてしまった。

 王宮にある加護の泉は知っているが、この国全体に結界が張られているなんて知らなかった。

 そんな事実、王族も宮廷術師も知っている人はほとんどいないんじゃないだろうか。

 この国が平和を維持できているのは、スクルドの結界のお陰だったのか。



「だから、花束を持って行っていたの?」


『そうだぞ。あれは僕のものだしな。それに僕の竜神の泉だけでは足りないんだ。でも、イシュカと会ったおかげでエネルギーが満ちるようになったから、こうやって泉以外で過ごせるようになったんだ』


「そうだったのね」


『お前は自覚がないが、他の者より魔力の質が違う。魔力量も桁違いだぞ』


「へ? 嘘でしょ……?」



 水術師として働いていて、他の人より魔力を使っても疲れないくらいの自覚はあったけれど。

 まさか桁違いと言われるとは……自分のことながらあんまりぴんとこない。

 同期のヘンリエッタの方がトップ入団だったし、自分の家が魔力に関係する家柄でもなかったし。



『竜神が嘘をついてどうするんだよ。自覚をすればもっと大きな魔力を使えるぞ。というわけで、しっかり聖女の修行をするように。イシュカには立派な聖女になってもらわないと』


「あ、薬草が足りてない! ちょっともらってくるわね」


『おい!』



 びしっと指さす姿が可愛いが、言っていることは可愛くないから、さっさと退散することにした。

 聖女なんて荷が重すぎる。

 部屋を出て、ここ最近お世話になっている城の温室へ行く。

 ここが辺境の地であり、国境を守る任があるトレムス家は自分たちで薬草を育て、薬を作っているそうだ。

 ちなみに、トレムス辺境伯の領地はもっと王都側にあるそうだが、グレッグの兄が主に領主の仕事をしているらしい。



「えっと、足りなくなった薬草は……」



 温室に入り、必要な薬草を採取していく。

 本当にこのやり方でいいのかしら。

 また同じことの繰り返しになるんじゃないかと頭によぎる。

 城の図書室の入室許可をもらって、何か情報を見つけた方がいいのかも……。



「あら、イシュカ?」



 誰もいないと思っていた温室で声をかけられ、振り向いた。

 そこにいたのはベールの女性。



「ナンシー様」


「また薬草を取りに来たの?」


「はい。ポーションはまだ完成していないので」


「そう。精が出るわね」


「ナンシー様はどうされたのですか?」


「私は花の手入れに来たのよ」



 温室の奥にはナンシー様が手入れをしている花たちが綺麗に咲いていた。

 ニコラス閣下がナンシー様のために用意されたそうだ。



「ねえ、イシュカ……そのポーション、私のためなんでしょう?」


「ええっと……」



 小首を傾げたナンシー様に、私は言葉に詰まった。

 グレッグから秘密にしてほしいとは言われていないが、ご事情を伺わず動いてしまっていることに、嫌な気分になっていないかしら……。



「いいのよ。隠さなくて。大方グレッグから依頼されたんじゃなくて?」


「……ええ。そうです」


「あの子にも心配かけてばかりね。ありがとう、イシュカ。私のために日夜頑張ってくれて」


「いえ。水術師としての仕事ですし、お世話になっている分、ご恩をお返ししたいので。あの……ご迷惑でしたか?」



 おずおずと聞いてみると、ナンシー様が首を横に振った。



「迷惑だなんて……本当にありがたいと思っているのよ。でも、イシュカはローク様のもとで仕事をするのでしょう? 私のポーションなんて、イシュカの仕事の邪魔をしているだけだわ」


「そんなことありません」


「そんなことあるのよ。私は病を患ってから、みんなに迷惑をかけて、心配させて。そして、あなたにも……私は足を引っ張ってしまう存在だから」



 ナンシー様は溜息を吐いた。








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