17 難病は夫人の心を弱くする
ナンシー様は侍女に指示をすると書類が広げられたテーブルにはお茶が給仕され、スクルドの目の前には色とりどりの花束が届けられた。
『おおっ。よくわかっているじゃないか!』
花泥棒と言われてどうなることかとドキドキしたけど、良かった。
目をキラキラさせているスクルドの代わりにお礼を言った。
「ナンシー様。ありがとうございます。この方は竜神スクルド様です。お花が好きなので大変喜んでいます」
「まあ、竜神様だったのね。花泥棒なんて失礼なことを言って……」
「うれしそうなので大丈夫だと思います。あの、この執務室や城内に飾られている花もナンシー様が育てられたものなのですか? 私の部屋にもあったのですが」
「そうよ。要塞も兼ねている城だから味気ないでしょう? お花を飾って華やかにしているのよ」
やっぱり。
王都では忙しいのもあって花を愛でる余裕がなかったから、癒されるなって思っていたのよね。
それに、用意された部屋は気持ちが優しくなるようなインテリアで、その部屋を彩るように花も活けられていたのだ。
「もしかして、お部屋の内装もナンシー様が関わっていらっしゃいますか? 素敵なお部屋だったので」
「気に入ってくれた? 城の内装は私が指示しているのよ。ここに来ていただいた方に、気持ちよく過ごしてもらいたいから」
口元に笑みを浮かべ、ナンシー様は楽しそうに話す。
もしかしてインテリアのことがお好き?
内装がまだ決まっていないんだったら、ナンシー様にお願いすればいいのでは?
「あの、提案があるのですが」
「なんだい、イシュカ」
気がつけば言葉にしていたようで、殿下が小首を傾げた。
「えっと……内装がまだ決まっていないという話でしたよね? ナンシー様にお願いしてはいかがでしょうか。素敵な内装をお考えになっているナンシー様なら、きっと他の施設も素敵な内装を作っていただけるのではないではないかと思うのですが」
「確かに。ナンシーのセンスは目を瞠るものがあるからね」
「温泉となると女性の方が来訪人数が多いと考えられるので、女性の感性が必要なのではないでしょうか」
「イシュカの言う通りだね。良い案だと思う」
納得されるように殿下が大きく頷いた。
殿下もナンシー様のセンスを認めていたのね。
「どうだろう、ナンシー。俺たちが進めている仕事を知っていると思うが、施設の内装について力を貸してもらいたい。お願いできないだろうか?」
殿下がナンシー様に言ったが、ナンシー様はすっと頭を下げた。
「ローク様、申し訳ございません。私にはできません」
悲しそうな響きに息を飲んだ。
「……ナンシー様、出過ぎたことを言いました。申し訳ございません」
「いいのよ、イシュカ。でもね、私は病を抱え、足を引っ張ってしまう存在なの」
「ナンシー、そんなこと……!」
その言葉に私は何も言えず、殿下が否定するけれど、ナンシー様は弱々しく首を横に振った。
「ああ、今もお仕事の邪魔になっていますわね。すぐにお暇しましょう。みなさん、引き続き頑張ってくださいね」
一転明るい声でナンシー様が言って、私たちが止める間もなく、逃げるように去っていった。
しまった……。
私、ナンシー様のご事情を考えずに言ってしまった。
もっと考えてから発言すべきだったのに。
「申し訳ございません。私が考え無しに言ってしまったばかりに」
「いや、俺も悪い。ナンシーにとって良い機会だと思ったから」
頭を下げた私に殿下がフォローを入れてくださる。
グレッグも心配そうに私に言った。
「イシュカ、気にするな。母はいつも「ああ」なんだ。昔は違ったんだが……どうしても病のことがあるからな」
あの病が体だけでなく、心にまで影響を与えているのか。
だったら余計に心無いことを……。
そんな自分に辟易して、内心で溜息を零した。
『イシュカ。あの人か、病を治すのは』
「うん、そうよ」
『良いものを持っているのに、もったいない。イシュカ、お前が治すのは体だけじゃない。心もだ。しっかりポーションを作らないとね』
そうだわ。体と心はつながっている。
体の影響は人間が思っている以上に心に影響を与えるんだ。
ポーションづくりは心も救うことになる。
「スクルド。私、最高のポーションを作ってみせるわ」
『その意気だ』
水術師として最高の物を作って、ナンシー様を笑顔にしてみせるんだから。
「イシュカ、ナンシーのためにポーションを作るのかい?」
殿下の言葉に私は頷いた。
「はい。スクルドの泉の水を使ってポーションを作るんです」
「オレがイシュカにお願いしたんですよ。優秀な水術師であれば難病に効くポーションを作れるのではないかと思って」
「そうだったのか」
「さっそくポーション作りに取り掛かろうと思います。先日揃えていただいた道具を使わせいただきますね」
「もう届いているはずだから用意させよう。グレッグ、イシュカにポーションを作る部屋を用意してもらえるか? 道具も一緒に運んでくれ」
「もちろんです。イシュカ、部屋が用意出来たら連絡する」
「ありがとう。お願いします」
「すまないな。イシュカ、母のために」
「まかせて、グレッグ」
よし、やるわよ。
これがカスタリアで水術師としての本格的な仕事だ。
気合を入れた私は、翌日からポーションづくりに没頭するのだった。
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