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16 どうやって温泉施設を造ろうか?

「実はスクルドの泉が温泉のように温かいんです。泉は水質鑑定をしたところ体がもともと持っている自然治癒力を高めて病が治りそうなんです。温泉施設にすれば多くの人の役に立ち、スクルドにとっても神格が上がると思いまして」


「なるほど……」


「でも、今の話だと温泉はできないですよね……」



 ちょっと張り切っていただけに、しょんぼりと項垂れてしまう。



「そんなことはないと思う」


「え?」


「例えば、泉から水を引くのはどうかな? 竜神の泉に直接入らなくても、別の場所に温泉施設を造ればいいと思うんだが」



 そ、そうよ!

 殿下の言葉に私の目が見開いた。



「だが、水を引くとなると掘削工事がいるが、職人が入れないから難しいか……」


「いえ! 私の攻撃系の水術を使えば掘削はできると思います。竜神の神域に入れる私が神域外に出るまで掘削をし、その後は職人さんにお任せすれば水は引けるんじゃないでしょうか。スクルド、これならできるわよね!?」


『うん、そうだね。僕の条件はクリアしているよ』


「やった! 殿下、ありがとうございます!」



 殿下の手をぎゅっと握って感謝伝える。

 どうして思いつかなかったのかしら。

 さすが殿下だわ。こんな素敵なアイデアを思いつくなんて。

 これで懸念点は一つクリア。思わず小さくガッツポーズをしていた。

 次の段階はどう進めようかしら……。



「……可愛い過ぎるだろ」


『ふーん、へぇ。イシュカを選ぶなんて趣味が良いね』



 二人が何か言葉を交わしているようだけど、次のことに意識を取られて聞いていなかった。



「どうかしましたか?」


「何でもないよ。ところでイシュカ。その温泉のことなんだが、一緒に進めさせてもらえないか?」



 え、一緒に進める……?

 ひとりで進めるつもりだったから、殿下の提案にきょとんとしてしまう。



「スクルド。イシュカの修行ではあるが、協力して進めても構わないだろうか?」


『いいよ。人とどう関わるのかも大事な修行だ』


「そうか。じゃあ大丈夫だな」



 初めて知ったけど、聖女の修行にはルールがあるらしい。

 スクルドに確認した殿下は、改めて私に向き合った。



「イシュカ、実はカスタリアには観光名所のようなところがなくて、どうにかして作れないかと思っていたんだ」


「観光名所、ですか」



 確かに辺境の地であるカスタリアに、有名な観光名所があるとは聞いたことがない。

 王都にいる貴族は旅行によく行くから、観光名所があれば足を伸ばしてくれるだろう。



「観光名所があれば宿泊施設やレストランなどを作り雇用も生まれる。そうすればカスタリアの経済が回りだし、民が豊かになる。その観光名所として温泉を活用したいんだ。ここは辺境の地だが、観光名所が認知されれば訪れる人が増え、泉も多くの人の役に立つだろう」


「確かにそうですね」



 そうか、温泉だけ作ればいいだけじゃないのね。

 温泉さえ作ればいいと思っていたから、そのほかのことは考えていなかった。

 さすが、殿下だわ。

 この人が王太子であり、次代のトップに立つ者であると再認識させられた。

 トップに立つ者が有能であれば、仕事が楽しくなることを私は知っている。



「殿下はすごいですね。私はそこまで考えていなかったです」


「そ、そうか。ありがとう、イシュカ。褒めてもらえるなんてうれしいよ」



 わわ……っ

 頬を染め少し照れた姿に、思わず釘付けになってしまう。

 そんな殿下にじっと見つめられて、なぜだかこちらまで照れてしまう。



「イチャつくんならよそでやってくださいよ」


「イ、イチャつくって……違いますっ」



 メルヴィン様が呆れて言って、私は真っ赤になりながら首を横に振った。

 殿下はコホンと咳払いをして、仕切り直すと話を進めた。



「それでだな、その種を探しつつ、建物は先に進めているんだ。グレッグ、企画書を」


「はい」



 執務室にある大きめのテーブルにグレッグが企画書を広げた。

 グレッグから手渡された書類を見ると、宿泊施設やレストランの設計図が描かれていた。



「素敵……あまり王都では見かけないデザインだわ」


「オレの家であるトレムス家お抱えの職人がデザインしたんだ。辺境の風土に合わせた設計になっている」



 石造りだが木材もアクセントのように使われている。それにテラスもあって気持ちよさそうだ。

 あれ、でも……他の書類を見ても私が見たいものがない。



「グレッグ、内装のデザインはないのかしら?」


「それがまだできていないんだ」


「どうして?」


「いくつか案を出してもらっているんだが、どうしてもしっくりこない。何か良いデザインがでてくればいいんだが……」


「失礼いたします。皆さん、休憩にされませんこと? お茶をお持ちしましたわ」



 声のした方に視線を向けると、ナンシー様がワゴンを押した侍女とともに執務室に来ていた。

 ワゴンに載せられているポットから良い香りが漂ってくる。



「ナンシー。いつもすまないな」


「ローク様、お気になさらずに。今日はイシュカもいたのね。あらあら……小さなお客様まで。もしかして花泥棒さんかしら?」


『花泥棒だと!?』



 髪を逆立てたスクルドを、ナンシー様はベール越しに見ているみたい。

 花泥棒のことをご存じなのね。誤解を解かないと……!



「あのナンシー様、この方は花泥棒では……」


「小さなお客様はお花の方がいいかしらね? 城には私が育てたお花がたくさんあるの。用意させるわね」


『花を、か……?』



 スクルドはぽかんと口を開けた。






お読みいただきありがとうございます(^^)


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