15 竜神の声が聞こえる王太子
「イシュカ、お帰り……って、その子は!?」
ふわふわ浮いているスクルドを見た殿下が目を丸くした。
まさか城下町を賑わした花泥棒が、こんなところにくるなんて思いもしないだろう。
とにかくまずはスクルドを紹介する必要があると思った私は、城に帰ってきたその足で、殿下の執務室を訪れた。
「執務中のところ失礼します。お願いがあって参りました。この方をご紹介してもよいでしょうか?」
「この方……?」
私の言い回しに気がついたメルヴィン様が怪訝な顔をした。
「この方は竜神スクルド様です。今日訪れた泉にてご縁をいただきました」
「え、竜神!?」
スクルドがえっへんと胸を張った。
その瞬間、スクルドから竜の尻尾と翼が現れ、竜神の姿を現した。
殿下もメルヴィン様もグレッグも、目を丸くした後、スクルドを凝視する。
信じられないですよね。
わかる。私もそうでした。
「まさか、本当に……?」
「本当です。でも、びっくりしますよね。石像と違ってこんなちんまりしているなんて……」
『ちんまり言うな』
スクルドがツッコミを入れて来たけれど、さくっと無視をする。
いち早く我に返った殿下が、私たちに近づきまじまじとスクルドを見た。
「あの子は竜神だったのか。花泥棒ではなく、花束を持って行っていたのは、自分のものだからということか」
「ええ、そうです。竜神様は生気や魔力をエネルギー源にしているそうなんです」
「だから花束を持っていたのか。だが、どうしてここに竜神がいるのだ? なぜイシュカとともに……?」
『ああ、それはイシュカが聖女になったからだ』
「イシュカが聖女!?」
「ちょっと、それは言わない約束でしょ!? どうして言っちゃうのよ!」
泉でお願いしたのにあっさり言うなんて!
みなさんに公言できるほどの力もなければ、力もないのだから。
ほら、みなさんぽかんと口を開けているじゃない。
『別に隠すほどの事じゃないだろ?』
「殿下、私は聖女見習いであって、聖女じゃないですから!」
「殿下はなしだよ、聖女殿。って、本当に聖……」
「聖女じゃないですから!」
『小さいことにこだわるなぁ』
呆れて物を言うスクルドをキッと睨んだ。
小さいことではない。私にとっては大事なことなのだ。
「しかし、なぜイシュカを聖女に認めたのだ、竜神スクルドよ」
『それはイシュカが聖女の資質があり、我ら竜神と交信できて……って、え!?』
「え!?」
私とスクルドは思わず目を合わせた。
もしかして、殿下はスクルドの声が聞こえている?
そう言えば、さっきから殿下はスムーズに会話に入っていたような気がする。
え、本当に?
「どうしたんだ?」
「あ、あの……スクルドの声が聞こえるのですか?」
「聞こえるも何も、さっきから話をしているんだが……」
おずおずと聞けば、戸惑うように殿下が返す。
どこかで聞いたやり取りだ。
殿下がメルヴィン様とグレッグを見ると、お二人とも首を横に振った。
「イシュカ、竜神の声は聞こえる者とそうでない者がいるんですね?」
「はい、そうです。メルヴィン様」
「どういうことだ……?」
『イシュカ、こいつは何者だ!?』
困惑した表情の殿下とは対照的に、興奮したスクルドが叫んだ。
「スクルド、この方はランドリック王国の王太子ローク・ランドリック殿下よ」
『ほう、王族だったのか! これは骨のある王が生まれたようだな。王族にはいにしえの聖女の血が流れていて、ときおり能力の秀でている者が現れるのだ』
「ということは、王族であっても聞こえる人は稀ということ?」
『そうだ』
「殿下はやはりすごい方なのね」
「んんっ」
感心するようにつぶやくと、殿下が顔をそらして口元を手で押さえていた。
少し耳が赤いけど大丈夫かしら。
一度咳払いをした殿下がスクルドを見た。
「……それで、竜神スクルド」
『スクルドで良い』
「では改めて。スクルド、イシュカに聖女の資質があることは分かったが、どうしてここに?」
『竜神として聖女の修行を見届けるためだ』
「修行?」
「修行というか、なんというか……実はスクルドに竜神の泉の活用方法を提案したんです」
殿下に今日起きたことー近くの泉に行くとそこが竜神の泉だったこと、泉を活用することで竜神スクルドの神格が上がることーをかいつまんで話をした。
「つまり、聖女の修行として泉の活用を実現する必要があるのか。しかし、驚いたな。この近くに竜神の泉があるなんて知らなかった」
『それはそうだよ。竜神の泉は簡単には見つからない。資格のある者だけが、足を踏み入れることができるんだから』
「え、他の人には見つからないってこと?」
『ああ。それもイシュカを聖女として認めた理由だな』
知らなかった。
……そう言えば、地図で見た泉とは違うところを進んでいた気がする。
もしかしたら、本来行ってみようと思った泉ではなかったのかもしれない。
「……ん? そうだとしたら、そもそも泉を使った温泉なんてできないじゃない!」
色んな人に浸かってほしいのに、他の人には見つからないなんて。
もしかして、最初からできないって分かっていたってこと!?
キッとスクルドを睨むと、スクルドがニヤニヤしていた。
「イシュカ、温泉ってなんだい?」
私たち二人のやり取りを不思議な顔で殿下が見ていた。
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