11 初耳よ。お祖父様は元宰相
「ポーションの作製の器具か……すまない、王都のようにカスタリアには専門店はないんだ」
「そうですか……」
器具ないのは困るなぁ。これではポーションが作れない。
ナンシー様の病を治すには、ポーションの研究するしかないんだけど……。
何か代用できれば……。
「水術師を迎え入れるならポーションの器具をくらい揃えるべきだったな。こちらの落ち度だ。すまない、イシュカ」
「いえ、謝らないでください。何か代用できるものを考えてみますので」
「代用できるものか……イシュカ、薬を作製する器具は使えるのか? それであれば専門店がある」
「ホントですか!?」
「今日はそれを購入しよう。こっちだ、案内する」
良かった、薬の器具はポーションと似た物が多い。
代用するにはもってこいだ。
「費用はこちらで用意するから気にしないで。それと一時的にそれを使用してもらうことにして、すぐにポーションの器具を手配しよう」
「え、そんなわざわざ手配してもらうわけには……薬の器具で充分ですよ?」
「水術師として迎え入れたのはこちらだよ。仕事道具はこちらで揃えさせてほしい。遠慮しないで、イシュカ」
どうしよう……。
費用も出してもらう上、器具の手配までなんて申し訳ないと思って辞退したが、殿下はポーションの器具を揃えてくれるという。
やっぱりポーションの器具で作る方が、良いものを作れるに決まっている。
より良いものを作れるように、ここは甘えさせてもらった方がいいだろう。
「本当によろしいのでしょうか?」
「もちろんだよ、イシュカ」
良かった。これで心置きなくポーションが作れる。
優しく微笑んでくれた殿下に、私は頭を下げた。
「ありがとうございます、殿下!」
「どういたしまして、聖女殿」
「だから、聖女じゃないですよ!?」
またしても聖女と呼ばれ、ぶんぶんと首を振る。
「それにしても、イシュカはそういった部分がきちんとしているね」
「うちの家は腐っても元侯爵家ですから。マナーを叩きこまれるんですよ」
貴族の一員として恥じぬように、という両親の教育方針で身につけたものだ。
水術師は高位貴族や政治の要職についている方の護衛の任務にあたることもあるから、大いに助かっている。
「イシュカはセレーネ侯爵家の令嬢だったね」
「没落した貴族なので令嬢なんて呼ばれるような立場じゃないですけどね」
「いや、そんなことはない。セレーネ侯爵家は先王時代の宰相を務めたこともある由緒ある家柄だし」
「え、宰相!?」
そんな話、お父様から聞いたことなんてない。
私は初めて聞く話に目を丸くした。
先王時代としたら亡くなったお祖父様が宰相を務めていたことになる。政治の要職に就いていたと聞いていたけれど、まさか宰相とは。
「俺もその時代に詳しいと言うわけではないが、セレーネ前侯爵とオズウェン前公爵が政治の舞台で敵対していてね。王家は野心家のオズウェン前公爵よりも、堅実なセレーネ前侯爵を評価していたんだ」
「それでお祖父様は宰相に」
「そうだ。しかし、セレーネ前侯爵の汚職が発覚し、処分をせざるを得なくなった」
「しかし、それは……」
「ああ、分かっている。オズウェン前公爵の仕業だったようだ。後から王家も分かり、先代も欺かれて悔い思いをしていたらしい。オズウェン公爵家の権勢は時が経つにつれ大きくなり、結果的に今の状況ができてしまったんだ」
「なんてこと……」
人を陥れてまで権力を掌握したいなんて。
今まで一体どれくらいの人が悲しんできたんだろう。
「俺としてはセレーネ侯爵家の再興ができればと思うんだけどね」
「お父様は喜ぶと思いますけど、私は今のままでも構いません」
私がきっぱりと言うと、殿下が目を丸くした。
殿下からすれば意外な言葉なんだろう。
「どうして?」
「確かに貴族としては経済的に苦しいですけど、没落してなかったら水術師の仕事に出会わなかったと思うんです。こんなに面白くて楽しい仕事はないですよ」
私が生まれた時点で私の家はすでに没落していて、いわゆる贅沢な暮らしはしていない。
正直今更という部分もあるし、何より水術師の仕事は私にとってなくてはならないもの。
また水術師の仕事ができるようになったし、精一杯がんばりたい。
「そうか。イシュカは水術師の仕事を大切にしているんだね。じゃあ、俺の前では敬語をなしにしてくれるかな?」
「はい?」
今の話からどうしたらそこへ話が行き着くの?
水術師と王族なんて比べるまでもないじゃない。
「水術師の君と最初に出会った時は、もっとフランクだっただろ?」
「それは王太子殿下と気づいていなかっただけで……」
「それに俺たちはともに仕事をする。頼みの綱である水術師のイシュカに遠慮なく意見を言ってほしいから、敬語はなし」
「え、えぇ……」
「イシュカ、だめ?」
ぐっと喉がつまった。
やけに強引に迫られているけれど、相手は王族だ。ダメに決まっている。
でも、イケメンに上目づかいで甘えるようにお願いされて、断れる女子はいるのだろうか。
「わ、わかったわ。殿下」
「ん? 聖女殿?」
アレが足りない。そう言わんばかりの笑顔。
気づいているけど、気づいているけれど……!
けれど、殿下のやけに圧の強い笑顔に根負けしてしまう。
「わかったわ、ローク様。これでいい!? 二人きりの時だけだからね!」
「二人きり……それもいいね。早く敬称もなくしてくれたらいいんだけど。おいおいかな」
やけくそに言えば、殿下が満足そうに頷いた。
やっぱり不穏なことも言っているけれど、その表情が本当に満足そうで、幸せそうで。
眩しい笑顔に顔が熱くなる。
「ここがお目当ての店だよ、イシュカ。さあ、入ろう」
上機嫌の殿下にエスコートされた私は、赤い顔を少しでも見られないように顔を背けながら、店の中へと入った。
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