10 花泥棒、あの子どこの子?不思議な子
突然、何かが倒れる大きな音と悲鳴が聞こえた。
声が聞こえた方へ振り向くと、何かがこちらに迫ってくる。
え、子ども!?
『どけどけどけー!』
飛んでる!?
こちらに迫ってくる子どもは両腕一杯に花束を抱えて、低空飛行で通りを駆け抜けていく。
飛行術なんて、結構魔力も必要な魔術なんだけど!?
「こら、返せー!」
後ろから追いかけてくる町の大柄のおじさんをもろともせず、スピードを緩めない。
そのままくいっと路地に入った。
このままだと逃げられちゃう。
私も駆け出し路地に入り、子どもが町から抜け出しそうな方向へ先回りする。
何度か曲がり角を曲がると、ちょうど向かいから子どもがこちらへ向かって飛んできた。
見つけた!
「止まりなさい!」
『うわ!』
キキーッと音が聞こえてきそうな急ブレーキをかけて、子どもがストップする。
五、六歳くらいの青い髪の男の子に見える。ちんまりしていてかわいい。
その子はこちらをキッと睨むと口を開いた。
『危ないだろ!』
「危ないのはどっちよ」
「どけ!」
「どかないわ。その花束、ちゃんとお金払ったの!?」
『はぁ? 払うわけねーだろ』
「ダメじゃない。盗みはいけないのよ。返しなさい」
『やなこった。これはもらったもので……って、え!?』
「な、何?」
急にびっくりした声を出し、男の子が目を丸くした。
『お、お前……僕の声が聞こえるの?』
「聞こえるも何も、話をしているでしょう?」
『マ、マジかよ!』
「そこのお姉ちゃん! そいつを捕まえてくれ!」
野太い声に我に返る。
そうだわ、この子を捕まえなきゃ。
さっと手を出したけれど、すんでのところでふわりと逃げられる。
見上げれば男の子は空中にふわふわと浮いていた。
『残念でした。これは僕のものだからな』
「待ちなさい!」
声を上げても時すでに遅し。
男の子はひゅんとスピードを上げて、飛んで行ってしまった。
なんてスピードなの。あんな飛行術、見たことない。
花束から一部の花びらが散り、ふわりふわりと道路を彩っていった。
「逃げられてしまったかぁ」
頑張って走ってきたのか、荒い息を吐いているおじさんが残念そうに言った。
「ごめんなさい。奪い返せなかったわ」
「お姉ちゃんが謝ることねぇ。追いかけてくれてありがとな」
「イシュカ、どうした!? 無事か!?」
おじさんと話していると騒ぎを聞きつけたのか、殿下がこちらへ駆け寄ってきた。
心配そうな表情をしている殿下に、私は慌てて頭を下げた。
「すみません、離れすぎてしまって。ご心配をおかけしました」
「いや、気にしないで。一体何があった?」
「ローク様。例の子どもですよ、花泥棒の。店のものじゃないが盗んでいいもんじゃない」
「またあの子か」
私の代わりに答えてくれたおじさんは憤慨し、殿下も眉根を寄せた。
店のものじゃない?
しかも初めてじゃないみたいだけど、どういうことかしら。
「またあの子って、一体何が起きているんですか?」
「ちょっと困ったことが起きていてね。イシュカも巻き込まれてしまったから少し説明しようか。ついてきてほしい」
苦笑した殿下の提案にこくりと頷いた。
おじさんとその場で別れて、殿下についていく。
どこへ向かうのかしら。
「実はカスタリアの城下町では不思議なことが時折起こっていてね。イシュカも見たあの子なんだが、勝手に花束を持って行ってしまうんだ」
「花束を。でも、店のものじゃないって言っていましたよね」
「そうなんだ」
「じゃあ、どこの……」
「それはね、ここなんだ」
殿下に連れられて来た場所には、三体の竜をかたどった立派な石像が立っていた。
「これはもしかして……竜神様ですか?」
「そうだ。ここは町の中心部に建てた竜神を祀る石像なんだ。この地にいにしえから伝わって聞いている伝説なんだが、生命が生きていくのに必要な水が豊かなのは、竜神のおかげだと言われている。だから、日々祈りを捧げる人も多い。竜神への捧げものとして花束を捧げるんだ」
「だから石像の足元には花束がいくつもあるんですね」
色とりどりの花束が捧げられているけれど、一部の場所はぽっかり空いていた。
「もしかしてここは……」
「きっとあの子が持ち出したところだろう」
店で売られている花束ではなく、竜神様に捧げられている花束を盗んだのか。
どういう理由でそれをしているのかは分からないけれど、随分罰当たりなことだ。
「突然現れて花束盗んでいくんだが、あの通り空を飛ぶだろう? 捕まえられた試しはないみたいなんだ」
「飛行術は魔力が必要な魔術なのに、どうして小さいあの子にできるのでしょうか」
魔術なんて貴族クラスではないと身につけられないものだ。
辺境の地であるカスタリアで貴族と言えば、トレムス辺境伯家を筆頭にその血族の貴族だろうから、貴族の子弟だった場合、すぐに調べれば分かるはずなんだけど。
「実は何も分からないんだ。どこの家の者か、どこに住んでいるのか。あの子に関しては分からないことだらけなんだよ」
「そうなんですか。不思議ですね」
不思議と言えば、あの子、私と会話ができていたことに驚いていた。
どうしてあんなに驚いていたんだろう。
「あの子のことを考えていても仕方がないな。イシュカ、当初の目的通り町を案内しよう」
「そうですね。よろしくお願いいたします」
私たちは城下町を改めて歩き出した。
騒動の後は平和そのもので、何事もなかったように町の人たちはのんびりとお祭りを楽しんでいる。
城下町を見ていると、ここには生活必需品が集まっているようで、カスタリアの経済の中心地だと分かる。
ポーションを作りたいから器具が売っているお店を見たいのだけど、今のところ見当たらない。
王都ではいくつかお店があったのだけど、カスタリアでは難しいのかしら。
「イシュカ、どうした? 何か探している? 見たい店があれば案内するよ?」
きょろきょろしている私に気が付いたのか、殿下が顔を覗き込んできた。
「よろしいのですか?」
「もちろん」
「では、ポーションを作るための器具が売っているお店はありますか? 水術師として働くためにはやはり器具が必要だと思っていまして」
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