表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/13

第9話 第五歌を改稿する

 数日後、ダンテは、アパートの以前の住人である西藤さんが、謎のメモを残して亡くなっていることを知る。そのメモは「かぐや姫」「子はどこ」「すいせんの中」そして「地獄の門」だった。

 ダンテは、自分が現代の日本に現れたことと、西藤さんの死は関連していると確信する。


 その答えは、長野県立科町にあるかもしれない。

 ダンテは、有江と愛永、交番勤務の下根田陽人巡査と共に、出掛けることを決めた。


 午前十時、ダンテから「第五歌の校閲をお願いします」と声が掛かる。


   *****

 神曲リノベーション・地獄篇(第五歌)

  小説家になろう https://ncode.syosetu.com/n2868ja/5/

   *****


「ミノスは、自分の身体に尻尾を巻き付けていたのですね。これ、見栄えが間抜けですね。魂に巻き付けた方が、恐ろしく見えると思います」

「そうですね。しかし、魂に巻き付けると、太った魂、痩せた魂とで巻き付く数が変わってしまうし……」

「そこだけ厳格なのですね。ビジュアル的には、圧倒的に魂に巻き付けるべきです」

「わかりました。考えておきましょう」

 ようやく、ダンテが折れた。


「ウェルギリウスさんは、前もカローンさんに『これ以上、何も問うな』と言っていましたね。高圧的な人なのでしょうか」

「それは、地獄の住人に対してだけですよ。私には、優しく接してくれます」

 やはり、BLテイストを入れた方がよいのかもと、有江は思った。


「ダンテは、一転して愛欲の罪人への食いつきが、半端ないですね。ちょっとキモイです」

「誤解です。大衆の関心を引くためには、これくらいのゴシップは必要なのです」

 ダンテは、あくまで計算して書いていると主張する。


「確かに、興味惹かれるものがあります。セミーラミスは、何をした人なのですか」

「夫ニノスの亡き後、息子と四十年間、国を支配したのですが、彼女の残虐な性格は、国を戦禍の中に置きました。色欲に溺れ、息子との近親相姦が露見した彼女は、親子でも結婚できるように法を変えたのです」


「『夫シュカエウスの遺灰に誓った操を破り、愛のために自害した女性』とは誰ですか。これ、謎々ですか」

「謎々ではないのですが、ウェルギリウスの『アエネーイス』の話ですから、皆さんも知っているでしょということです。この女性は、後にも出てくるカルタゴの女王ディードーです。暗殺された夫シュカエウスに再婚しないと誓ったのに、アイネイアースと愛し合いました。もっとも、これはクピードー、英語読みはキューピットですね、が、ディードーに愛を吹き込んだので仕方ないと言えば、仕方ない。結局、アイネイアースがイタリアに行ってしまったので、悲観に暮れて火葬の炎に身を焼かれ命を絶ったという話しです」


「クレオパトラは知っています。カエサルの愛人ですよね」

「そうです。はじめ、プトレマイオス十三世と結婚しましたが、対立してエジプトを追放されてしまいます。そこで、カエサルと愛人関係になるのですが、プトレマイオス十四世と結婚するのですね。カエサルが暗殺され、カエサルとの息子カエサリオンを統治者にしようと、プトレマイオス十四世を暗殺して、その後、カエサルの腹心アントニウスとも愛人関係になっています」

「話だけ聞くと、ひどい女性にしか思えないですね」

「プトレマイオス十三世と十四世は、クレオパトラの弟です」

 有江は、言葉を失った。これでは、詳しく書くことなど、とてもできない。


「これ以上聞くのも怖いのですが、ヘレネーは何をしたのですか」

「ヘレネーは、メネラーオスの妻なのですが、パリスに魅了されて娘も捨ててイーリオスについて行ってしまいました。メネラーオスは、ヘレネーを取り返そうとして、トロイア戦争の原因となったのです」

「女性ひとりの取り合いで戦争ですか……」


「アキレウスは、愛するポリュクセネーに自分の弱点を話してしまうのですが、ポリュクセネーの兄パリスにアキレス腱を射抜かれ、殺されてしまいます」

「パリス、また出てきました」

 有江は、聞いた名前が出てきて、少し嬉しくなる。


「トリスタンは、叔父のマルク王とその妃イゾルデとの、早い話が三角関係です」

 さすがのダンテも、説明に疲れてきたようだ。


「パオロとフランチェスカの話は知っています。実際にあった話なのですよね」

「そうです。フランチェスカは、パオロの兄ジョヴァンニと結婚するよう計画されたのですが、彼は醜く残虐だったので、フランチェスカには『マラテスタ家と結婚する』とパオロとの結婚だと思わせ、騙してジョヴァンニと結婚させたのです。しかし、結婚後もふたりは逢っていました。ある日のこと、円卓の騎士ランスロットの恋愛物語を読んでいて、恋の炎に火が点いてしまったのです」

「ガレオーって誰ですか」

「ランスロットは、アーサー王の王妃グィネヴィアと恋に落ちたのですが、その時に仲立ちをしたのがガレオーでした」

「どいつも、こいつも、といった感じですね」

「アーサー王伝説は創作ですから、そこまで怒ることもないですよ」


「『その日、私たちは、それ以上、先を読み進むことはありませんでした』って意味深でグッドです」

「ありがとうございます」とダンテ。


「ダンテ、また気を失いましたね」

「はい、わかっています」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ