第7話 小説サイトに掲載する
「さて、これで第三歌まで改稿が済んだのですが、この辺りでネット上に掲載してみてはどうでしょう」
「前に教えてもらった小説サイトのことでしょうか」
ダンテがライトノベルに興味を持った際に、小説サイト上で数多の作品が読めることを有江は教えている。
「そうです。代表的なサイトに『神曲リノベーション・地獄篇』を掲載して、読者の反応を見てみましょう。この文体では、そう興味を持たれることもないでしょうけど、古典文学作品の翻訳・二次創作として、読み専の方には刺さるものがあるかもしれません」
「『よみせん』とは何ですか」
「読むこと専門の方です。書き手同士では、互いに高評価し合うなどの忖度が生じることがあるので、読み専のレビューを参考に読書するネット民も多いようですね」
有江は、ダンテのパソコンを預かり、メールソフトを設定する。
事前に、会社ドメインにダンテのメールを追加してもらっている。
メール設定を終え、短文投稿SNSにアカウントを作ろうとしたが、この世には、既に「ダンテ」が何人もいるようだ。単純なダンテの文字列だと、ことごとく作成済みと表示される。重複アカウントを避け、ようやく @Dante_2024_jp が取得できた。
名前を Dante_Alighieri にする。
「プロフィール画像は、ボッティチェリさんが描いた横顔の肖像画にしておきますね」
どれどれとパソコンを覗き込んだダンテは、全然似てませんねと言って大笑いした。
「プロフィールを登録しますので、自己紹介文を考えてください」
わかりましたとダンテはパソコンを打ち始める。
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千三百十三年のヴェローナからタイムスリップして、現代の日本にやって来ました。中世イタリアに戻る方法を探りながら、今は『神曲』を日本語でも読みやすいように改稿しています。
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とても『神曲』の作者とは思えない、稚拙な文章だ。
プロフィールに入力する。
「とりあえず、今日はここまでにして、明日にでも投稿しましょうか」
有江は、ダンテにパソコンを返した。
「おお、早速『フォロー』と表示されました。どうしたらいいでしょう」
「お返しに、その方をフォローしたらいかがですか」
「そうします、フォローします。で『フォロー』ってなんですか」
ダンテは、嬉しそうだ。
翌日、ダンテと有江は、上野の国立西洋美術館に「地獄の門」を見に行く。
「昨夜、神曲リノベーション・地獄篇の第一歌をアップしました」
電車のベンチシートに並んで座るダンテが、話しかけてきた。
「反応ありましたか」
「一晩中、ページを見ていましたが、何も変わりませんでした」
「そうですよね、すぐにはないですよ。まだ三十三歌ありますから、気長にいきましょう」
一晩中ページを見ていたダンテは、電車に揺られ、舟を漕ぎ始める。
有江もまどろんでいる間に、上野に着いた。
「大きいです」
ダンテは『地獄の門』の前に三十分立っていた。ブロンズの門なので、開くことはない。
しかし、ダンテはこの「地獄の門」にこそ、ヒントがあると直感する。
ダンテが元の世界に戻るための手掛かりは、まだ何もない。