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乙女ゲームの攻略対象イケメンキャラに転生したけど逆ハーレムエンドは絶対に嫌なんです  作者: ささくれ厨
第三章

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外遊⑨

 アマリリス領での外遊を終え、馬車は王都へと向かう。

 行きと違って帰りは淡々と宿場町を泊まり継ぐ予定だった。


「サクヤはアマリリスについてどう思ったかしら?」


 馬車に乗りしばらくしてヌリア母様は俺に訊く。

 進行方向に向く席に俺はヌリア母様と並んで座っていた。

 窓から見える美しい街道の並木道。

 それとは裏腹にアマリリス領とその近隣の影の部分が目立った。

 不自然に照らされた光でできた影の印象を俺はヌリア母様に伝える。


──とても歪でした。


 と──。


「王都と違って身分による乖離が強く平民の生活は非常に貧しいと感じました」

「そうね。私は貴族街の中しか見られなかったけれど、家格による扱いの違いは王都以上だったわ。あれでは貴族も民も纏まらないでしょうね」


 ヌリア母様はため息をつく。


「出発前にアマリリスについて調べたの。三百年ほど前にピオニア王国に加わったアマリリスは無数のダンジョンで溢れていて、その中でもひときわ強力な迷宮があったそう──」


 どうやらこの旅の前にヌリア母様はアマリリスのことを王城の史書を見て知っていたんだろう。

 アストロン城でヴァランから聞いた話のだいたいのことをヌリア母様は言葉にする。


「アマリリス領──アストロンはとても立派な歴史をお持ちだけど、その礎を築いた祖先の精神は受け継がれなかったようね」


 アマリリス領は自治領だったが、様々な事情でピオニア王国の属領となった。

 それをヴァラン本人の口から聞いているというのに、彼の祖先の想いがどうやらヴァランには伝わっていない。

 ヌリア母様は事前に知るアマリリス領は自治領だったにも関わらずピオニア王国の属領として加わった。

 その重さを、当時の領主の苦渋の決断を慮る。

 そしてそれが、現在の当主──ヴァラン・アマリリスに受け継がれていないことを残念がった。

 そのことはヌリア母様だけでなく、俺も同じく残念に思う。

 それから再び、大きく息を吐いて彼女は話題を変える。


「この外遊でサクヤが魔法を使えることを知れたのはとても収穫だったわ。それだけでも、この外遊にサクヤを伴った意義があったわね」

「…………」


 つい、うっかり、暗がりの下車時に光を照らしたばかりに、俺が魔法を使うということをヌリア母様に知られてしまった。


「でも、詠唱魔法、使えないですから……」

「あら、そのことでなにか不都合でもあったのかしら? サクヤに教わった方法で詠唱をしなくても魔法を使えることがわかったし、お城に帰ったら王国魔法研究所でも無詠唱魔法のことを調べてもらわなきゃいけないわね」


 嬉しそうなヌリア母様とは裏腹に、俺は気が気でない。

 これまで詠唱をしない魔法が存在しなかったピオニア王国で、俺は詠唱魔法が使えないから無能だと揶揄されてきたのに、無詠唱魔法が確立してしまうと俺の立場はどうなるんだろう。

 そんな不安を抱えながら帰路を進む。

 このとき、俺もヌリア母様も王城が、王都が一大事を迎えていたことを知る由もない。


◆◆◆


 ピオニア王国のはるか北。

 千年に渡る長い時をまるで止まった時間の中で過ごしたかのような美しさを残すマトリカライア王国の王都レクティータ。

 レクティータの中心地でもある王城の城門前広場に近い場所にある一つの屋敷。

 ここにブラン・ジャスマインはニルダ・ピオニアとその娘のノエル・ピオニア、それからノエルの異母姉、ネレア・ピオニアが逃れていた。

 数週間という期間、城を開けている彼女たちだが、色彩が失われたレクティータでの生活を楽しんでいる。


「お城の様子はどうなんでしょう?」


 ニルダはブランが煎れた茶を啜った。

 ネレアとノエルの姉妹は二人して魔法で遊んでいる。

 彼女たちもすでに詠唱をしない魔法を使いこなしていた。


「ん。現在、水面下で調査を進めているようだ。ナサニエル陛下には安全な場所に匿っているのは伝えているが、どこに保護しているのかまでは伝えていない。それを臣下が陛下に問い詰めている」

「何故、ナサニエルが問い詰められるのでしょう? 意味がわかりません」

「おそらく、臣下の中に更に毒を塗った者がいるのだろう。毒の分析は済んでいて、その入手先と交流のある貴族を調べているというのが現状」

「ブラン様はもうわかっていらっしゃるのでは?」

「わたくしが調べたところではすでに──しかし、現時点ではニルダ殿下にお伝えすることが憚られる状況で、まだお教えできる段階ではない」

「そう。私たちの身近にいるものたちの仕業だった……のかしらね」


 ニルダはブランから言葉が返ってこないだろうと、ティーカップを唇に寄せて茶を口に含む。


(嗚呼、ナサニエルでは荷が重いようね……このままでは王家の権威が損なわれてしまうわ……)


 そんな憂いを熱い茶とともにこくりと上品に飲み込むと娘たちに目線を向けた。


「あの子たち、どうして指先に魔法を作ろうとするのかしら」

「あれはサクヤ殿下の影響です。ただ、サクヤ殿下と違って、彼女たちが極小魔法を使うことはできないでしょう──」


 魔力を使って魔素を集めて圧縮する。

 そうすることで指先で小さな魔法をサクヤは発生させていた。

 魔素を圧縮させるには膨大な魔力を必要とする。

 白の魔女とされるブランでも指先に極小魔法を同時に発生させるのは容易ではない。

 サクヤはそれをいともたやすくするものだから、ブランの負けず嫌いに火をつけたという経緯もあった。

 しかし、今ではサクヤに敵わない。


「サクヤが魔法を使うだなんて知らなかったから今でも信じられないわ……」


 ニルダは言う。

 サクヤが魔法を使うということをニルダはネレアとノエルから聞いた。

 彼女たちは城では言わないという約束はしっかりと守り、城から出た今は、サクヤの魔法が凄いから自分も魔法の練習をしていると打ち明けている。


「ノエル殿下もサクヤ殿下ほどではないですが魔法に対して素養が高いように思います。もしやと思いますが、ニルダ殿下のご先祖様にそういった才能をお持ちの方がいらっしゃのでは?」

「私はそれほど、魔法が得意ではないのよね。けど、魔力のようなものがあるのはわかります。それが遺伝したのかしら?」

「失礼ですがニルダ殿下はどちらの家の出で?」

「サンブリテニア侯爵家ね。お母様はそれなりに魔法を使ってたけど、お父様が魔法はそれほど得意ではなかったわ」

「サンブリテニア侯爵……わたくしの知る限り、サンブリテニア侯爵家はピオニア王国が建国されたときに叙爵されたのが初出。それまでの経歴が全くわからない珍しいお家柄だ」


 千年の時を生きるブランが知らない数少ない要人の一人がサクヤの実母のニルダの祖先。

 ブランはこれまで時代の傍観者として多くの国々の勃興を目にしている。

 その中でも彼女のあずかり知らない物事もあった。

 ピオニア王国がここまで大きくなったのは当時の王の才覚もあったが、その才覚を開花させたのがウィット・サンブリテニアと出自不明の人物。


「ニルダ殿下はウィット・サンブリテニアという方の末裔……ということか……」

「よくご存知でいらっしゃいますね。初代国王のアーロン・ピオニア様にお力添えをして侯爵位を叙爵したのが初代当主がウィット・サンブリテニアだと我が家では伝わってます」

「ウィット・サンブリテニアは三百年前に突如としてその名がピオニア王国に出てきた。たいていの人間は有名になる前に知ることができたのだが、ウィット・サンブリテニアはピオニア王国が建国を宣言した際に初めて名前が広まった……」


 ブランはニルダたちをここに連れてきたことで、自身の出自を明かしている。

 自身が千年以上生きていることも、滅びた国の公爵家の人間だったこともニルダに伝えた。

 千年の間、ブランはフラウェル大陸各地を歩き回り、大陸の歴史を記憶に積み重ねている。

 ウィット・サンブリテニアはピオニア王国の建国からアーロンの傍に仕え、アマリリス領を従えた後にまだ幼い息子に家督を譲ってピオニア王国から去った。

 それからの行方は知れず、おそらくサンブリテニア家にも伝わていないだろうと、ブランはニルダに言う。


「出生も出自も何もかもがわからないけれど、叙爵されたばかりだった当時のことだから、そのようなものだと受け入れていたけど、ブラン様のお話を聞いて不自然に思います。王家の建国史にもその名はウィットという名はあっても詳しいことは記されておりませんでしたから」


 サンブリテニア家に生まれて、家の歴史を学んではいたが、これまでそういうものだと思っていたものが実はそうではなかったことをブランの言葉で知った。

 ブランが「気になるな。調べておこう」と言えば、ニルダも生家のことが気になり始める。


 城を出て一週間──。

 毒を盛られたという事件から争い事に発展しないことを願うばかりだった。


◆◆◆


 ペラルゴニー公爵家の領地にピオニア王国の第二王子のスタンリー・ピオニアと第三王子のシミオン・ピオニアが匿われていた。


「よぉ、スタンリー!」


 朝、ソフロニオ・ペラルゴニーがスタンリーが寝る部屋に訪れる。


「おはようござます。ソフロニオ様。面倒をかけているというのにお世話までしていただいて恐縮です」


 スタンリーは胸に手をあてて頭を下げる。

 ここではなぜかこのように立場が逆転してしまっていた。

 というのも、初級ダンジョンでパワーレベリングをしていたころから、スタンリーとシミオンはソフロニオのことを敬称をつけて呼び、ソフロニオは二人の王子を呼び捨てている。

 その当時からソフロニオが上であるようにソフロニオが随伴する従者含めて思い込ませていた。


「ああ、気にするな。スタンリーとシミオンは俺の大事な友人さ。面倒見させてもらって当然だろう。それより、飯を持ってきたぜ」


 ソフロニオはスタンリーの肩に手を回して馴れ馴れしく話す。


「ありがとうございます。ソフロニオ様」

「おお、良いってことよ。んじゃ、俺はシミオンのところに行ってくるからよ」


 食事の運搬は家人に任せてソフロニオは部屋を出た。

 スタンリーを泊めている部屋から出ると次に向かったのはシミオンの部屋。

 中庭を挟んで正反対の場所の一室まで歩き、扉を軽く叩く。


「シミオン、入るぞー」


 返事を待たずにソフロニオは部屋に入った。


「ソフロニオ様。おはようござます。すみません、今起きたばかりで……」


 慌ててベッドから飛び出た様子のシミオンは急いで服を着ているところだった。

 ここには着替えを手伝う従者が居ない。

 王族の保護という名目でペラルゴニー家に匿われており、王城に務める使用人たちは、毒を盛った可能性がないと断定されるまで城を出ることを許されず。そのため、従者を連れてくることができなかった。


「ああ、気にすんな。俺とシミオンの仲じゃねーか。それより、飯、持ってきたぜ」

「ありがとうございます」

「応ッ! 今朝の飯はちょっと良いヤツだぜ? ペラルゴニー領の名産ってヤツさ」


 ソフロニオはそう言って部屋の外に合図を送って使用人を部屋に入れる。

 料理は川魚を焼いたもの。

 味が良くてシミオンも気に入っていた。


「んじゃ、俺は戻るからよ。また、来るわ」


 そう言って組んだ肩を解いて部屋から出ていく。

 シミオンとスタンリーは部屋から出ることを許されなかった。

 王族を護衛する人員が居ないから──という理由で。


◆◆◆


 王城の会議室では国王のナサニエルとペラルゴニー家の当主のゾルタン・ペラルゴニーが向かい合って座っている。


「調査のほうは進んだか」

「それなりには……ただ、疑いのあるものが厄介で……」

「申してみよ」

「デルフィニー家の寄り子の伯爵家から来ている料理人が当日の調理を担当しておりました。彼を信じていたのですが、こういうものが出てきまして……」


 ナサニエルはゾルタンから一つの器を受け取った。

 小さな容器に乗った小さな革袋。


「この中に、あのときの毒が入ってました。これを厨房から押収したもので、彼が調理をするまではこれはなかったという証言を得ています」

「そうか。それではそのものを呼びつけて話を聞かせてもらおう」


 ナサニエルはこれで解決かと安堵してみせた。

 容疑者が特定できたことで、これを処すれば事件は解決。ゾルタンは満足げなナサニエルにニヤリと笑みをする。


「それでですが──」


 この事件はデルフィニー家の指事があったのかもしれない──と、ゾルタンはナサニエルに吹聴。

 しかし、確たる証拠がなく、表立ってデルフィニー家を処分をすることができないため、調理人のみを処罰の対象とし、調理人の生家一族を王都から追放。彼らに近い者たちには王城への立入禁止を命じた。


 数日後、料理人は城門前で公開処刑とされ、王族毒殺未遂事件は解決する。

 その様子をブランは遠巻きに眺めていたが、ナサニエルの安直さに呆れ果てため息を残してその場を去っている。


──これでお姫様たちを帰しても当面は問題ないだろう。


 犯人が処刑されて事件が一段落したことで城内は落ち着きを取り戻す。

 殺された調理人を気の毒に思いながら、ブランはファストトラベルを使って消え去った。

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