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乙女ゲームの攻略対象イケメンキャラに転生したけど逆ハーレムエンドは絶対に嫌なんです  作者: ささくれ厨
第二章

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ピオニア王立フロスガーデン学園初等部②

 一年一組の児童が全員、席についてしばらく──。

 母上とお師匠様がクラスメイトたちの保護者と同じく教室に入ってきた。

 俺の隣はエウフェミア。両脇には彼女の両親──アウグスト・デルフィニーとイングリート・デルフィニー──が彼女を挟んで立っている。

 エウフェミアが座る席の左に立つイングリートが俺の母上越しに話しかけてきた。


「立派なスピーチだったわね」

「ええ、本当に。あんなに素晴らしい挨拶ができる子に育って誇りに思えるほどよ」


 イングリートと母上が嬉しそうに讃えていた。


「サクヤ殿下からあんなに素晴らしいスピーチが聞けるとは予想してなかったわ」


 続けてお師匠様にも褒めてもらえた。


「え、ボク、挨拶した後、静まり返っていたので何かまずかったのかとばかり思ってました」


 壇上から降りるときのあの気不味さを思い出してしまう。


「私も、ガーデンバーネットでパワーレベリングに付き添わせていただいたあの殿下から、あのような素晴らしいお言葉を聞けて誇らしく思いました。本当にご立派になられました」


 隣の席の幼馴染──エウフェミアの向こうから発せられた男性の声。

 彼女の父親のアウグスト・デルフィニー。

 この国の宰相で俺のパワーレベリングに数回付き合ってくれたイケオジだ。


「あ、ありがとうございます。あれほどの人数の前でご挨拶をさせていただいたのは初めてで、緊張して不安でしたが、お褒めいただいて安心しました」


 アウグストに言葉を返す俺をエウフェミアは眩しそうな目で見ていた。

 そんな目で見られたら、俺の正常な性癖が歪んでしまいそう。

 エウフェミアの可愛らしい笑みと同質の微笑を俺に向けるイングリートにも心が震える。

 イングリートはエウフェミアが成長した姿──前世の記憶にある黒の魔女の姿をイングリートに重ねたら、エウフェミアの美貌は母親譲りに思える。

 闇落ちしなければエウフェミアはこんな感じに育ったんだろう。ただ、背の高さは父親譲りなのかな。

 お師匠様ほどでないにしろ闇落ちしたエウフェミアは白の魔女並みに俺(朔哉)に突き刺さったものだ。

 それにしても、エウフェミア嬢の微笑は天使の微笑みか。

 キラキラしていてとてもまぶしい。こんなに可愛い女の子が闇に堕ちた姿は興味を唆るけど、できれば幸せな未来を過ごしてほしい。

 お師匠様に近しい絶世の美女に成長するエウフェミア。そして、俺(朔哉)の理想を現実化した女性のお師匠様。ゲームでは知ることのない真の姿を見てしまってからは更に親しみを覚えて強烈な憧れを抱くに至っている。

 大人だった朔哉の嗜好がお師匠様にドハマリしているせいでお師匠様を女性として見ているサクヤ

 ゲームではエウフェミアとお師匠様を手に掛ける俺。

 どんな気持ちでエウフェミアとお師匠様を殺したんだろう。

 ただ、改めて思ったのは、ゲームでの俺は初等部に入学したころには既に一人ぼっちだったんじゃないだろうか。

 だから、馴れ馴れしく近寄ってきたソフロニオに何一つ疑念を持たず仲の良い同性の幼馴染キャラに育ったように思う。

 でも、今の俺には左右に母上とお師匠様が揃ってるし、隣の席には天使の笑みを見せてくれる異性の幼馴染もいる。

 もうすぐ俺の婚約者になるらしい彼女である。

 そんな話を俺の両親とエウフェミアの両親の間で交わされているし、母上とイングリート、それに、ヌリア母様が三人でお茶を楽しんでいるときにもこういう会話をしていた。

 その話が居た堪れなくてエウフェミアを連れて城の中を連れ回していたことを懐かしく思い出す。

 今日からは初等部の児童だから、母上たちのお茶の席に同席することはないだろう。

 そんなことを考えていたら、教師が机上に置かれた配布物や今後の日程について説明のために教壇に立った。


「はい。みなさん。本日は入学おめでとうございます。わたしはこの一年一組を担当させていただきますレジーナ・ブラシカです。卒業までこのクラスの担任としてみなさんとお付き合いさせていただきますので、どうぞ、よろしくおねがいします」


 ショートボブの茶色い髪の毛が印象的な標準体型の女性教師。

 言葉が少しだけ砕けているのは子どもたちへの挨拶を兼ねてのものだからだろう。

 レジーナは教室内の児童を見回してから一息ついて、言葉を続けた。


「では、机の上に置いた配布物の説明をさせていただきます──」


 おお、俺(朔哉)の記憶の中にある小学校と非常に似通ってる。

 きっとサクヤが俺(朔哉)なら懐かしむはず。

 俺以外の十九名のクラスメイトたちを見ると両親が机を挟んでレジーナの言葉に耳を傾けていた。

 両親が揃っていないのは俺だけ。

 父上は入学式典で壇上に立って国王として祝辞を述べてたけど、正妃のヌリア母様と一緒に王城に戻ったのだろう。

 両親がいなくて寂しいかと言われたら母上がいるし、お師匠様だっている。

 父上とはここ数年、食堂でも会話がないほど疎遠な存在だった。最近になって話すようになった程度だからね。

 だからこれで良いのだ。

 レジーナの話はほぼ親に向けてのものだった。

 貴族の父兄だからかなり丁寧に今後の予定を説明していた。


 長い説明が終わり、今日はもう我が家に帰る。

 我が家は王城。

 ピオニア王立フロスガーデン学園は王城からは一本道。

 母上とお師匠様と三人で馬車が待つ校庭に向かった。

 校庭は普段だと運動や訓練に使うそうだが、今日に限っては馬車の駐車場として開放されている。

 この学校に所属する児童は皆、貴族の子弟。お迎えが当然あるわけだ。

 いや、男爵家なんかはお金がないと馬車がないかもしれない。

 そうであれば歩いて宿か屋敷に行くのか。

 校舎から校庭へ移動するが、俺と同じく送迎の馬車に乗り込む親子たちの姿が目立った。

 豪華な装飾が施された二頭立ての馬車。

 母上とお師匠様と俺の三人で乗ってきた馬車につくと御者が扉を開けて待っていた。


「おかえりなさいませ。どうぞご乗車ください」


 胸に手を当てて頭を下げる男性の御者。

 シュッとした体型で乙女ゲームらしさを感じさせる整った顔立ち。


「ありがとう。では、城までお願いするわね」


 母上が御者に声をかけて馬車に乗る。

 続いて俺、お師匠様の順に乗車。

 三人とも座ったことを確認した御者は扉を閉めて御者席で手綱を握る。


「では、参ります」


 御者が馬車の車内に出発を知らせると手綱を操り馬を進めた。

 母上とお師匠様の間に座る俺は、少し離れた窓から外を見る。

 初等部の校舎──校門から出ると王城の正門から南に伸びる大通りに出る。

 初等部の南隣に中等部。中等部から大通りを挟んだ正面に[呪われた永遠のエレジー]の舞台となる高等部と立ち並ぶ。

 初等部の向かいは王国騎士団の訓練施設があり、更にその向こうには王国魔法研究所という研究施設が存在する。

 南の外壁門──南大門と呼ばれているこのあたり一帯は育成機関が集中。

 当然、この周辺に通学者のための寮もあるので若者たちで賑わう──とはいえ、今はまだ昼にもなっていないから人出は少ないけれど、若い貴族の男女をあてにした小売雑貨店や服飾店、それにレストランなんかも近くに並んでる。

 将来、お世話になることだろう。

 馬車は進み、貴族街の南側を抜けると王城や学園に勤める貴族たちの家が軒を連ねる街並みを望む。

 王城では父上の側近の貴族だけでなく多くの貴族が出入りして職務に励んでいる。

 こういった王宮務めの貴族が住まう住宅街は外壁内に点在するが、この南側は攻略キャラの一人が住居を構えているため物語の舞台の一つとなっていた。

 そんな調子でお師匠様の向こう側の窓を見ていたら──


「サクヤ殿下はお外をご覧になられたいのです?」


 お師匠様が気遣ってくれた。


「よろしいのではないかしら? 民衆にお手を振ってあげると良いかもしれないわね」


 お師匠様の言葉に追随した母上。

 顔を売るつもりは更々無いので丁重にお断りを。


「いえ、ここで大丈夫です」


 俺は二人の女性の間を選んだ。

 柔らかいお尻と太ももに挟まれる感触。

 目線の高さは二人のお胸。

 サクヤだけの記憶と価値観しかなかったら何とも思わなかっただろうけど、俺(朔哉)の記憶からの発せられるものは違う。

 極上の美女の二人の間で、たわわな乳房を両方に拝めるこの場所は夢のような桃源郷。

 母上は俺の顔を見下ろして俺の目線の先を見ると、ニコリと微笑んで頭を撫でてくれた。


「それにしても学園は全く変わってなくて懐かしかったわ」


 左側の窓に視線を向けて車外を眺める母上。


「母上も通ってらしたんですよね」

「ええ。もう二十年くらい前だわ。歳はとりたくないものね」


 憂いげな声色で言葉を返す母上。

 ああ、歳を実感させてしまったのは失敗だったか。

 いくら若く見えて美しいとは言えもう直ぐ三十路。老けていくのがやはり心痛なのだろう。

 そういうのを刺激したのは悪かった。今後、気をつけよう。

 母上は気を取り直したのか顔をお師匠様に向けて言葉を続けた。


「ブラン様のお国には学園のようなものはあったのかしら?」


 お師匠様の故郷だった綺麗な廃墟に連れて行ってもらったことはあったけど、呪いや封印のほかに詳しいことは聞いたことがなかった。

 俺(朔哉)の記憶から、お師匠様が言いたくなった時に聞けば良いと思っていたからだ。

 お師匠様の事情を知らない母上は遠慮なしに問う。

 お師匠様は母上の質問に悪い気はしなかったのか機嫌良さげな声で答えた。


「わたくしが通っていた学校は今はもうございませんがとても良いところでした。サクヤ殿下にも体験させたかったほどです」


 誇らしげなお師匠様。


「まあ、とても良いところでしたのね。ブラン様は随分と遠い国のご出身だと伺っておりましたので、他の国ではどうなのかと気になりました」

「わたくしもニルダ様が──サクヤ殿下がこれから通う学校がどのようなものなのか気になりますね」

「でしょう? 他国のことってわからないもの。だから、お話を聞くだけでも楽しいのよ。今度ゆっくりと聞かせてくださるかしら?」


 そんなお師匠様を見た母上は楽しそうに言葉を連ねる。


「ニルダ様がご所望とあれば、お話しましょう」

「そうね。サクヤが入学して学校に通うから講師の仕事が──って、ネレアとノエルのことも見てくださるよね?」

「明日から早速、ネレア様とノエル様の教育係をさせていただくことになっております」


 お師匠様は明日から異母妹のネレアと実妹のノエルの教育係を兼ねることになっていた。

 ノエルは俺が七歳になってから生まれた妹で今年三歳になる幼女。

 ネレアと競うほどのブラコンなのか夜な夜な俺のベッドにやってきていつも朝まで三人で寝る仲の良い妹だ。

 いや、競うというと語弊があるな。結託してると言ったほうが近いか。

 今の俺はノエルから逃れられない。

 それは特異な才能に依るものなんだけど、お師匠様はネレアとノエルに自身の才能を他人に言わないようにと釘を差した上で教育係を買って出たかたちとなった。

 で、その申し出をピオニア王国の王様である父上にしたところ、既に俺を教えた実績を積んでおり、ネレアもノエルもお師匠様に懐いていることから父上は特に反対しなかった。

 そんなわけで俺が学園に通う明日からネレアとノエルの教育係となった。

 なお、お師匠様は俺の側近や講師を辞したわけではなく、俺の側近を続けながらの兼務である。

 しかし、母上も鈍感ではなく、ノエルの異質さに気が付きつつあったのか──


「ノエルも見てもらえるということなら、サクヤのこともそうだったけど、一度、ブラン様の教育の様子を見てみたいものね」


 と、言った。

 ノエルはファストトラベルが使える。更にネレアと同様、鑑定もできる。

 お師匠様はファストトラベルを持ち、それを無自覚に使うノエルを慮った。

 ノエルの無自覚さが母上に疑心を持たせたのかもしれない。


「ええ、よろしいでしょう。ノエル殿下については、まだ幼く自覚がないところがありますからいずれニルダ様にはお話をしなければならないと思っておりました」

「ブラン様がそう思ってらっしゃるなら早いほうが良いわね」

「早いほうが宜しいでしょう」


 俺の頭の上で行き交う母上とお師匠様の声。

 どっちも良い声なんだよな。

 ネレアとノエルの教育は母上も知るところになるようだ。

 そうだったらありがたい。

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