ラクティフローラ地下水道②
ラクティフローラ地下水道の一階層。
とっても広くて歩くのが辛い。
でも、魔物はたくさん出てくるしその度に死にそうになりながら何とか倒してきた。
そして、辿り着いた宝箱。
ミスリルショートソードを手に入れた。
ショートソードはとても小さい。
ナイフより長く重たいけど城で訓練するときに使う木剣の半分以下の刃渡りで木剣よりずっと軽い。
これなら戦える。
ミスリルはスライムの粘液でも溶けないはずなので、手入れができればずっと使えるだろう。
ここに来るまで本当にキツかった。
でも、何回もの戦闘でレベルが上がったし、その度に戦闘は楽になった。
ゲームなら今がもっともバランスの良い難易度かな。
ということで武器を手に入れたし、この階層にはめぼしい防具やアイテムはもう落ちてない。
ならば二階層へ急ごう。
ミスリルショートソードを手に入れた小部屋を出て、階層ボスのいる大部屋へ急ぐ。
レベルが上がり、武器を手に入れた俺に、この階層の魔物はもう敵ではなかった。
ソロで戦い続けているからレベルの上がりがとても早く、落ち着いて戦えるようになったので魔力の調整に意識を割けている。
身体強化も例外ではなく、身体への負担を抑えた強度の身体強化に留めることが出来ていた。
つまり、もう余裕ってことだ。
だがしかし、それでも、余裕でないことが一つある。
俺は六歳児。
家を飛び出したのは朝だ。
もう昼は夕に過ぎているだろう。
時間は全くわからないけれど空腹が限界だ。
お腹が空いた。
この階層はネズミやスライムばかりで食べ物になりそうなものがない。
オオネズミは食べようと思えば食べられるのかも知れないけど、汚泥塗れのネズミを食いたいかというと空腹でも我慢できるほどのものだ。
とにかく階層ボスのフロストフロッグという氷魔法を使う大きなカエルをやっつけてそれを食べよう。
そしてそこで寝る。
魔物は一度倒したら十二時間はリポップしないはず。
そう考えたら気が楽になってきた。
移動距離がとてつもなく長いのでめちゃくちゃキツいけど、何とか階層ボスの大部屋まで到着。
「足が痛い……」
裸足でここまで歩いてきたから足が血塗れ。
戦闘が楽になって回復魔法を使わなくなってからのこれ。
ボス部屋の扉を開ける前に回復魔法を自分にかける。
足の痛みが引いて、俺はボス部屋の扉を開けた。
フロストフロッグがあらわれた!
フロストフロッグが俺が身構えるより早く襲ってきた。
フロストフロッグのこうげき。
フロストフロッグはこおりのいきをはいた。
正確にいえば待ち構えていたんだけど。
素早さに定評のあるフロストフロッグ。
前世の記憶がなければそのまま食らっていたかも知れない。
でも、俺は大丈夫。
身体強化をかけてステップを素早く踏みフロストフロッグのフロストブレスを回避。
うん、弱い。
俺は直ぐにステップを踏み直してフロストフロッグの懐に入り込んだ。
たぶん心臓はこのへんだ。
ミスリルショートソードをお腹に突き立てて、そのまま上に向かって刺す。
刃先から伝わってくる感触で心臓を一突きできたと確信。
剣を引き抜いてバックステップを踏んでフロストフロッグから距離を置いた。
フロストフロッグは血を吹き出しながら倒れで絶命。
一撃で倒せたとは言え、フロストフロッグは階層ボス。
大量の階位素子──経験値が流れ込んだ。
これまでで最も膨大な経験値。
フルパ──六人構成のフルパーティーで挑む戦闘にソロで挑んで六人分の経験値を独り占め、さらに、トドメを刺した時の経験値1.5倍のフィニッシュボーナスまでゲット。
ゲームのままなら経験値九倍。
感覚的にもそれぐらいの経験値を得た気がする。
そんなことよりも肉だ。
血が回る前にフロストフロッグの脚をもいで焼いて食べる。
ミスリルショートソードで肉を切り脚を引っこ抜く。
血抜きとかできる時間はないし、十二時間後にはリポップするからそれまでに睡眠を済ませたい。
そうしてようやっと手に入れた一時の平穏。
フロストフロッグのもも肉を魔法で焼いて食べた。
美味いんだけど味付けしたい。
それから眠くなった俺は硬い床に寝そべって夜を明かした……はず。
空が見えないから時間とか全くわからないんだよね。
二階層より先は非常に順調だった。
レベルが上がってからというもの[呪われた永遠のエレジー]の最強キャラの銘は伊達じゃないと実感する。
ゲームでもステータスは至って普通に見えるのに異様に強いのがこのサクヤ・ピオニアというキャラクター。
記憶の中のサクヤ・ピオニアという攻略対象を振り返ってみたらどのキャラクターも魔法を使うと行動順がいくつか下がるのにサクヤだけは下がらなかった。
ゲームのサクヤはさらに被ダメージが常に半分という不思議な防御力を発揮した。
それが今の俺でもそうなのか知りたいところではあるがよくわからない。
そして、述べ四日かけて辿り着いた地下十階。
十階層の階層ボスの部屋の前に着いた。
一階層で武器を手に入れてからは本当に駆け足でここまで進み、ようやっとゴールが見える。
途中で手に入れたのは革の靴のみ。
倒した魔物の肉で飢えを凌いでここまで来た。
早く家に帰って美味しいご飯を食べたい。
俺は母上の顔とお師匠様の素敵な顔を脳裏に浮かべながらボスの部屋の扉を開けた。
ダンジョンボスはレイ・オム・レザールというリザードマン。
少し大きくて強そうな感じのボスだ。
レイ・オム・レザールのレベルは32。
俺のレベルはそれよりも遥かに高いはず。
何故なら十階層に入ってからレベルが上がっていないからだ。
扉を潜ってダンジョンボスの大部屋に入った。
部屋の中はじっとりとした空気で湿気が強く少し蒸し暑い。
リザードマンは寒さに弱い。だから、部屋の温度を上げているのだろう。
湿気が強いのもそうだ。
彼らは乾燥した空気より湿って淀んだ空間を好む。
薄暗い部屋に俺が光属性で周囲を照らすとレイ・オム・レザールの姿が見えた。
その途端、レイ・オム・レザールがハンドアクスを振りかざして飛び掛かってきた。
そんな大振りでは俺には当たらない。
軽いステップでハンドアクスを交わしてミスリルショートソードを突き刺す。
レイ・オム・レザールは急所を避けたがショートソードの刃に触れて脇腹を切り裂いた。
リザードマンの王は俺から距離を置いて傷口が再生するのを待つ。
やはり、これまでの魔物よりも若干知能が高い。
無闇に突進せず、適切な距離を取ろうとする。
俺がミスリルショートソードを構えるとレイ・オム・レザールはバックステップを踏んで更に距離を取った。
毒霧──ッ!
レイ・オム・レザールの行動パターンの一つだけど、ゲームではコマンド選択型のロールプレイングゲーム。
今はリアルタイムアクションゲームみたいで、レイ・オム・レザールがバックステップしつつ口の中に毒気を溜めているのがまざまざと見えた。
それだけの余裕があると事前知識がある俺としては対応がとても簡単。
時間にゆとりがあるから体内で魔力を練る時間ができる。
俺はレイ・オム・レザールとの距離を詰めて次の魔法を使うための準備を整えた。
レイ・オム・レザールが口を開けて毒の息を吐く。
そのタイミングに合わせて俺は風属性魔法の応用で目の前に空気の塊を作って爆発させて毒霧のブレスを押し返してやった。
俺に届かずにレイ・オム・レザールの顔に降りかかる毒の霧。
自らの攻撃で鱗が溶けて皮膚が焼ける。
痛みに怯んだ隙をついて俺はレイ・オム・レザールの懐に踏み込み、腹部から心臓に目掛けてミスリルショートソードを突き刺した。
続けざまに剣を抜いて火属性魔法で傷口を焼き再生を妨害。
それからレイ・オム・レザールが離れると彼はその場で倒れて死んだ。
しばらくするととてつもない量の階位素子が俺に流れ込んできた。
まさかとは思うけど……。
──初回クリアボーナス。
しかもソロなので六倍。
レイ・オム・レザールの経験値でもかなりのもののはずなのに、それを凌駕する経験値。
かなりのレベルが上がった感触があった。
とはいえ、もう身体が限界。
少し進めばセーフティーエリア。
アムリタの輝水を入手しなければならないし、一旦そこで休もう。
レイ・オム・レザールの脚を一本もいでから俺は更に奥を目指して移動した。
白を貴重としたセーフティーエリア。
ここにはいたれりつくせりといろいろなものが存在した。
俺は最初に風呂に入る。
四日ぶりの風呂だ。ここには何でも揃ってる。
特に女性が使いそうなものは全て。
液体のボディソープにシャンプーとリンス。
王城にないボディソープは特に感動。
思わず二回も身体を洗ったくらい。
髪の毛も一度洗っただけではギトギトした感触が取れず、二回洗って泡立たせた。
風呂から上がって今度は料理。
レイ・オム・レザールのもも肉を焼いて食べる。
ここは調理器具も揃っていて調味料まであった。
味のついた肉はとても美味しい。
新鮮すぎて硬いけど、それはサバイバルで生き残るためには耐えなければならないことだろう。
食べたら歯磨きをして、それでようやっと落ち着いた。
セーフティーエリアの奥には高難易度ダンジョンに入るための扉がある。
その手前にアムリタの輝水を入手できる湧き水があった。
湧き水の傍には透明な中瓶が置いてあったので、その水を詰めて封をする。
これで無事にアムリタの輝水を手に入れることができた。
ゲームではこれがパーティー全員を完全回復させる。
回し飲みするんだな。
中瓶を見てしみじみ。
それから一旦、セーフティーエリアにあるフカフカの六つのベッド。
俺はそこで休もうか休むまいか悩んだ。
思い悩んだ結果、俺はアムリタの輝水を飲み干した。
中瓶は空になると光の粒になって霧散。
もう一度取りに行ったらちゃんと入手できた。
これは凄いな。
何度だって来れちゃいそうだ。
十二時間経てばレイ・オム・レザールがリポップするし、周回してレベルが上がるなら悪くないだろう。
でも、地下水道の初回クリアボーナスを独り占めしたからレベルが上がりすぎてここでの経験値はもうもらえないかも知れない。
そしたら次はどこでレベル上げをしようか──。
クリアしていない中級ダンジョンを探して初回クリアボーナスを貰って回るしか無いのかな。
まあ、今考えても仕方がないことだな。
今は一刻も早く母上のところに帰ろう。お師匠様にも会いたい。
帰りは極力戦闘を避けて出口まで一気に駆け抜けよう。
そのためにアムリタの輝水を飲んだわけだしね。
俺は形振り構わず身体強化を目いっぱいに使って十階層から出口を目指した。
「眠い……」
「キツい……」
「疲れた……」
「痛い……」
「手が動かない……」
リリウム教キャンディダム教院の教会の裏庭にある古井戸から出たとき。
俺の左腕はもう上がらなかった。
脚も傷が深くて力が入らない。
魔力も体力も限界まで使った。
そうして、休まずにラクティフローラ地下水道から抜けてきた今。
空は朝日が昇る頃。
俺は急いで王城を目指す。
城の門は固く閉ざされているが衛兵が横に居るので声をかける。
「ご苦労さまです。サクヤ・ピオニアです。ただいま戻りました」
「なッ! 殿下ッ! サクヤ殿下だッ! しかし、そのお怪我は──ッ!?」
衛兵が大袈裟に騒ぎ出す。
俺は一刻を争っているので、
「ごめんなさい。急いでるんです。通してください!」
こういう時に小さいからだというのは便利だ。
俺は衛兵の間をすり抜けて城に入った。
まず、母上の部屋を目指そうと思ったけど、何故か自分の部屋に入った。
「サクヤです。ただいま戻りました」
部屋に入るとマイラとお師匠様がいらしてた。
「お、お師匠様ッ! マイラ様!」
「サクヤ殿下ッ!」
「殿下ぁっ!」
二人して俺に抱き着いてきた。
「ご無事じゃなさそうだけどご無事で何よりです」
マイラが泣いている。
「サクヤ殿下。どうして? 本当に心配だったんだよ。良かった……。本当に良かった……」
白の魔女が今にも泣き出しそうな顔で俺を抱き締めた。
「傷だらけじゃないか……。回復してあげるよ」
「待ってください。ボク、母上のところに急いでるんです。一緒に来てもらえませんか?」
「分かった。でも、そのケガでは動くのもやっとだろう? わたくしが抱っこしてあげよう」
白の魔女が俺を抱き上げようと手を脇に差し込んでくるんだけどこれが痛い。
この人、過保護か。
「お師匠様、大丈夫です。マイラ様もお願いします」
俺は逃げた。でも、二人ともちゃんとついてきてくれて、俺は無事に母上の私室に入ることができた。




