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従兄弟1

「本当にもう行っちゃうの?」

「お願いだから、そんなこと言わないでくれ・・・。行けなくなるじゃないか・・・」

 時刻はもう夕暮れ。玄関前の広場にミオと家族が見送りに出てきていた。

 早く主星に戻らないといけない。放り出してきた仕事がある。

 ミオが胸の前まで近づいてきて不安そうな瞳で見上げられた。

 ミオの前髪をかきあげる。その見上げる瞳を見ていると抱きしめたい衝動に駆られるが、親がいる手前だからこれ以上は・・・。

「早く行け、時間に間に合わなくなるぞ。この子のことはまかせておけ」

 親父はそう言ってぽんとミオの肩に手を置いた。

「・・・あんまり必要以上にかわいがるなよ」

「何を言う、お前の嫁になるならこの子は私の娘。娘をかわいがって何が悪い」

 さらにもう片方の手も肩に置く。

「ナータには厳しかっただろうがっ」

「あの子は私によく似ていい性格をしているからな。こんな娘が欲しかったんだ」

 そう言って自分の方に引き寄せた。

「わっ」

 このクソ親父・・・。握りこぶしを作って強く握りしめる。

「さぁ、ミオちゃん。私をお父さんと思っていいからね」

「いいんですか」

「ああ、もちろんだ」

 ミオは嬉しそうに笑った。

 なんであんなに仲良くなってるんだ。まぁ、ミオの方が懐いてるから仕方ないが、その理由が俺に似ているからだし・・・。

 拉致って帰りたいが、それができないからここに来たわけで・・・。

 ジレンマを抱えながらも時間が本当にないので仕方なくリフターに乗り込んだ。

「何かあったらすぐ連絡するんだぞ。分からないことは全部エリクスにまかせるんだ。彼なら上手くやる」

 エリクスは後ろに控えていて、言葉を受けてうなずいた。それを見て制御装置を作動させ、車体を浮かせて発車の準備をする。

「次はいつ帰ってくるの?」

 ミオは親父の手を振り切って近づいてきた。よくやった。

 窓に手をかけるから開けてやる。

「分からないが、なるべく早く。そんな顔するなって」

 長い黒髪を指にからませて引っぱる。ミオは少し嫌そうな顔をしてリフターを離れた。

「じゃあな」

 その頬に触れてから手を放し、制御装置の加速スイッチを押した。


 行っちゃった・・・。

 空を滑るリフターに音はない。ただ風の音が巻き上げるそれとともに残るだけ。

 夕暮れのオレンジ色の光が寂しさを増して、長く伸びる影が心にも落ちる。

「中に入ろう。風が出てきた」

「はい、あの、おじ様!」

「おじ様、か。ミオちゃんにはお父様って呼んでもらいたいが、まぁいいだろう。で、何かね?」

「あ、はい。あの、私勉強したいんです。でもそういうのどうしたら」

「なんと勤勉な娘さんなんだ!うちのナータとはえらい違いだ。あの子は言っても言っても聞かなくてな・・・」

「旦那様、それらに関しては私が。すでに各教育機関に依頼しており、ミオお譲さまにあった方法を検討中でして・・・」

 エリクスが一礼をして矢継ぎ早に言う。それをおじ様は手で制した。

「まぁそんなにくもんじゃない。ミオちゃんも今日ぐらいはゆっくりしたらどうだい?」

「でも・・・」

「まぁまぁ、まずはその細っこい体に肉と体力をつけなければ。風にも飛んでいきそうだからな」

「あ、はい・・・」

 ミオは自身の手首を掴んでその細さを確認し、自分の体を見下ろす。骨の浮き出た体は少女と言うよりは少年のようだった。

「まずはティルス(夜会服)に着替えましょう。あなたのためにたくさん用意したのよ」

 レクセルの母親がミオの手を取った。

 たくさんって、たくさんなんだろうなぁ・・・。王宮でもクローゼットにめいっぱい詰め込まれてたもんね・・・。こんなにいらないって言ったけど、必要だって言われて、本当に一日に5回くらい着替えて、それで一回来たら同じの二度と着ないんだよね。

「まぁまぁ、本当に細いわねぇ。折れちゃいそう。サイズ本当に合うかしら」

「それはミオお譲さまの映像から分析済みですのでご心配なく」

「あらあら、本当エリクスはすごいわねぇ」

 って、ちょっと待って。おば様は笑ってるけど、何、この国の技術では人のスリーサイズは映像でバレバレってわけだろうか。

 ちょっと不満そうな顔をしていると、

「お譲さま、そのような顔をなさらないで下さい。急な話でしたので仕方なく・・・。普通はこのような手は使いませんから」

 エリクスが慌てた様子でフォローしてくれた。

「そ、そう。ごめん、変な顔して」

「いえ、それにこのようなデータは完全に保護されますので」

「うん、分かった。ありがとう」

「ささ、お部屋へ行きましょう。何色にしましょうかねぇ」


 いろいろと揉めて、結局深い藍色のドレスで食事ということに決まった。

 クローゼットの中には色とりどりのドレスが用意されていてとっかえひっかえ試着させられてようやく決まった。やれやれ。

 その間おば様は本当に楽しそうだった。本当の娘であるナータさんがあの性格だから、こういうことあまりなかったそうだ。ナータさんのあの計算高い性格は裕福な商人の娘のおば様の家系からの遺伝らしい。おば様にはそういうところ全然なさそうなのに、世に言う隔世遺伝だろうか。

 まあ、このぽわぽわした性格は自分に似ている気もするから、レクセルはマザコンじゃないかと密かに疑ったりもしてみたり。

 とにかくそんなこんなで優雅な晩餐が始まった。

「ミオちゃんすごいぞ」

「はい、何でしょう」

 食事の席でおじ様は上機嫌に話しだした。

「君に会いたいという旨の超光速通信が3000通ほどこの星の貴族たちや近隣の惑星から来ている」

「さ、3000!?」

「はっはっは!さすが救国の女神様だ。次期皇帝の寵妃だったこともあって皆君とつながりを持ちたいと望んでおるようだぞ」

「そ、そんな、私別に寵妃だなんて・・・」

「実際どうだったかなんて関係ないさ。ただ皇子が君のことを気に入っている、そのことが重要なのだ」

「は、はぁ」

「だからまぁ、そんな連中相手にすることはない。ただ私の親族には会ってもらいたいのだが」

「はい。それはもちろん構いません」

「そうか。近いうちに私の弟が訪ねてくる。その息子が君と同じくらいの年だから勉強相手にもなるんじゃないかと思っている」

「はい」

「会ったら仲良くしてやってくれ」

 そう言っておじ様は少し意地悪そうな笑顔を浮かべた。

「は、はい・・・」

 な、何だろう。この笑みは・・・?


 

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