銀の人1
惑星オー。帝国主星と亜空間航路が繋がれた、帝国の信厚いハユテル家が治める空域の中心星。
帝国でも少ない天然自然のハビタブルプラネット。深く青い色の海を擁し、乱開発を嫌った歴代当主達が自然をそのままに残し、風光明媚な惑星として知られていた。
その一画。惑星の首都から少し離れた郊外にレクセルの「家」というのはあった。
最初は遠いからよく分からなかったけど、だんだんと近づいてくるとその大きさに目を見張る。
「家」なんて言うのは似つかわしくない。いうなればお屋敷、いや、お城?。
周囲見渡す限りには他の建造物なんて見当たらない。だからあれがレクセルの家なんだって分かる、分かるんだけど・・・。
「あれ、本当に家?」
そう呟くのが精一杯だった。
やがて高い鉄製の塀に辿り着き、大きな門扉がガラガラと重い音を立てて開いていった。レクセルはリフターを門の中に乗り入れる。そして真っ直ぐに続く道。その先にレクセルの「家」がその全容をようやく現す。
「そんな呆けた顔してるんじゃない。今日からあそこが君の家なんだぞ」
言われたって実感がわかない。王宮には住んでいたけど、自分の中での家の基準というのはあくまで地球の日本の我が家、2階建て4LDK。
ここはどんなもんなんだろう・・・、嫌だ数えたくない・・・。
近づいてくる大きな大きな建造物。煉瓦調の外壁はどっしりとした重厚感がある。三角屋根はかわいらしいが黒い色が威圧感を醸し出している。さすが軍人の家系のお家だけあるなぁ。
玄関の前には人が出迎えに出てきていた。
「父さんと母さんだ」
「ええっ!?」
いきなりレクセルのご両親とご対面なんて・・・。
「大丈夫。とって食ったりしない」
「緊張する・・・」
「平気だって」
レクセルは可笑しそうにくすくすと笑っていた。
「ドアは召使いが開けてくれるからね」
リフターが止まり、自分で開けようとしていてすぐに見とがめられた。
そ、そうだね。思い出すのよ、私はこの国の皇太子妃だったんだから。
自分自身を鼓舞して開けられたドアからまず手を差し出し、外で待機している人の手に掴まってゆっくりとした所作で降りる。優雅に、優雅に・・・。
「よくいらっしゃいました」
優しそうな笑顔の少し太った女性が口を開く。レクセルのお母さんだっ!
「初めてお目にかかります。サハラミオです」
スカートをつまんで、ってスカートがないやっ。うー、まぁいい、形だけで・・・。膝を少し曲げて頭を下げる。よし、完璧。マナー叩きこまれておいてよかったー。
「まー、ずいぶんしっかりしてらっしゃるのね。見習わなきゃー」
あれ、どっかで聞いたような。そうか、ナータさんのお母さんでもあるわけだから・・・。
「ほう、これが噂の救国の女神か」
低く落ち着いた声が頭上から降り注ぐ。同じように礼をしてから目を上げる。
レクセルと同じブルーブラックの髪、少し白髪が交じり、口ひげを蓄えている中年の男性。
レクセルにそっくりだった。
ミオは目をぱちくりとさせて見た。
「どうしたね?私の顔に何か付いているかね?」
「いいえ、私、レクセルのお父さんはとっても厳しい方だって聞いていたんです」
まだ戦艦に乗っていた時、レクセルから運動と称して体を鍛えるための訓練を課されたことがある。すっごく厳しかったけど、レクセルの友達のヒーズという人が教えてくれたことがある。レクセルの父親はとても厳格な人だって。
「だからどんな怖い人なんだろうって思ってました。でもレクセルにとても似ているので安心したんです」
「ほぉ、私の顔を見て安心とな」
レクセルのお父さんは笑った。
「ええ、レクセルに似ているならきっと優しい人なんだろうって」
「はっはっは!優しいとな?レクセルが?おい息子よ、さすがのお前も好いた女には優しくしたんだな!」
「いーえー、レクセルはもとから優しい子でしたよ」
「父さん、母さん・・・」
レクセルは困ったように額を手で押さえていた。
「さぁ、長旅疲れたでしょう。中に入って」
「はい」
中に一歩入るとそこは別世界。天井の高さとか、基準はきっと自分と違うんだよね。広々とした玄関ホール、天井からはガラスの大きなシャンデリアが吊り下げられ、まるで映画のような湾曲した二対の階段が2階へとつながっている。
「お待ちしておりました」
そのホールには一人の青年が立っていた。ミオに向かって深々と頭を下げると、銀色の髪がさらりと肩から落ちる。
きれいな男の人・・・。ミオは息を呑んだ。端正な顔立ち、美しい青い瞳、ほっそりとした均整のとれた体躯。
ミオは慌てて礼をする。
「ミオ、こいつはうちの家令だ。礼は必要ない」
少し苛立ったような声でレクセルから是正された。
「美しい若者だろう?我が家自慢の人工生体機械体の疑似人格付き執事、エリクスだ」
レクセルのお父さんが自慢げに紹介するが、
「え・・・と・・・?」
たくさん並べられた難しい言葉に頭がついていかない。
「いわゆる人型機械さ」
レクセルが注釈を入れてくれた。
「ロボット!?本当に!?」
まぁ、これだけ科学が発達している帝国だもの。いないわけないよね。でも、でも・・・。
「人間にしかみえない・・・」
確かによーく見るとどこか機械的な感じがする。血の通ってないかのような白い肌、どこか違和感のある表情。でもほとんど見分けなんかつかない。
「・・・触っても、いい?」
どうしても機械なのか確かめたくてレクセルに確認をとってみる。
「ああ」
二つ返事で了解される。
「ええっと・・・」
「エリクスでございます」
「エリクスさん・・・」
「呼び捨てで結構です」
「じゃあ、エリクス、ちょっとだけ・・・」
「はい」
恐る恐るその頬に触れる。温かい。人間の体温を真似ているんだろうか。瞳を覗き込むとその奥に燐光がパルスのように閃く。本当に機械の目だ・・・。
ふいに心音が聞きたくなってその胸に片耳をつける。・・・やはり心音はしない。
「ミ、ミオ、あー、一応そいつも男なんだが・・・」
こほんと咳払いをされた。
「でも機械でしょう?」
振り返って発した言葉によってその場に流れた悲しい空気は、地球とは違う概念を発達させたこの世界の人々との隔たりをミオに痛感させたのだった。




