君とともに5
恒星間を移動する大型旅客宇宙船。いわゆる金持ち用豪華客船。一般の宇宙船に比べサービスの質も設備も格段に違う。もちろん値段も。自分だけの時ならそう利用はしなかったが、今回はミオがいる。
「どうぞ、こちらでございます」
「ありがとう」
客室乗務員に部屋に案内されると、ミオは真っ先に窓辺に駆け寄っていった。
「相変わらず外を見るのが好きだな」
ソファーに座りながらレクセルは窓に張り付いているミオを見てクックと喉を鳴らして笑った。
「だって好きなんだもん・・・」
笑われたことが恥ずかしくなったのか窓を離れてレクセルの隣に座る。
恒星間を旅行する宇宙船の最上級の船室のソファーはクッションがききすぎるほどふかふかとしていて、座った途端にミオは沈み込んだ。
「わぁっ」
「・・・っく」
「笑っちゃだめぇっ」
「ご、ごめ・・・くくっ」
笑いをこらえながらじたばたとするミオを助け起こす。
「もう、こんなにいい部屋じゃなくていいのに」
「君はすぐ自分の立場を忘れる。救国の女神さま」
「あ・・・」
ミオは下手に顔が知られすぎているから外を歩く時は気をつけなくてはならない。だから無用なトラブルを避けるには隔離するに限る。
「別に外を見ててもいいんだぞ」
そう言いつつミオを引き寄せた。ミオも甘えたように頬を摺り寄せてくる。
ほんわかとした幸せ感が、じんわりと胸にしみた。
ああ、でもこの幸せも18時間後に終わってしまうのか・・・。
レクセルの領地でもあるオードヴェル領は幸いなことに帝星と直通の亜空間航路が開かれており、大した時間を費やさずに移動できる。
しかしこれからミオに会おうと思ったらこの距離を移動しなければいけないのか。皇子の持ってるような自前でワープ航行できる船があればいいが、あれはバカ高い上に個人が所有できるようなものじゃない。戦略上勝手にワープされたらたまったもんじゃないからな。まぁ、そんな技術も金も帝国が厳しく管理してるから滅多なことは起こったことはないが。
「・・・18時間が短いだなんて思ったは初めてだ」
「本当。きっとあっという間だろうね」
「ああ」
「・・・どうして、レクセルとずっと一緒にいちゃいけないの?」
胸に顔を埋めたミオが切なそうに聞いてくる。
「私は・・・別に・・・」
目の前の食べものを食べないのは男としてなんとかという言葉もあるにはある。あるんだが・・・。
ミオの肩を持って胸から放して彼女を見て言う。
「いや、その・・・なんというか、そ、そう言ってくれる君の気持ちは嬉しい。けど、それだけじゃないんだ。俺だって君と一緒にいたい。だが主星といえど何があるか分からない。そこに不慣れな君を一人置いておきたくないんだ」
それでもミオは納得いかないといった表情だ。
「でも君がもっとここに慣れて一人で生活できるくらいになったなら、俺も安心して主星に呼べると思う」
ミオの顔が輝いた。
「そうだな、やっぱり文字を読めるように、あと買い物とかできるようにならないとな。習慣や文化なんかも知っていかないと・・・」
「うん、頑張る」
言い終わらないうちに笑顔で宣言するミオ。本当嫌がったり、弱音吐いたりしないよな。
「ああ、頑張れよ」
そのおでこにキスをしてやった。照れたのか顔を真っ赤に染めると立ち上がってまた窓辺に行ってしまった。それを掴まえようとして空振ってしまった。
逃げられるとつい追いたくなるのが男の性で・・・。
「ミオ・・・」
「どうし・・・ん!」
後ろから掴まえて首を無理にひねらせて唇を塞ぐ。
「この航海が終わったら君にしばらく会えないだなんて・・・。仕方ないのは分かってるけど、だから、少しでも近くにいたい・・・」
「レクセル・・・」
18時間はほんと、あっという間だった。