君とともに3
部屋は来客用のベッドルームになっていた。日本式で言うと10畳くらいの部屋にきれいにベッドメイクされたベッドが二つ。他に目を引くものはない。
一人暮らしなのにさすがと言うかなんというか。
「全く、いい暮らししてるわよね。ここ、兄さんが帝都勤務になったって時にどっかからもらったって言ってたわ。私なんか普通の賃貸なのに」
同じことをナータさんも考えていたようだ。
しかしこんな超高級そうなマンションをぽんとくれる人がいるなんてやっぱりさすがと言うか・・・。
「さ、脱いで脱いで」
ナータは袋を床に放り出すとミオの後ろのホックをはずしにかかった。
「じ、自分でできます~」
「いいから、いいから。ほいっと」
あっという間に剥かれてしまった・・・。
「細いわねー。ごはんちゃんと食べてる?でもこんなんつけてたら食べれないか」
体型をよく見せるためのコルセットを外しにかかる。それを脱ぐとやっとほっとした。
「へー。見た目よりけっこうあるのね」
「は・・・わわ」
ミオは慌てて胸を押さえた。
「なーによー、女同士なんだからいいじゃない。ちょっと触っていい?」
「え!?」
言うやいなやナータは後ろからミオの胸をわしづかむ。
「え、ちょ・・・いや・・・、やめ・・・」
ちょっとどころではなく胸をもみしだくようにされる。
「あ・・・ふ・・・んん」
「かーわいー。こんなことで陥落寸前なんて、処女は初々しくていいわー」
「やめ・・・もう・・・」
「うーん、Bってとこかな。やっぱりいくつか買っといてよかった」
そう言うとぱっと手を放し、袋から色とりどりの下着を取りだした。
なんだ、サイズ測ってたのか・・・。でももうちょっとお手柔らかにしてほしかった・・・。
袋からはレースや細い紐のついたブラやショーツががひらひらと舞い出てきた。
「は、派手じゃない?」
ミオはその一つを取ってまじまじと見る。それは薄紫の光沢のある素材のショーツで黒い紐がついてた。
「それなかなかいいでしょ?でもミオちゃんにはやっぱり白よねー」
と純白のレースが見事なブラとショーツを手に取る。
「ちょっと着けてみてよ」
「う、うん・・・」
ミオは言われるままに身につける。
「ちょっと大きいかも」
寄せてあげてみてもどうにもカップが合わない。
「うん、似合う!ま、いいんじゃない、どうせすぐ脱がされちゃうもんだし」
「脱が・・・」
「きゃはは。そんなに赤くならなくてもー。これで兄さんもいちころよ!」
「そ、そんな・・・・」
ミオは赤くなって顔を隠す。
「ね、上はこれ着てみてよ。今流行りなの」
がさごそと違う袋をさぐってナータが見せたのはシャツワンピースのような、だが生地が厚く、大きなボタンが特徴的な服だった。これも言われるまま身につける。これはきちんとサイズが合っていた。
「わー、かわいいっ、やっぱりよく似合う!私こんな妹欲しかったんだよね!仲良くしましょうね」
「はい」
「かわいいー!」
ぎゅっと抱きしめられる。感情が高ぶるとこの家系は抱きしめる癖があるんだろうか・・・。
「兄さん、着替えすんだよ。ねぇ、夕食は一緒に食べてっていい?兄さんのおごりで」
ナータはミオを着替えさせ終わるとリビングへ出ていく。
「あれ、兄さん顔赤くない?ははーん、さては盗み聞きしてたな、このどすけべー」
「大声でしゃべるからだろっ。全くはしたない・・・」
「兄さんってば意外と純情~。ねぇ、私20でおばさんになりたくなんかないから避妊だけは気をつけてよね」
「な・・・、そ、そんなことお前に言われなくても分かってる!」
「だって。ミオちゃん、兄さんがゴム付けてなかったらちゃんと言うのよ」
ナータは振り返ってミオに言う。
「・・・」
ミオは何も言えず立ちつくす。そんなこと言われても無理である。だいたい本当に本当に何の経験もないのだから。
「で、兄さん今日の夕食なんだけど」
「ああ、いいぞ。下にあるレストランでいいな」
「ごちそーさまー」
ナータさんは食べ終わると用は済んだとばかり席を立ちあがった。
「もう帰るのか?」
「うん、明日も大学あるし」
「気をつけてな」
「じゃね、ミオちゃん。何かあったら呼んでいいよ。連絡いつでも入れて」
ひらひらと手を振って去っていく。
よくしゃべるナータさんがいなくなると、とたんに席はしんとしてしまった。
「俺達も戻ろう」
「う、うん・・・」
促されて席を立つ。ここからはレクセルと二人きりなんだ・・・。
そう思うと自然どきどきと心臓が高鳴りだした。
何かしゃべらなくては、と思う。でも何も思い浮かばなくて結局部屋までずっと黙りこんでしまった。意識したくなくても意識してしまう。
だって、だって・・・。
「そんな警戒しないでくれ。すぐどうこうしようと思ってないから・・・」
部屋に入るとすぐに、後ろから低い声で言われた。
ミオはびくっとして立ちすくむ。
「わ、ごめん!俺そんなに節操なしに見えるかい?」
レクセルはミオから2、3歩距離をとってついでに手をあげた。
「そ、そんなことないけど・・・」
とは言うものの警戒心は薄れない。別に嫌なわけじゃない、わけじゃないが心の準備ができていない。
「ナータの言ったことは気にしないでくれ。あいつはませすぎてるんだ」
言いつつレクセルの顔は赤くなっていく。
「本当?」
「ああ。ナータの言う通り、あいつをまだおばさんにはしたくないからな」
「何にもしない?」
「ああ」
「えへ、よかった」
ミオは壊顔してレクセルに抱きついた。本当はずっとずっとこうしたかった。でも男の人に無警戒に抱きつくのはさすがにためらわれた。けど、何もしないって言うなら・・・。
「ミ、ミオ・・・」
だがミオはお腹の辺りにあたる奇妙な違和感にすぐ身を離した。
「きゃあああああああ」
「うわっ、ごめん、こ、これは、違うんだっ!」
レクセルの叫びも虚しく、ミオは脱兎の勢いで着替えをした部屋へ駆け込むとがちゃりと鍵をかけた。
「ミオ、ごめんっ。驚かせて・・・」
「き、今日はもう休むね、お休みなさい!」
「あ、うん、おやすみ・・・」
心なしか元気のない声が聞こえ、足音が遠ざかっていった。
びっくりした、びっくりした、びっくりしたー。
いまだ残るお腹あたりの奇妙な違和感。あれって、あれって・・・。
ミオはベッドに体を投げ出すとぎゅっと目を閉じた。
だよね、そうだよね・・・。男の人だもん・・・。
逃げちゃったりして、傷つけちゃったかな・・・。でもびっくりしたんだもん・・・。
ミオはベッドに潜り込むと、疲れもあってすぐにウトウトとなり、眠りについた。