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君とともに2

「ミオ、着いたぞ。起きてくれ」

 ミオは肩口を軽く揺さぶられ、目を覚ました。レクセルがリフターのドアを開けて手を差し出している。

「ここは?」

「俺が今住んでるマンションの地下駐車場、さぁ」

 レクセルの、マンション・・・。

 促されてその手につかまりリフターを降りる。

 広い。それに地下だというのにどこも寂しさを感じさせないほど明るい。停められているリフターもどれも高級品ばかりのようだ。

「こっちへ」

 手招きされるままにエレベーターの前に立つ。やがてエレベーターが降りてきて扉が開き、その中に足を踏み入れる。

「何か、ホテルみたいなところ・・・」

 落ち着かなさに思った事がそのまま口に出る。上昇するエレベーターとともに緊張も高まる。だってこれから行くのってレクセルの部屋なんだよね・・・。

「ああ、まぁね。でもそんなに大したところじゃないよ」

 こんな毛足の長いふかふかの絨毯を使うエレベーターを使うところが大したところじゃないなんて。

 レクセルが次期伯爵様で、けっこうなお金持ちだとは知ってる。この国には身分や階級があり、彼ら特権階級は下々《しもじも》の者には想像つかないほどの経済力を持っている・・・らしい。

 本格的に教えられたわけじゃないので詳しいことは分からない。けれどこの世界はそういう所らしいのだ。

 やがて目当ての階に着いたのかチンと音がして扉が開く。広めの空間にドアが一つ。共用とか、そういうことはないらしい。

「さぁ、入って」

「お、お邪魔します」

 部屋に入るとすぐ目の前に広いリビング、窓は総ガラス張りになっていて、そこから地平線、というか防御壁に落ちる夕焼けが見えた。防御壁とはこの帝都を守る幾重にも障壁を展開したシールドの基底部分。防御壁は帝都をぐるりと囲んでいる。

 夕焼けが見たくて思わず窓に走り寄る。

 すると後ろから笑い声が聞こえた。

 振り返るとレクセルがおかしそうに笑っている。

「いや、ごめん。景色が好きかい?宇宙を見せた時も同じだったと思って」

「うん・・・」

「じゃあこの部屋でよかった。研究所から遠いしあまり好きじゃなかったけど、君が気に入るなら」

「研究所?」

「ああ、今働いているところだ」

 レクセルはそう言って他の部屋へ続く扉を開けた。

「着替えてくる。君の着替えは妹に頼んでおいたから、それまで待ってて欲しい」

「うん」

 ぱたんと扉が閉じられると窓からの眺望に目を戻した。

 ふと力が抜けてぺたりと座りこむ。それからころりと横になった。

 王宮ではこんなことできなかったな・・・。レクセルもだめって言うかな?でも優しいからそんなこと言わないよね。

 横になって眺める景色がおもしろくてずっと見ていたら、

「お、おい、どうした!?ミオ!?」

 着替え終わったレクセルが慌てた様子で駆け寄ってきた。起き上がる間もなく彼に抱き起こされ顔を覗き込まれる。

「あ、ご、ごめんなさい、なんでもないの。疲れちゃってて・・・」

「そうか・・・、何かあったんじゃないかと・・・。俺、君がいないと本当だめなんだよ・・・」

 泣きそうな顔で言われた。

「レクセル・・・」

「俺が君のことどれくらい想ってるかなんて知らないんだろう?君がいなくなったらと思うだけで俺は心臓が止まりそうになる」

 レクセルはミオを胸に抱く。

「ずっと側にいて欲しい・・・。ミオ・・・」

 耳元で囁くように言われ、ミオの鼓動は聞こえるんじゃないかと思うほど大きく激しく鳴り、顔は火がついたように熱くなった。

「や・・・」

 レクセルの唇が耳から首筋へ落とされ、さらに下へすべるように動く。

「ちょ・・・まっ・・・」


ピンポーン


 レクセルの唇が胸元へ滑り降りる前に玄関のチャイムが高らかに鳴った。そして少しいらだったような顔をしてミオを離し、玄関へと向かった。

 た、助かった・・・?

 ミオはドキドキする胸を押さえて立ち上がった。


 全く、自分がこんな意志薄弱だとは思わなかった。男と言うのは本当にどうしようもない生き物らしい。

 先ほどの誓いを、あっさりと破り捨てた自分の言動に自分が情けない。

 レクセルは苛立ちを押さえて玄関の扉を開ける。

「やっほー、兄さん久しぶり」

 玄関には大きな袋を抱えた妹、ナータが立っていた。髪を金色に染めている。自分の妹なのになんでこんなに派手好きなのか。

「あっれー、お邪魔だった?」

 疲れたような顔をした兄と、所在なげにたたずむミオを見てからかうように言う。

「そんなことない。さぁ、入れ」

「はーい。あ、兄さん約束守ってよね」

「分かってる。バッグだな」

 ナータとはミオの買い物をしてもらう代わりに流行りのバッグを買ってやることになっていた。

「毎度あり。あ、あの子ね、初めまして!うっわー、すごい、お姫様みたい!」

 ナータは感嘆の声を上げてミオに走り寄った。式典のままの衣装なので傍から見ればそうなるだろう。

「初めまして」

 ミオは膝を少し曲げて頭を下げる帝国式の礼をする。

「うわっ、何その完璧なマナー!はー、さすが王宮にいただけはあるのね」

「あ、違う?ごめんなさい、あまりこちらの普通が分からなくて・・・、初対面のあいさつはこうだって聞いてたから・・・」

「んーん、全然!こっちが見習わないといけないくらい」

「そうだな」

「兄さんは何も言わないで」

「・・・」

「それにしても・・・。これすごいわねー」

 ナータがミオの首に巻かれたネックレスを手に取りしげしげと眺める。

真珠ラッグルだわ!4連もある!すっごいわねー。さすがだわ・・・。しかもここについてるこれ、ピンクダイヤモンド(レフィスト)じゃない!?イヤリングも!それにこの髪飾り、いったいいくつダイヤ(フィスト)がついてるの!?」

 ミオに身につけられたアクセサリーを一つ一つつぶさに見る。

 ミオにはこれらがどれくらい価値があるのか分からないんだろうな。きょとんとした目で大騒ぎするナータを見ている。

「うっわー、何で兄さんとこなんかに戻ってきちゃったのよ。兄さんの稼ぎじゃこんなの一生かかったってもう身につけさせてもらえないわよ」

「悪かったな。ミオの着替え買ってきてくれたんだろ?早く替えさせてやってくれ。彼女疲れてるんだから」

「はーい。どの部屋使うのー?」

「そっちの奥を使ってくれ」

「分かった。さ、行きましょ」

 二人はリビングから左奥の部屋に入った。


 

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