皇太子の誕生日2
「ミオ、久し振り」
「う、うん・・・」
人でごった返す宇宙港。そのざわめきの中この二人だけが静かだった。
あまりに久し振りすぎてなんだかぎこちない。
話そうと思ったことたくさんあったはずなのに何も出てこない。
「行こうか」
「うん」
さっきからうなずいてしかいない。口をどこにやってしまったんだろう。
「どうした?疲れたか?」
「ううん。そうじゃないけど・・・」
先に立って歩くレクセルの広い背中を見ていると、きちんと重力制御された宇宙港なのに、嬉しさでふわふわと浮きあがってしまいそうだ。
さっきから黙っているのは馬鹿みたいににやけてくる顔を必死に平常に戻そうと努めてるから。
そんな顔レクセルに見られたくないし。
はぁ、レクセルは相変わらずかっこいいし。少し光沢のある上品な黒のジャケットがよく似合う。
広い肩幅、均整のとれた体つき。後姿だけでもほれぼれとしてしまう。
そんな視線を感じ取ったのか、レクセルがくるりと振り返った。
とたんに顔が真っ赤になる。
「や、顔見ないで・・・」
「何やってんだよ」
慌てて頬を押さえてうつむいたのに、レクセルは笑いながらそれを外してしまう。
触れられた温かい手の感触も久し振りでまた顔に熱が上がる。
「すげー真っ赤」
外した手の代わりにレクセルが頬に手をやり、少し上を向かせる。
優しい瞳でミオの目を覗き込む。
この体勢は・・・。
こ、こんな公衆の面前でキスはやばいんじゃ・・・。
心臓が口から飛び出るほどどきどきしたが、レクセルは柔らかく指を外すとまた歩き出した。
はっとしてその後を慌てて追いかける。
ああ、もう、やだ・・・。なんでこんなにどきどきするんだろう。もっとしっかりしたいのに。
もっと大人になって瀟洒な会話でもできたらいいのに。こんなんじゃご主人様に会えてうれしいわんこと一緒の反応じゃない。
でももししっぽが生えてたらぶんぶん振り回してるんだろな。
うう・・・。
なんてこと考えながらひたすらレクセルの後をついて行ってたら人通りのない通路にきた。
あれ、どこに行くの?
と思ったらさらに角を曲がってそこでぐいっと腕を引かれた。
「え?」
と思っているうちに壁に押し付けられて、頭の両脇にレクセルが腕をつく。逃げられない、この体勢。
目の前にはやけに真剣な顔のレクセル。頭には狼の耳が見えるようだった。
「ちょ、待って、レクセルどうしたの・・・」
「待てない」
そう言って唇を押しつけてくる。荒々しい性急なキス。
「んっ・・・」
慌ててその顔を手で押しのける。
「こんなとこでだめよ、人が来ちゃう」
「来ないさ・・・」
ミオの小さな抵抗などものともせずさらに唇を重ね合わせる。
「んん・・・ふっ」
キスしながらレクセルは身を少しかがめ、ミオをきつく抱きしめた。
「会いたかった・・・百万年ぐらい待った気持ちだよ」
唇を離すとミオの肩に顔を乗せ、首筋に息を吹きかけながら甘くささやいた。
白旗をぱたぱたと上げて降参したい。何だろう、何に負けたんだろう。でも心の中は敗北感でいっぱいだった。
「ミオ・・・」
されに迫られそうになったが、カツカツと靴音が聞こえたのでその場はそれで収まった。
くだけそうな腰をレクセルに支えられてなんとか歩く。変に思われないかな・・・。
角を曲がって現れたのはここの職員の人か、制服を着た人がこちらのことなんか気にもかけず足早にすれ違って行った。
「大丈夫か?しかし、こんな簡単に連れ込まれて・・・本当隙だらけだな」
「う・・・」
まだあのこと怒ってる?そりゃそうだよね・・・。
しっかりしようって思ってたところなのにこの体たらく。相手がレクセルじゃなかったらと思うとぞっとする。
本当、まだまだだな・・・。
がっくり肩を落としていると、
「そ、そんな落ち込むなよ!今のは俺も悪い・・・。待ちきれなくて。本当、男はどうしようもないな」
と慌てた様子でなだめにかかった。
「俺もゼオルのこと言えないな。君みたいなかわいい子、物陰に連れ込まずにはいられないし」
「×××!!」
「それにあんなもの欲しそうな顔されちゃ、こっちはたまらない」
また狼の耳が見えた気がした。
「そ、そんな顔してないもんっ」
拳をつくってレクセルの肩をかすめさせる。
「うわっ、やられた」
レクセルは大げさに飛び退く。腰はなんとか立ったのでそのまま逃げるように早足でレクセルを置いて歩き出した。
「うわ、待ってくれよ、ごめん、悪かった。少しはしゃぎすぎたよ・・・」
「もっと紳士的にお願いします」
つんと顔を背ける。
「はい、お譲さま」
レクセルは恭しくミオの手を取って歩き出した。