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従兄弟6

「お帰りなさいませ。如何でしたか?」

 帰るとエリクスが玄関で待っていた。

「うーん、楽しかった、かな?」

 人差し指を顎に当てて答えた。

 あんまり何もしてないんだけど。

「親父はまだ来ないのか?」

 リフターから降りて来ざま、ゼオルは尋ねた。

「ゼオル様が早く来すぎなんですよ。予定通り明日の便で来られます」

「あ、そう」

「旦那様が帰っておいでですのでどうかご挨拶を」

「分かってるよ。どこ?」

「東の広間に・・・」

「私少し休んでていい?疲れちゃった」

 久々の運動という運動だったので少し眠い。

「ええ。お夕食には呼びますから」

 

「嘘っ」

 目が覚めたのは夜中だった。

 ほんの少し横になるつもりで爆睡してしまったようだ。

 真っ暗な室内。

 ベッドサイドの明かりをつけて時間を確かめる。

 惑星オーの自転時間で22時。

 起こしてくれればいいのに・・・。

 寝なおそうかとも思ったけど眠れそうにない。

 北に面した方の窓に近寄って窓を開ける。

 月のないこの星は夜は星明かりだけ。最初は変に思ったけど、だんだんと慣れた。

 ふっと視線を感じて顔をその方に向けた。

 大きな四角と小さな四角がLの字型にくっついたようなこの建物。東端のこの部屋から西を臨むとその小さな四角の方の建物の東窓が見える。

 明かりの付いた部屋、ちょうど客用の寝室、その人影は・・・。

「ゼオル・・・!?」

 向こうも気付いたようだ。離れて距離はあるけど驚いたような挙動が見て取れる。

 手を振ってきたので振り返してあげた。

 すると中にひっこんでしまった。

 な、何だったんだろう・・・?ひょっとしてずっと見てた・・・?

 ピピピ・・・

「ひゃぁ!」

 急に電子音が鳴ったからびっくりした。

 なんてことない、館内通信の呼び出し音だ。

 手近な端末を起動させて繋ぐ。案の定ゼオルだ。

「は、はい・・・」

「え・・・と、おはよう?」

「あはは、夜中だよ」

「そ、そうだな。はは。や、あの、大丈夫だったかと思って・・・」

 緊張気味のゼオルの声。

「うん、ちょっと疲れちゃったみたい。でも大丈夫だよ」

「そか、よかった」

「うん」

 沈黙。

「えっと、腹、減ってないか?」

 ゼオルは慌てたように話をつなぐ。

「うーん、そうでもないけど・・・」

「夕食残してあるから食べた方がいいんじゃないか?あ、俺ちょうど小腹が減ってきたとこだし、一緒にどうだ?」

「う、うん・・・?」

 こんな夜中に二人で・・・?いいの、かな・・・?

「あ、嫌なら別にいいんだ。別に」

「うーん、嫌じゃないけど・・・」

「本当!?じゃ、朝食の間に来いよ」

「う、うん」

「じゃ」

 通信はぷつりと切れた。

 相変わらず強引な。

 まぁ、いいか。喉も乾いたし、お腹もちょっと空いてるし、何より眠れそうもないし。しばらくゼオルに話し相手になってもらうのもいいだろう。


 朝食の間につくとゼオルがすでにいて、キッチンから夕食の残りを運んでくれていた。意外と気がきくのかも。

「座ってろよ」

「うん・・・」

 しんと静かな部屋にかちゃかちゃとゼオルの運ぶ皿の音だけが響く。

 召使い達ももう休んでいるのだろう。キッチンにも誰もいないようだ。

「さ、どうぞ」

 目の前に皿が並んだ。

「ありがとう、いただきます」

 好きな魚の料理だった。

「おいし~。食べ逃さなくてよかった」

「そうか?お前って何が好きなんだ?」

 ゼオルも座って自分用に用意したパンのサンドを頬張りながら聞く。

「やっぱり魚。お肉も好きだけどね」

「ふーん。こっちの料理は口に合うのか?」

「うん。何とか大丈夫。外国の料理と同じ感じ。食べ慣れてないだけで食べれないことない。大分慣れたしね」

「そっか、すごいよな、お前。帰りたくなったりしないか?」

「う・・・ん、それ言われるとちょっと辛いな。帰りたくないなんてことないけど、帰りたいって言うと困った顔する人がいるんだよね」

 もしそんなことを言った時のレクセルの顔が思い浮かんで自然頬が緩んだ。

「勝ち目なんかないって分かってるけど・・・」

「ん?」

 ふっと顔を上げるとゼオルが真剣な目で自分を見ていることに気づいた。

 レクセルによく似た顔。子供っぽさをなくしたその表情はレクセルにひどく似ていた。

「ぜ、ゼオル・・・?」

 そしてレクセルもよく自分に向けてくる熱っぽい眼差し。その奥に潜む激情が伝わってきて胸が熱く痛んだ。

「君がレクセル兄さんと強い絆で結ばれてるのは知ってるし、分かってる。でもほんの小さな隙間でいいからそこに俺を入れてくれないか?」

 ゼオルの手が伸びてきて指先に触れる。

「ミオ、君のことが好きだ・・・」

 ゼオルはレクセルの声を真似て告げた。

 反則・・・。

 みるみる顔に血が上っていった。

 レクセルじゃないのに、あの荒っぽくて子供っぽくて強引野郎のゼオルなのに!

 胸がドキドキと大きく高鳴って触れられた指先が痺れる。

 椅子を蹴って立ち上がって逃げ出すべきなのに体が動かない。

 動かないのを肯定と見てとったのか、ゼオルは立ち上がって近づいてきた。触れられた左手の指先はしっかりと握られた。

 一歩、一歩と近づいてくる。

 ちょ、ちょっと、ちょっと待って・・・!!

 顔が近付いてきた。

 必死になって顔をそむけたが、ゼオルの右手が頬を押さえて、ゼオルの顔が回りこんできて・・・。

 心地よい柔らかい感触が触れて離れていった。

「誰にも言うなよ」

 ゼオルはそう言って部屋を出ていった。 

 


「いやー、映像よりずっとかわいいお譲さんだ!」

「そうだろう。レクセルにこんな甲斐性があったとはな」

「ずいぶんと健康的になられたようでよかったですわ」

「ええ、よく食べるんですのよ」

 次の日レクセルのお父さんの弟、つまりゼオルのお父さんのリデイルさんが妻とともにやってきた。

 その会話を上の空で聞いていた。  

 その場にゼオルももちろん同席していたが、昨日のことなんか何もなかったように平然とした顔でいる。

 こっちは寝不足でふらふらだというのに・・・。

「ミオお譲さま、どうしました?」

 エリクスが心配そうに聞いてきた。

「え、何でもないよ!昨日変な時間に寝て起きたからぼーっとしちゃって・・・」

「そうですか」

「ミオ、つまんねーから行こうぜ」

 ゼオルが立ち上がって手を振って促した。

「こら、お前は本当に身勝手な・・・」

 父親の小言も聞かずすたすたと歩いて出て行ってしまう。

「あ、あの、失礼します」

 その後を追う。

 うう、なんでだろう。何か立場が弱くなってるよ・・・。

 ゼオルのこと、無視したいけどできない。言うこと聞いちゃうのなんでだろう・・・。

「ミオお譲さま・・・?」

 エリクスが変化に気づいたのか声をかけてきたが、聞こえないふりをしてゼオルの後を追った。


 午後の日差しが眩しい庭園まで出てきた。刈り込んだトピアリーの林、地面は白い石が敷き詰められた美しい舗道。白い光が反射して一層眩しい。

 トピアリーの木陰に日差しを避けるように入る。

 また二人きり・・・。

 だめだって分かってるけど、心とは裏腹に体は動かない。

「き、昨日のことだけどっ・・・」

「謝らねーからな」

「な!?」

「俺はお前のこと好きだ。どうしようもない横恋慕だけどな。でも謝ったら俺が悪いことしたことになるじゃねーか。だから謝らない」

「で、でも、私は・・・」

「まだ、兄さんのモノじゃないんだろう?」

「・・・!!」

 そ、そりゃ、そーだけど、何で知ってるのよ!

「まだチャンスはある・・・そうだろう?」

 ゼオルの手が伸ばされて頬にあてられる。びくっとして逃げようとすると、

「ミオ・・・」

 またレクセルの声音を使う。

 その声で言われると弱い。目の前にいるのはレクセルじゃないのに、そうじゃないかと錯覚してしまう。

 ゼオルの顔が迫ってくる・・・。

「はい、そこまでですよ」

 ぱんぱんと手を叩きながらエリクスが現れた。二人慌てて離れる。

「全く、これはどういうことです?ゼオル様」

 エリクスはミオの前に立ちはだかり、ゼオルをやんわりと退ける。

「・・・約束と違いますが?」

 ゼオルは何かを言いかけて言葉を飲み込み、肩を落とした。

「すぐに屋敷から出て行ってもらいましょう。今後はこの屋敷に出入りは禁止です」

「そんな・・・っ」

 ゼオルは未練がましそうに手を上げ、ミオに近づこうとする。

「我がお譲さまに不埒な行為を働いたこと、許すわけにはいきません。もう少し分別のある方だと思ってましたが・・・」

 エリクスはさっと動いてその手を止める。

「悪かったよ・・・」

 ゼオルはあきらめたように一歩引いた。

「二度とお譲さまに近づかないと、誓って下さい」

「え・・・そこまで・・・?」

 ミオはびっくりして言う。

「お譲さま!これは大変なことなのですよ」

「私ゼオル・オードヴェルは二度とミオに近づきません・・・。これでいいんだろう?」

 エリクスはうなずいた。

「じゃあな」

 ゼオルはきびすを返して頭をしっかりと上げて歩み去った。

「ゼオル・・・」

 その後ろ姿を見送った。

 なんだろう、すごく寂しい・・・。

「お譲さま」

 はっとしてエリクスを見上げた。

「全く・・・。しっかりなさってください。いくら寂しいからと、このような・・・」

「レクセルには・・・」

「もちろん報告します」

「!!」

「と、言いたいところですが、言わなくていいことを言う必要はないと思われます。このことは秘密になさっておいた方がよいでしょう」

「ごめんなさい・・・ありがとう」

「一応聞いておきますが、昨日の夜何があったんですか?」

「キスを・・・」

「それだけですか?」

 ミオはうつむきながらこくりとうなづいた。

 エリクスははぁと小さくため息をついてから、 

「まぁ、これくらいで済んで良かった、と思うことにしましょう。取り返しのつかない過ちはなかったようですし」

 と許してくれた。

 その日のうちにゼオルは挨拶もなしにこの館を出て行った。

 この件はこれでおしまいだと思った。

 けれど・・・。


 

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