従兄弟5
ゼオルは再びドームの中に入っていくとすぐに高く舞い上がり、頂上付近を滑り始めた。
得意になってミオに手を振ってやると、ミオはぶんぶんと手を振り返してくれた。
そうやって調子に乗ってしばらく滑っていたときだった。
ふと気がつくとミオの姿が見えない。
(やべっ!)
ゼオルは慌ててドームを出た。
しかしミオは元の位置にはいない。辺りを見回してみてもいない。
(俺って奴は本当に・・・)
約束だった。ミオを街に出しても彼女を決して危険な目に遭わさないこと。渋る親父をなんとかかんとか説得してやっと手に入れた、ミオの年の近い友達の位置。ミオの友達探しの話を聞いた時は小躍りした。他の親戚の女の子が候補に上がっていたが、街に出るならいざという時男の方がいいとか、手なんか絶対出さないからとか言ってなんとかかんとか親を説得した。
(自分みたいな馬鹿がこの帝国に何万といるんだから・・・)
帝国救国の女神は帝国が兵士たちの士気を上げるために打ち出したプロパガンダだが、彼女を本当の女神として崇拝している者も少なくない。
超光速通信映像で見た時から一目惚れだった。しかもその存在だけで劣勢だった帝国を瞬く間に優勢へと持って行った希望の女神、勝利の乙女。
映像は幾度も流され、帝国のあちこちにその姿は掲げられた。
その後彼女は皇太子の妃として宮殿に入ってしまった。
それからふっつりと姿を現さなくなった。
もう自分の手には届かない遠いところへ行ってしまったのだと思った。宮殿という雲の上の領域へ。
ところが受勲式での皇太子妃下賜事件。帝国の勝利の女神は一人の男性のものとなってまたこの世界に戻ってきた。しかも自分のいとこの恋人として。
絶望もしたが希望も持った。ひょっとしたら会えるんじゃないか、誰よりも近くで話ができるんじゃないか。レクセル兄さんにそっくりだという自分にミオは興味を持ってくれるんじゃないか、と。
そして予定を前倒しして一人でここまで来てしまった。
最高の夏休みにするつもりだった。だけど・・・。
(本当俺って奴は・・・)
何得意がってティルベなんてしてたんだろう。彼女を守るって、騎士や英雄になったつもりで勇んで来たのに、すぐにこんなことになるなんて・・・。
ガラの悪い奴らにからまれてたらどうしよう、救国の女神だってばれたら騒ぎが・・・。
どこから探せばいい?どこに行った?とにかくも走り出そうとした時、
「ゼオルどうしたの?」
ほのぼのとした声が後ろからかかった。
「馬鹿っ、どこ行ってたんだよ!」
振り返って間髪いれずに叫んだ。
「馬鹿ってなによっ、ちょっとお手洗い行ってただけでしょう?」
「お、俺は、お前が心配でっ・・・はぁ」
自分の情けなさにため息が出る。早とちりした揚句に彼女に罵声を浴びせるだなんて・・・。何でこんなに駄目な奴なんだろう・・・。
「ゼオルっておもしろいね」
「は、はぁ?」
ミオはにこにことゼオルを見上げている。何を言ってるんだ?
「だって、一人で怒ったり落ち込んだり。見てておもしろい」
何だろう、新手のからかいだろうか。でもミオの顔からは邪気は感じられない。誉められてるってことでいいのか?
「怒鳴ってごめん、悪かった」
毒気を抜かれて素直に謝った。
「いいのいいの。ゼオルは私の用心棒でいるんだよね。何も言わずにいなくなっちゃってごめんね」
「・・・」
かわいい・・・。
胸って、本当にキュンってなるんだな・・・。だがいつもの癖で、
「わ、分かればいいんだよ!もう帰るぞ!」
照れ隠しでぶっきらぼうに言い放つ。
「はいはい」
ミオは余裕の表情で先に立って歩き出す。
なんか、やっぱり落ち着いてるよな。俺だけ一人盛り上がったり盛り下がったり。情けねぇ・・・。 もう、大人だから?
そりゃ、そうだろうな・・・。
一瞬ミオの痴態が脳裏に浮かぶ。
その妄想を振り払ってミオの後を追いかけた。