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従兄弟4

「まぁまぁうまいな」

 ゼオルはパイを頬張りながら言った。

 ミオはおかわりの薫茶を注ぎながら半分以上なくなったパイをあきれて見つめていた。

 まぁまぁって、これだけ食べておきながら・・・。

「おい、外遊びにいこうぜ」

 ゼオルは唐突にミオの手首を取ると立ち上がった。

「は!?何、急に・・・」

「俺はお前に社会勉強させてやれって言われて来たんだよ、あんまり外出ないからって。だから。でも少し着替えて来いよ、帽子と眼鏡で変装もな。早くしろよ。おい、誰か」

「ちょ、放してよ!」

 なんて強引なの!?

「何だよ、嫌なのかよ」

「嫌ってわけじゃ・・・」

 言い募ろうとしたらぎろりと睨まれた。こ、怖いよー。

「分かった。行けばいいんでしょ」

「そうだよ」

 ゼオルはぱっとミオの手を放した。

 しょうがないな・・・。街にいけるのは嬉しいけど、なんでこんな強引自分勝手野郎と・・・。

「お呼びでしょうか」

 侍女が一人現れて恭しく頭を下げた。

「これから街へ行く。こいつに着替えを。外にリフターを回しておいてくれ」

「かしこまりました。ミオ様、ご一緒に」

「はーい」


「遅い」

 玄関から出るとゼオルからムッとした調子で言われた。

 何よ、もう。

「気を付けていってらっしゃいませ。ゼオル様、ミオ様を頼みますよ」

「分かってるよ。ったく、ガキのお守りかよ」

「そう言われる割には嬉しそうですが」

「エリクス!」

 この顔で嬉しそうって・・・。分からない・・・。

 リフターの中ではゼオルは終始無言だった。窓の方を向いて寝ているようにも見えたから放っておいた。そんなにしゃべることもないし。

 ちなみにリフターは自動運転。目的地を入力すれば勝手にそこまで連れってってくれる。レクセルがいつも運転してるのは単に好きなだけ。

 でも本当、しゃべらなければレクセルそっくりなのに・・・。あー、レクセルだったらいいのに。

「なんだよ」

「わっ。後ろに目があるの?」

「あるわけないだろ。ガラスに映ってるだけだ。人のこと見やがって」

「む・・・。レクセルだったらいいなって思っただけよ。こんなに似てるのに、別人なんだもん」

「悪かったな」

 あれ、随分殊勝?怒鳴り返されてもおかしくないのに。

「似てるだけで別人で。何百回も聞かされた。レクセル兄さんはああなのにこうなのに、それに比べてって、な」

「ゼオル・・・」

「俺はレクセル兄さんみたいに頭も良くないし、運動もできないし、態度も悪い。おまけに憧れた女の子はすでに兄さんのものだしな」

「へ・・・」

「会いたくて親父に無理やり頼んだけど、けど会ってどうなるってもんでもないのにな・・・。俺って本当、馬鹿だな。何やってるんだろう」

 小さく呟くような声で一人ごちて、体を小さく丸めた。

「えーと・・・」

「悪ぃ、こんなこと言う気なかったんだけどな。聞かなかったことにしてくれ」

「う、うん・・・」

 本当に、本当にいったい何なの!?一人で怒って一人で落ち込んで。訳わかんない。

 


「ねぇ、どこ行くのよ」

 リフターを駐車場に置き、ゼオルは何も言わずに歩き出した。

「ねぇってば!」

 だがゼオルは何も答えずにすたすたと歩いていく。

 ミオはゼオルの肩に後ろから手をかけてぐいっと体重をかけた。

「うおわっ!何すんだよ、っていうかお前触るなっ」

 ゼオルはミオの手を振り払って距離をとった。

「何よ人をばい菌みたいに!足速すぎるのよ、はぐれちゃうでしょ!」

「ちっ、仕方ねーなー・・・」

 ゼオルはそう言って歩く速度を落とした。

「ねぇ、どこ行くの?」

「ティルベでいいだろ」

「何、ティルベって」

「知らねーのか。じゃあついてからのお楽しみ」

「むぅ・・・」

 てくてく歩いてやがて入口に派手な看板が掲げられた一つの建物に入る。こちらの文字で「ティルベ」と読めた。「べ」は場とか地域とかエリアとかそんな感じの単語だけど、「ティル」は分からない。まだまだだなぁ。

「いらっしゃいませ。お二人様ですか?」

 入口の受付の女性が声を掛ける。

「ああ。こいつ初心者、俺は上級のほうで」

「かしこまりまりました。ではこちらをどうぞ」

 と言ってリストバンドみたいなものを四つ渡された。

 何だろう?表面にはいくつかのボタンや表示窓がついてる。

「さ、行くぞ」

 ゼオルはさっさと歩いて大きな扉を開けた。

「わぁっ、何これ」

 軽快な音楽とともに飛び込んできた光景は、大きなドーム状の半透明な空間の中にたくさんの人たちが、その中を自在に滑っている、というか飛んでるというものだった。

「ティルは浮遊を意味する言葉。手首と足首にさっき渡された重力制御装置をつけてあの中で動き回ることができる。ま、やってみるのが一番だって」

 ゼオルが慣れた手つきでリストバンドを巻きつけていく。それを同じようにとりつけていく。

「ええっと」

「ん、違う、こう・・・」

 もたもたしてたらゼオルが代わりにやってくれた。

「へー、優しいところもあるんだねー」

「何だよ!俺が優しくないとでも言うのかよ」

「うん」

「・・・んなことねーよ。教えてやるからついてこい」

「はーい、先生」

「先生って、お前なぁ」

 ゼオルはミオの手を引いてドームに入る。

「いいか、気をつけろよ・・・」

「うわぁっ!!」

 足を踏み入れた瞬間ふわっと体が浮いた。バランスを崩して倒れそうになる。

「言ってる側からっ」

 ゼオルはミオの腕を取り、さらに腰に手を回す。自然くっつき合う格好になる。

 至近距離で見つめあってお互い声も出ない。

「わ、悪ぃ・・・」

 耳まで赤く染めたゼオルがそっとミオを放す。

「わっ、駄目、手持ってて、放さないで!」

 ミオはまたバランスを崩しかけてゼオルの手を掴む。まるでスケートを初めてする時のようだ。

 ゼオルは赤くなってしどろもどろになりながらも説明を始める。

「い、いいか、普通にしてりゃ地面歩いてるのと変わりないから。速度や高さはこの装置で調整する。ほら」

 ゼオルが操作するとゼオルの体は一段階大きく浮く。

「こうやって調節しながら滑るんだ。上手い奴はああいうこともできる」

 ゼオルが上を指す。そこにはドームの天井付近でアクロバティックな滑りをしている若者が達がいた。

「さ、とりあえず前進んでみろ」

「ふえええ・・・」

 ミオはへっぴり腰のままゼオルの手をしっかり握って涙目になっていた。

「やだぁ、怖いぃ、帰るー」

 ミオはドームを半周もしないうちに弱音を上げた。

「しょがーねーなー。慣れりゃ楽しいんだけどな」

 ゼオルはミオの泣きごとを聞き入れてドームから出た。

「俺が手本見せてやるから、そこで見てろよ」

「うん」

  

  

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