君とともに1
「ナータか、よかった繋がった。実は・・・何?もう知ってるのか?・・・。うん、そうなんだ。こっち来れるか?本当か?よかった・・・、って相変わらずがめついなお前は。ああ、分かった買ってやるからすぐ来てくれ。うん、ありがとう」
レクセルはそう言って携帯端末を切ると、反重力車を作動させ、車体を浮かせて走り出した。
ミオはリフターの後ろの座席に座りながら窓に顔を寄せて離れ行く王宮をぼんやりと見ていた。
自分の運命の変転ぶりにもう頭も体もついていかなかった。
最初は地球から宇宙船に。フィリス帝国の戦艦が敵との戦闘に逃れるうちに偶然にも辿り着いた地が地球。
そして普通見えないものが見える、という体質のためにミオはこのフィリス帝国の宇宙船艦に連れてこられたのだ。フィリス帝国に敵対する国の新兵器に対抗するために。
そしてその国との戦争が終わったら今度はフィリス帝国の帝都に行くことになった、帝国の皇太子の妃になるために。ミオは帝国の救国の女神として政治的に利用される立場に陥っていたからだ。そして意に染まぬ皇太子との結婚を強いられる。
しかし、皇太子の温情によって妃の座を離れることになり、今本当に愛する人・・・レクセルと一緒にまたどこかへ行こうとしているのだ。
「大丈夫か?」
レクセルがおとなしく座っているだけのミオを気遣って声をかける。
「うん、大丈夫、平気。さっきは誰に電話してたの?」
「妹だ」
「妹さん?」
「ああ、大学生でこっちの大学に通ってるんだ」
「レクセルに妹なんかいたんだ」
「ああ。兄弟は他にない、二人兄妹だ」
「似てる?」
「いや、全然」
「ふーん」
「すぐに会える。こっちに来てくれるよう頼んだんだ」
「レクセルの妹ならきっと美人さんだね」
「君の方がずっとかわいいよ・・・」
ふいにレクセルが真面目な調子で言う。
ミオはびっくりして目を見開いた。
「あ、や、すまない・・・、つい・・・。誰にでもこんなだと思わないでくれよ」
レクセルは苦笑いを浮かべて運転に集中し始めた。
ミオはほっとして再び窓の外を見る。王宮はもう遠く離れて見えない。
そしてほんの半時間前の出来事を思い出して思わず顔を赤らめる。情熱的な告白とともにされた口づけは、思いだすだに身をよじりたくなる。
まだ信じられない。自分はもう皇太子の妃ではないのだ。今日はあの式典が終わったら晩餐会が予定されてたから、また着替えて・・・、などというそんな心配はなくなったのだ。
振動のないリフターの乗り心地のよさに身を預けると、ミオはうとうととしだした。
王宮では気を張って過ごしていたので眠れない日も多かった。
もう安心なんだ・・・。そう思うと自然と瞼が閉じ、深く意識が落ちていった。
「ミオ?」
レクセルがふと見遣ると彼女は眠っていた。
無理もない、慣れない王宮の生活は苦しかったろう・・・。煌びやかに見える王宮の中は決して安楽なものなどではない。まして異星から連れて来られた少女にとってどれだけ負担だったことか・・・。
しかし無防備な・・・。
まぁ、いいか。これから先ミオの寝顔など他の男に見させはしない。
すると妹のナータから連絡が来た。
「なんだ?・・・は?ミオのサイズ?知るかそんなの。・・・。今寝てるし。・・・触っ・・・んなことできるかばかっ!・・・、まだ触ってない!・・・、うるさい、何でもいい、用意しろ」
まったくあの妹は・・・。
大きな声を出したから起きやしないかと思って後ろを見たが、よく寝ていた。
まだ・・・触れない。
レクセルは彼女を自分の部屋に呼び出し、その後に彼女が敵の手に落ちてしまったことをひどく後悔していた。
だから、触れない。
ミオは帝国の救国の女神と呼ばれてる。そんな彼女に彼女の同意なく手を出そうとしたから神の罰が下ったのだ。そうとしか思えない。
だから安易に手を出すのはやめようと思ってる。
まして眠ってるミオの胸を触ってそのサイズを推し測ろうだなんて、そんなことをしたら自動安全制御装置がしっかりとついているリフターだとしても絶対事故るに違いない。
レクセルはしっかりと制御装置を握り直して前に集中した。