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プロローグ②

「俺は今猛烈に恋をしている」

「あの子は女神だ」

「伴侶になりたい」


先程から大吾が口にしている言葉だ。

智樹と和也は辟易としながら、曖昧な返事をしている。


「つまりあのボブカットの女子に一目惚れしたってことですね」

和也が要約し尋ねる。しかし彼は首を横に振った。


「そんな無粋なもんじゃない、ただ稲妻に打たれたような衝撃に駆られている」

それを一目惚れと言わずして何と言う。

そう思ったがまた厄介な事になりそうなので心の中に伏せておいた。



「じゃその思いを彼女に伝えましょうよ」

智樹がウキウキ顔で突拍子のない事は言った。完全に野次馬根性なのは明白だ。


「な、なんだと、そんな事急に言われても迷惑なんじゃないのか」


大吾は狼狽している。先程と打って変わって弱腰な陳述である。

それもそのはず。大吾は今まで柔道一筋だったので色恋沙汰とは無縁の人生を歩んできた。なので彼自身どーすればいいのか分かってない。



「迷惑なんてとんでもない。女の子からしたら男から気持ちを伝えられるのは

この上ない幸せですよ。それに想いを寄せる相手に愛を告げるなんて漢らしくてカッコいいじゃないですか。大吾さんにうってつけですよ」


それを知ってかしらずか後輩は大吾を神輿のように祭り上げる。


「た、確かにそうだな。よし善は急げだ。早速行ってみる」


普段は冷静な判断を下す大吾だが、恋は盲目といったところか、フットワークは軽かった。


「え、今からですか。 道場に案内してくれるんじゃ」


「いいんです。後はこっちで勝手にやってくるのでお気になさらず。」


和也の不満の声をあげたが、智樹が肘を押し付けて強引に押しのけた。


「うむ。悪いな。あとは任した」

「ご武運をお祈りしております」

後輩は拱手のポーズをした。

それを見て顔を引き締めた彼は小走りで校舎の中に消えていった。


新入生の二人がポツンと残った。


「おいどーすんだよその気にさせて」


「え、だって面白そうじゃん」


「お前なあ、いきなり告りにいって、成功するわけないだろ」


「それは、わかんないじゃん。案外上手く行ったりするかもよ。

俺の知ってる男の中で兄貴が一番かっこいいもん」


「兄貴がかっこいいのは認めるけどそれって男から見てだろ。

女なんかにわかんねーよ」



「おいおい今のご時世、女性蔑視は時代錯誤だよ。

それに女でもわかるやつはわかるって」


智樹はやれやれと言った感じで両手を上げた。

和也は腑に落ちないのか眉根を寄せた。





女の子のいる場所はたしか位置的に音楽室だったはず。

校舎に入って真っ直ぐに階段に向かった。2階に上がってすぐの教室だ。

大吾は階段を登る最中、想いに耽っていた。

流れに身を任せてここまできたが、どうも上手い事のせられてた気がする。


確かに一目惚れと思うほどの衝撃を受けたが、今から告るのは舞い上がりすぎなのでは?

それになんて声を掛けたらいいんだ。全く言葉が思いつかないぞ。

智樹のやつめ、焚き付けるなら、台本でもよこして持ってこいよ。


階段を上がるたびに心臓の鼓動が跳ね上がっていくのを感じる。

くそ、毎朝のランニングでもものともしない強心臓なのに。


階段を登り終え目的の教室の前まで来てしまった。

緊張で手汗が止まらない。ズボンにぬすくりつける。そのまま両手を顔に持っていき頬を豪快に叩いた。

気合いを入れた。あとは勇気。

まあそこまで後輩に葉っぱを掛けられたら引くに引けないわな。

ともあれ後輩の前で宣言したんだ。もう引き返せない。近藤大吾よ。覚悟を決めろ。


大吾は彼女がいる音楽室の扉を開いた。

開けると同時にボブカットの女の子が目に飛び込んだ。

一瞬女神かと疑った。やはり間違いないこれは運命の巡り合せだ。

彼女は友達と思わしき人物と談笑していた。俺には気づいていない。


そろそろと確実に近づいていく。同時に脈拍も上がっていく。

半径3メートル。どうにか射程圏内だ。ここでようやく彼女が俺の存在に感づいた

無言で距離を近づく俺に訝しげな表情をしているが、その人待ち顔もまた可愛い。


おっと何か言わなければ。何しろ初対面なのだ。最初が肝心。



「は、初めまして自分は2年三組の近藤大吾です。出し抜けにお声がけしてしまい申し訳ございません。

失礼ですが、学年をを聞いても?」


相手が何年生かわからなかったので敬語で丁寧に、紳士的に挨拶してみた。



「ええと、はい2年ですけど」

彼女が困った顔で応えた。少し怯えが見える。

急に大男が話しかけてしまったから怖がらせてしまったか。

それにしても、まさか同い年だったのか。くそ俺としたことが、かような美少女の存在を今まで気づかなかったなんて。不覚にも程がある。

だが悔いるのはあとだこの状況をなんとかしないと。


「あたしも2年だけどあんたのこと知ってるよ。てか同じクラスじゃん。

確か柔道部の人だよね。で?あたしらになんか用あるの」


彼女の隣にいるポニーテールのギャルっぽい女が助け舟を出してくれた。


「すまない。君に用があるわけじゃないんだ」

それをすかさずいなしてしまう。

女慣れしてないにも程がある。


ギャル女が、「なんだと」と食ってかかってきたが、それを気にも止めずに

本命の彼女に目線を合わした。


「お名前を聞いても?」


「藤田 円香ですけど」


なんていい名前なんだ。おそらく姓名判断してもいい結果が出るだろう。

俺は勇気を振り絞った。

「円香さん。先ほど外から窓に映る君の姿をみて電撃が走りました。

なんというか、一目惚れをしました。俺と真剣にお付き合いをしてください」


よし言えた。人生初めての告白だ。そして緊張が身体中を駆け巡る。

強張った顔で円香さんを見据えた。

彼女は一瞬驚嘆の表情をしたが、すっと真顔になった。


「あーそういう感じですか。すみません。今は部活に集中したいので

丁重にお断りします」

彼女は深々と頭を下げた。

いい返事は期待していなかったが心にずしんと衝撃を喰らった。

俺はショックでパニックとなり、走って教室から出てしまった。




「なんだったんだよ今の」

一気に静けさの残った教室でポニーテールのギャルが呟く。

「嵐のようだったね」

それに応えた円香はこめかみをポリポリとかいた。



「さあ、邪魔者もいなくなったし練習するか」


「うん。あの曲だいぶ弾けるようになったんだ」


そう言って円香は足元に置いてあったケースを持ち上げベースを取り出した。


「どうだが。前もそう言って壊滅的にリズム取れてなかったからな」


「もう京子は意地悪なんだから。昨日も徹夜で練習したからばっちりだよ」


「はいはい。楽しみにしときますよ」


京子と呼ばれたギャルも、したり笑いしてギターを構えた。


しばらくすると激しい音色が教室内に響き渡った。



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