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アルテミスの夜空の下で  作者: 焼きだるま
9/11

7

 私にとって、この人たちにどれだけのことがあったのかは、よくわからない。

 知ってはいるけれど、私はまだ関わりが浅いから。だけれど、みんなと居るのはとても楽しかった。ありがとう、桜ちゃん。私に、素敵な友達をくれて。私に、楽しい時間をくれて。


 駅には、まだ誰も来ていなかった。僕はスマホでSNSでも見ながら、適当に時間を潰していた。すると、僕の次に来たのは、佐崎くんだった。手を上げて、互いに「よっ」と挨拶を交わす。


 そういえば昔は、佐崎の強引さに、おどおどしてたっけ。でも、今は普通に会話もできるし、佐崎くんのペースにもある程度ついていけている。我ながら、少しは成長できたのだろうか。


 しばらく、佐崎くんと会話をしていると、柳沢さんも駅に到着した。タクシーを使って来たらしい。迎えに行こうか悩んだが、なんとかなったようだ。


 三人でルートの再確認をしていると、残りの三人も駅に辿り着いた。桜は綾奈紫姉妹と一緒に来たらしい。僕たちは新幹線のチケットを再確認すると、東京行きの新幹線が来るホームへと向かう。


 みんな、この日を楽しみにしていた。今までとは少しだけ違うような、ワクワク感がそこにはあった。


 しばらくすると、僕たちが乗る予定の新幹線が、向こう側からやってくるのが見えた。僕は前に拓也と行っているので、特に問題もなく事はスムーズに進んでいる。


 新幹線に乗ると、僕たちは予約していた席に座る。柳沢さんと春香さんは、出入り口から一番近い右側の席、桜と秋ちゃんはその左側、僕と佐崎はその前の席だった。


 桜と秋ちゃん、柳沢さんは新幹線に乗ったことがなかったらしく、とても燥いでいた。電車の中ではお静かに。


 新幹線が出発する。柳沢さんと秋ちゃん、僕は窓際の席だった。窓の外は、新幹線が進むたびにその姿を変えていく。その景色は人を飽きさせない。


 ビルが見える。住宅街が並んでいる。川が流れている。山が見える。色々なものが、窓の外には見えた。


 後ろの席からは、楽しそうな会話が聞こえる。秋ちゃんと桜は似たもの同士らしく、話が合うようでいつまでも話している。


 柳沢さんと春香さんは、女性らしい話をしていた。ファッションとか、僕にはよくわからない。そのせいで小説を書く時に、キャラクターのファッション部分だけは苦労したものだ。


 最終的には細かく書かないことにしたのだが、もし、また書くことがあれば、その時はファッションの勉強をしても良いのかもしれない。


 佐崎くんは、東京観光を楽しみにしているようで、色々な想像を膨らませていた。佐崎くんの目はキラキラしており、意外と可愛い一面が見れる。


 新幹線は、東京へ向けまだまだ走り続ける。



 ――そして、僕たちは辿り着く。東京駅の文字が見える。僕たちは、東京に今、降り立った。


 と言っても、実際に来たことがないのは僕以外なので、僕は二度目の光景だ。だけれど、友達が多いと、前来た時とは違ったように思えた。会話が途絶えない。楽しい会話をしながら、僕たちは東京観光を開始した。


 幸い、天気は晴れていた。僕たちは、色々な場所へ行った。浅草やアニメイト。六本木ヒルズに、東京ドーム。


「東京ドームデケェーーーーーー!!!!!」


 みんなが驚いて言っていた。僕は二度目なんだけど……なんかノリで取り敢えず言ってみた。


「東京ドームデケェーーーーーー!!!!!」


 桜に、お前は二度目だろ、という目を向けられた。


「なんでだよ!」


 涙目になりながら、僕はそう言った。みんな笑っていた。


「これで、東京ドーム何個分という難問が解明されるのだな」


 柳沢さんがそんなことを言いながら、率直な感想をメモに書いていた。よかった。ちゃんと活用してくれてるようだ。


「東京ドームの大きさはどのくらいか知ってるか?」


 佐崎がそんなことを言った。


「うーん……東京ドーム一個分……くらい……?」


 頭がバグってしまった秋ちゃんの答えに、みんなの笑いが更に増える。秋ちゃんの目はクルクル回っていた。どうやら計算が苦手らしい。


「正解はだな、46,755平方メートルだそうだ」


 みんな驚いたような顔をする。


「それってどのくらいの大きさなの?」


 柳沢さんがそう言った。そういえば彼女は勉強ができなかった。すると、桜が答えた。


「東京ドーム一個分くらいの大きさだよ」


 どうやら我々は、東京ドーム一個分の呪いから逃れられないらしい。このままでは東京ドーム観光になってしまうので、次の目的地へと向かった。


 東京湾は広く、冬の寒さが僕たちを襲っていた。しかし、町もビル風であまり変わらない。寒さに耐えつつ、僕たちは次の目的地へと渡り歩いていく。


 気が付けば、陽が落ちようとしていた。しかし、僕たちは夜に行かなくてはならないところがあった。


 空が曇っていく。少し不安だろうか。いや、これは計算通りだった。僕たちは東京タワーに来ていた。


 東京タワーの展望台、僕たちは夜の東京を見下ろしていた。スカイツリーに行ってもよかったのだが、恐らく混んでそれどころではない。そこで、東京タワーであれば、スカイツリーよりは空いているだろうといった予測を立てていた。


 結果は大当たり、僕たちは東京の夜景をゆっくり眺めることができた。その時だった――雪が、東京の町に降り注ぐ。そう――今日はホワイトクリスマスだ。


 ただの雪だが、クリスマスという日だと少し特別に見える。みんな、雪が降る東京という町に目を輝かせていた。


 僕は後ろの方から、みんなを見ていた。


「拓也――これで良いかい?」


 返答は来ない。ここは現実だ、拓也はここに居ない。わかっている。あの夢は、あくまで僕の都合の良い夢に過ぎない。だけれど、不思議とありがとうって言ってくれた気がしたんだ。


 きっと、夢で聞いた言葉を思い出しただけだ。だけれど、そう言ってくれたのだと、僕は信じることにした。



 ――東京タワーを降りると、僕たちはライトアップされた町を少しだけ歩いた。クリスマスのライトアップは、僕たちを魅了した。


 何やら、春香さんと佐崎くんが話し合っていた。桜と秋ちゃんも二人で燥ぎ回っている。


 柳沢さんは、僕と一緒に歩いている。まるでカップルみたいだ。――ダメだ、変なことを考えると、僕は顔に出てしまう。しかし、手遅れだった。


「おやおや〜?顔が赤いですぞ?殿」

「誰が殿ですか……」


 ニシシっと笑う彼女は、ライトアップに照らされ、とても明るい笑顔を振りまいていた。拓也が恋に落ちた理由も分かる。これは、可愛い。


 しばらく歩くと、僕たちはホテルへと向かう。


「ラブホではないのか、つまらん」


 桜がそう言うと、春香が恥ずかしそうに頭を軽く叩いていた。


 しかし、ホテルにいざ入ると、受付曰く部屋が二つしか空いていないとのことだった。予約はしていたのだが、不手際があったようで、本来三つの部屋が、二つになっていた。


 しかし、三人ずつで分けるには、流石に問題がある。男二人に女四人。どう分けても気まずいのだ。こうなっては仕方ない。男女で分けることになった。


 女性陣の部屋が狭くなってしまって、凄く申し訳ない気持ちがあったが、賑やかで楽しいから良いよ!と言ってくれた。


 みんな楽しそうに部屋で何をするか話し合っていたので、案外これでよかったのかもしれない。


 僕と佐崎は、自分たちの部屋へと入り、一度ベッドへダイブをした。ふかふかのマットレスは、僕たちを包んでくれた。


 まずい、このままではベッドの悪魔に、体を全て飲み込まれてしまう。それは避けなくてはならない。僕たちは夕食を食べに、女性陣と合流すると、一階にある食堂へと向かった。


 バイキング形式で、みんな好きなものをお皿に取って食べる。このホテルのバイキングは、種類が豊富で僕たちを飽きさせなかった。それに、とても美味しい。高校生にも払えるほどの料金で泊まれるホテルとは、到底思えないほどだ。


 気が付けば、みんな妊婦さんみたいになっていた。男でも妊娠する時代らしい。いや、それだとまだ中学生の二人まで妊娠していることになる。高校生でも中々だが、それは少しいかん。今の言葉は撤回させて頂こう!


 部屋に戻ると、風呂の準備に入る。佐崎は、三人ずつに分けて風呂上がりの女子を眺めたかったなーと、男の欲望を曝け出していたが、僕は聞かなかったことにした。


 場合によっては中学生の……ううんやめよう。考えるな。健全であれ、僕は今まで健全なことが取り柄だったんだ。



「柳沢さん、ある程度はあるな」


 一方女性陣は、不健全な話になっていた。桜がそう言うと、春香の方を見る。


「何よ」


 文句を言いたげな春香に、柳沢と桜はニシシ、と笑っていた。更に悲しいことに、姉よりも妹の方が大きいのだ。これは中々に面白い。


「あんただって無いじゃん」

「私はこれからだ」

「むしろマイナスを喰らえクソガキ」


 すると、いつの間にか後ろに回っていた柳沢の手によって、春香はコチョコチョ地獄に落とされることになった。



 涼宮のスマホには、楽しそうな女性陣の写真が送られていた。肝心な部分は隠れているが、もう少し男相手に送る内容を考えて欲しいものだ。


 特に中学生はダメだろう。見えないから良い……のだろうか……佐崎くんが何々?と見ようとしたので、僕はスマホの電源を落としてやった。この男には見せない方が良いだろう。


「えー」


 清く生きろ。佐崎くん。


 さて――旅先での泊まりなら。夜は何か遊ばなくては損だろう。人生の上で、これはなくてはならない。すると、女性陣も同じことを考えていたようで、僕たちは女性陣の方へ合流することにした。


 夜11時半になるまで、僕たちは持ってきたカードや、変な遊び、怖い話などで夜を楽しんだ。


 半になるちょっと前、歩き続けて疲れたのか、柳沢さんと妹二名は眠りに落ちていた。起きていたのは僕と佐崎くんと春香さんだけだ。


「これは、解散かな」


 僕たちは、一つのベッドに三人は窮屈だろうと、秋ちゃんは春香に抱えられ、隣のベッドで二人寝ることにした。僕たちは後片付けをすると、自分の部屋へと戻ることにした。


「おやすみ」


 春香がそう言うと、僕たちもおやすみと言った。

 部屋を出る直前、春香がこう言った。


「東京観光、誘ってくれてありがとう」


 その言葉を聞いて、僕も誘ってよかったと思った。僕たちは自分たちのベッドに潜り込む。アラームをかけると、急に眠気が襲ってきた。


「涼宮、柳沢さんのおっ――」

「僕もう眠いから寝るね」


 佐崎くん。君は一度水風呂にでも入った方が良いよ。いくら見えかけたからって、一々気にしないことだぞ。


 瞼が重い。でも、その疲れは嫌なものではなかった。明日も、東京観光は続くから。ちゃんと……眠らない……と……な……



 翌朝、アラームに起こされ、僕は目が覚める。今日は夢を見なかった。自分も満足しているのだろう。


 佐崎くんもアラームで起きてしまい、僕たちは顔を洗って歯を磨いた。少しの間ゆっくりしていると、ある程度のタイミングで女性陣も起こしに行く。女性陣もちゃんと起きていたので、朝食を取りに行く。


 朝食もバイキング形式だが、食べ歩きもできるので、朝はみんな控えめに食べた。妹組はまだ少し眠そうだった。


 部屋に戻ると、僕たちはチェックアウトの準備をする。荷物を纏め、忘れ物がないかを確認する。最後に少しだけ休憩をしてから、僕たちはチェックアウトした。


 次の目的地は秋葉原。目的はアニメイトだ。僕は気になった作品しか見ないが、妹組と佐崎くんや柳沢さんは色々見ているらしく、楽しみにしていた。春香さんは妹の影響で多少だそうな。


 アニメイトに着くや否や、四人は発狂したり騒いだりしていた。余程嬉しく、楽しいらしい。


 僕は、自分が知っているアニメがないかを、適当に歩いて探してみることにした。すると、僕でも知っているアニメのキャラクターグッズを見つけた。


 それは、僕がまだ小学生だった頃にハマっていたアニメのものだ。


「これ、アニメイトならまだグッズとか置いてるんだな」


 なるほど、確かに楽しい。普段街中では見ないものが、ここにはある。


「あ、それ知ってる」


 そう言ったのは、いつの間にか居た春香さんだった。


「知ってるの?」

「うん、私も見てた」


 しばらく、春香さんとはそのアニメの話で盛り上がった。同じアニメを見ている人間とは、会話がとても弾む。好きなシーンや好きなキャラ。面白いシーンや裏話まで、春香さんも、話していてとても楽しそうだった。


 時間を忘れてアニメイトを歩いていると、ふと、時計を見て気付いた。次の目的地へ向かう時間だ。


 他の四人と合流して、僕たちは次の目的地へ行く。と言っても次は決まった場所はない。今は昼時、みんなで気になるお店を探そうのコーナーだ。


 現地の人に聞いてもよし、スマホで調べてもよし、食べ歩きで昼食としようといった感じだ。


 すると、みんな次々に美味しそうなグルメを見つけてくる。時にトレードしたり、時にみんなで同じ物にかぶりついたりもした。


 食欲が止まるまで、僕たちの暴食は止められない。東京のグルメを食べ尽くす勢いで、僕たちは東京を歩き回った。勿論、柳沢さんは休憩をしたり、上手く手分けして負担を減らしたりもした。


 佐崎くんと綾奈紫さんが、行列になっていた店に並んでくれたりして、みんなの分を買ってきてくれたりもした。


 勿論、歩きついでにお土産や、買いたいものは買ったりもした。段々と荷物が増えていく。その度に、佐崎は辛そうにしていた。


「どうして……俺が持つんですか……」

「頑張れ佐崎」

「ありがとうございます佐崎さん」

「よろしく、佐崎くん」

「よろ!」

「……はは……待とうか?佐崎くん」


 みんな容赦がない。僕も荷物をいくつか待つことにした。佐崎くんほどは持たなかったが、それでも先程よりはマシといった顔をしていた。お役に立てたようでなによりだ。


 さて、気が付けば次が最後。目的地はスカイツリー。クリスマスは前日なので、少しは空いているだろう。残念ながら雪は止んでしまい、積もってもいないが、それでも十分に楽しめるだろう。


 僕たちはスカイツリーの展望台へと向かった。エレベーターのドアが開く。そこは、東京タワーよりも圧倒的に高く、東京全体が見渡せそうなほど、遠くまで見渡せた。とても壮観だった。


 最後に、ここで記念撮影をすることになった。僕たちは、富士山が見える位置から、記念撮影をする。


 スカイツリーに居た人に協力してもらい、僕たちはみんな笑顔でピースした。


 協力してくれた人に礼を言い、僕のスマホに保存されている写真を、みんなにも送った。あとは、個別の写真なども撮った。勿論、観光中も撮ってはいたが、恐らくこれが東京での最後の撮影スポットだ。


 悔いのないように、思い出を沢山写真に収めよう。変顔をする妹組の写真は、集合写真以外の中では中々の傑作だった。しかも、妹組を写したはずなのに、何故か柳沢さんの変顔が写っていた写真もあった。


 綾奈紫さんは、富士山を一人で眺めていた。邪魔をしないよう、斜め後ろからこっそり撮っておいた。様になっていて、とても良かった。あとで送っておこう。


 さて、時間が来て、僕たちはスカイツリーを降りた。楽しい時間はあっという間に過ぎる。僕たちは帰路に就くことになる。その前に、売店などで最後のお土産を買う。


「おっぱいプリンだって――プフフ」


 変な笑い声で笑う妹組が居た。二人がそこから去ると、変な佐崎くんがそのプリンを買う姿を目撃した。しかし、面白かったのはここからだ。


「へえ、そういうのが良いんだ?」


 そこに現れたのは、春香さんだった。とても申し訳ないが、彼女には、無い。思うところがあるのだろう。必死な佐崎くんの顔は、遠目から見てても面白かった。


 それぞれの買い物を済ますと、僕たちは東京駅へと向かう。駅に着くと、トイレを済まし、最終チェックをしてホームへと向かう。


 新幹線を待つ間、僕たちは余韻に浸るように、東京観光でのことを話し合っていた。佐崎くんだけは、春香さんの圧により青ざめた顔をしていたが、自業自得なので無視しておいた。


 新幹線が来て、僕たちはそれに乗る。こうして、僕たちの東京観光は終わった――


 帰りの新幹線。妹組は疲れたのか眠ってしまっていた。柳沢さんも大口を開けながら、春香さんの肩に顔を預けて寝ていた。


 佐崎くんは、お土産に買ったクッキーを、少しだけその場で食べる用に僕に分けてくれた。勿論、春香にも渡していたが、明らかに春香さんにだけ二枚渡していた。これが賄賂か。


 過ぎてしまえばあっという間。僕たちは町に帰って来ており、後は各々の家へと帰るだけであった。


 寝たままの妹組は、僕と春香さんが背負っていた。背負うと言うが、中学生を背負うのは中々にキツかった。いや、言わなかったけど、言わなかったけど!


 佐崎くんは荷物係になっていた。しかし、このままでは家に辿り着く前に、僕たちは倒れてしまうだろう。その時だった――


 目の前に、見覚えのある大型の車が一台、止まった。


「おかえり!乗ってくかい?送ってくよ」


 神様は居た。拓也のお母さんが、車で僕たちのところへ来てくれたのだ。どうやら、柳沢さんがいつの間にか連絡先を交換していたらしく、新幹線に乗る前にチャットを送っていたらしい。


 二人とも気が利く。僕たちはそれに甘え、車に乗せてもらうことにした。


「家の娘が迷惑かけなかった?」

「いえ!本人もとても楽しんでましたし、僕たちも楽しかったですよ!」

「そう、それならよかったわ」


 そう――とっても楽しかった。一度、引き裂かれてしまったみんなは、もう一度集まって東京観光へと行った。そんなことを、僕たちは叶えてしまったのだ。


 楽しい以前に、また、みんな仲良く遊べたことが、とても嬉しかったんだ。拓也、君もきっと――楽しかったよね。



 ――東京観光が終わり、正月が僕たちを待っていた。初詣に行ったり、おせちを食べたり。色々なことをした。正月の遊びである、羽子板が僕の家にあったので、それを使ってみんなで少し遊んだりもした。


 冬休みは、もうすぐ終わりを告げようとしている。冬休みが終わる前、僕は柳沢さんに呼ばれて、柳沢さん家へ向かっていた。


 家に着くと、柳沢さんが出迎えてくれる。話があるという。彼女の自室へ通されると、適当に座る。そして、彼女が話し出した。


「小説、今書いてるんだけど、最後の部分が欲しいの」


 どうやら、柳沢さんが書く小説は、ラストスパートへと差し掛かっているらしい。


「そこで、有馬温泉に行かない!?」


 東京観光に行ったばかりだと言うのに、元気なことだ。拓也からこういう人間なのは聞いていたので、今更驚くこともなかったが。


「有馬温泉ね……それいつ行くの?」

「できれば、冬休みが終わる前に」

「あと3日だよ?」

「じゃあ、明日行きましょう」

「突然過ぎない?」

「突然ですね」

「他のみんなもそんな急には……」

「あぁ、それなら安心してよ。二人で行くの」

「……?」


 一瞬、僕は理解ができなかった。


「なんで?」

「なんでも何も、小説の最後を書くのに必要なの」

「僕と二人で行くことが?」

「うん」


 柳沢さんに振り回されていた拓也の気持ちが、なんとなくわかった気がした。しかし、今更拒否する気にもなれない。


「いいよ」

「やったー!」


 彼女が喜んでくれるなら、もうなんでも良い。そういえば、一つ気になったことがある。


「進路はどうしたの?」

「通信制の大学にした」


 なるほど、柳沢さんらしい。


「うん、いいね。通信制でも大学は大学だ。良いと思うよ」

「ありがと、涼宮は?」

「僕も大学に行くよ、ただ学は無いから近くのFランだけどね」


 苦笑いをする僕を、柳沢さんは褒めてくれた。簡単だけど、嬉しかった。


 仕方がない。そうと決まれば、明日の準備をしなくては。


「有馬温泉、調べてみるから準備して」

「承る!」

「承ってるのはどちらかと言うとこっちなんだけどね」


 そんなことを言いながら、僕たちは急にできた明日の予定の準備をし始めた。


 これをやろうと思えるのも、拓也との約束があったからだ。きっと、彼女なりの美しい世界が見たいのだろう。温泉にそれがあるのかは分からないけれど、どうやら小説もラストスパート。


 約束を果たす時は、近いのかもしれない。

 拓也、安心してくれ、僕は必ず君との約束を守ってみせる。君が成さなかったことを、君が果たしたかった約束を、僕が代わりにやる。


 だって――君は僕にとって大切な親友だからね――

 あとがき

 どうも、焼きだるまです。

 遂に――アルテミスの夜空の下で、も終盤となりました。一話一話が長い為、投稿回数こそ少ないですが、1ヶ月間紡がれたこの物語も、もうすぐ終わりなのです。

 是非、完結するその時まで、アルテミスをお楽しみ下さい。では、また次回お会いしましょう。

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