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アルテミスの夜空の下で  作者: 焼きだるま
5/11

5

 お兄ちゃん。本当は私も、友達が居なかったんだ。だけど、最近新しい友達ができたんだよ。とても良い子なんだ。お兄ちゃんにも、会わせてあげたかったよ。


 嘘だと言ってほしかった。

 昨日まで、確かにそこに居たのに――今はもうそこには居ない。そうか、だから付いて行ったのだろう。何かを、私は察してしまったのかもしれない。虫の知らせというやつだろうか。


 きっと――そうだったんだろう。



 制服を着ていた桜は、川の続く向こう側を見つめていた。その川は、いずれ海へと辿り着く。


「桜ちゃん」


 声をかけたのは、柳沢さんだった。

 名前を、聞き覚えのある声で呼ばれ、桜は後ろを振り返った。


「……久しぶり」


 意外と、桜は拒絶することもなくそう言った。柳沢さんは、そのまま話を続けた。


「――ねえ、遊びに行かない?」


 とてもシンプルだった。それでも、柳沢さんにとってはそれが精一杯に出せる言葉だった。


「……ごめん、そういう気分にはなれない」


 予想通りの返事に、落胆するかと思ったが、柳沢さんは諦めなかった。


「久しぶりに外に出たんでしょ?だったら、たまには遊ぼうよ!気分転換にも――」


 桜の放った言葉は、ごもっともなものだった。


「うるさい」



 最初から無茶な話ではあった。家族を一人亡くしたのだ、これだけの時間で立ち直れるはずがない。

 心傷は、決して癒えることはない。僕も、過去の傷は未だにその心に刻まれたままだ。

 しかし、それは過去のこと。今は傷口を処置して痕だけが残っている。でも、桜にとってのその心傷は、これからも確かに開いたままだ。


 削り取られたパーツの代替品はない。処置もできない。いつまでもその傷を、桜は背負わなければならない。


 いつかは痛みにも慣れるかもしれない。でも、その傷は取り戻すことができないのだ。


 桜は帰ってしまい、僕たちは橋の上に取り残されてしまった。


「……一度、出直した方がいいかもしれない」


 僕の意見に二人は頷くと、一度、僕たちはそれぞれの家へと帰ることにした。


 僕の家はマンションで、祖母と二人で暮らしていた。僕が生まれてまもない頃、両親は交通事故で亡くなっていた。娘を亡くして、とても辛かっただろう祖母は、それでも僕を母の代わりに一人で育て上げた。


「ただいま」


 帰るや否や、ペットの猫が僕に飛びついてきた。


「おっとっと」


 ニャン太郎は、僕に甘えてきた。どうやら撫でてほしいらしい。


「よしよし、良い子だから降りてくれ」


 僕にとっての家族は、ニャン太郎と祖母だけだ。両親はよくわからない。少なくとも、大切な人を、僕はまた亡くしてしまったのだ。


 一人で僕を育ててくれた祖母には感謝している。だから、いじめを受けていた時も、僕の親友が亡くなったことも、心配させまいと黙っていた。僕にとっての母はこの人だ。シワだらけだけど、元気な祖母を見ていると、僕は嬉しくなる。

 祖母だけが、僕の話し相手だったから。


 夕食の時、唐突に祖母は話し出した。

 ――僕は驚いた。


「聞いたよ……おばあちゃんにできることがあったら、なんでも言いな……あの子ができなかった分、おばあちゃんに甘えてもいいんよ……あんたは強い子だから、周りを気にしてばっか。強くても心は傷める。頼れる人間は頼りなさい」


 祖母は知っていた。僕がいじめを受けていたことも、親友を失っていたことも。どこから情報を得たのかは知らない。それでも、母親の強さを、僕は知った。


 勿論、誰かを頼ったことはあった。それは、まだ無力な頃の拓也だ。頼れる人間は居たはずだ。その時に、既に居たはずなのだ。


 親友を失っても、一番早くに立ち直ったのは僕だった。きっと、心を痛めることには慣れていたんだ。そう思っていた。だけど違った。


 涙が溢れた。僕のことを、祖母は理解してくれた。今、バラバラになってしまったみんなを、僕は戻そうとしていることを、僕が頑張っていることを。僕がなんとかしなきゃと、追い込んでいた僕に、祖母は手を差し伸べようとしている。


 強くても心は痛む。きっと、僕は我慢していたんだ。我慢することが、僕の使命とでも言うように、そんなことはなかったはずなのに。


 祖母は、ティッシュを取り出し、僕に渡した。


「ごめんねぇ……ご飯食べてる時にする話じゃなかったわ」


 嬉しかった。僕は強くなんかない。

 僕は――今もまだ、弱い人間のままなんだ。あの頃と同じように、僕は誰かに助けを求めなきゃいけなかった。


 祖母は、僕の助けての声を、しっかりと受け止めた。



 どうやら、拓也の祖母とは面識があったらしい。なんでも、学生時代の先輩後輩の関係だったとか。

 今でも時々、会っては話したりお茶をしたりしていたそうだ。だから、僕がいじめに遭っていることも知っていた。何度か、助けようと思ったらしい。

 でも、助けなかったこと僕は恨んだりしていない。あれがあったから、僕はきっと拓也と親友にもなれたんだ。歪だけど、必要なことだった。


 祖母は、その人と話し合ってみて、桜を引っ張り出せないかやってみると言ってくれた。


「ありがとう」


 ご飯は少し塩っぱかったけど、とても美味しかった。



 2日後――桜と話し合えると、祖母が言ってくれた。

 みんなに連絡を取り、僕たちは拓也の家に向かうこととなった。


 インターホンを押そうとする僕の指は、どうも言うことを聞かず、固唾を飲んでばかりだ。

 こんな時、強引さがあればと思ってしまった――そうだ。


「佐崎くん……やっぱ……代わりに押してくれないかな?……僕じゃ、覚悟が決まらないみたいだ」


 すると、佐崎くんは快く引き受けてくれた。誰かに頼ることは、勇気も要るけど、大切なことだった。


 インターホンを押すと、出たのは拓也のおばあちゃんだった。既に僕の祖母が話をつけていたので、快く玄関を開けてくれた。お母さんは留守らしい。


 リビングではなく、和室の方が落ち着くだろうと、おばあちゃんの部屋に通された。畳の上は、暖かみがあり、確かに冷たい雰囲気よりも落ち着いて感じた。


 おばあちゃんが、飲み物は何がいいと聞いてくれたので、僕はお茶と言った。それに続いて、二人もお茶と言った。


 11月になっていたその日は、肌寒く温かいお茶が、僕たちの体に染み渡った。


 数分ほど待つと、桜が2階から降りてきて、部屋へと入ってきた。おばあちゃんはごゆっくりとだけ言うと、入れ違いで部屋を出て行った。


 意外にも、先に話し出したのは桜の方だった。向かい側に座ると、机の中央に置いてあった煎餅を手に取り、開け出した。


「聞いたよ、もう一度みんな仲良く元通りにしたいんでしょ」


 桜は落ち着いていた。降りてくるのに時間が掛かっていたのは、覚悟を決めるためだったのかもしれない。すると、柳沢さんが話し出した。


「前は――ごめんね。私、どう言えばいいか、分からなかった。考えなしだった。」


 柳沢さんは謝っていた、あの橋でのことを。


「……それはもういいよ、小説、書きたいんでしょ」


 桜は、煎餅をザクザクと食べている。すると、佐崎もお構いなしに中央にあった煎餅を手に取り、食べ出した。


「これうまいな、なんて菓子」

「雪の宿、おばあちゃんが好きなの」


 佐崎の遠慮のなさは、上手く会話を繋げてくれた。


「いいよ、また遊ぼう」


 すんなりと、桜は了承してくれた。


「で、何をすればいいの」


 僕は、桜ちゃんにも、あのことを聞いてみた。


「綾奈紫さん?……ごめん、私面識がない」


 そういえばそうだった。桜はまだ綾奈紫さんには会っていない。すると、


「……いや、ちょっと待って。それ、どこの学校の人?」


 桜がそう聞いてきた。それに佐崎が答える。すると、


「……もしかして……あの子の……」


 桜は、何か思い当たる節があるらしい。何かぶつぶつと桜は言っていると、


「……もしかしたら違うかもしれないけど、こっちでも探ってみる。あと、報酬は勿論あるよな」


 柳沢が何?と聞いた。


「最近、家に居て食べられていなかった新作のコンビニスイーツ。あれを買ってきてくれ」


 今までの空気はどこへ行ったのやら、僕たちは気付けば笑っていた。笑って話をしていた。張り詰めた空気は、和室の暖かさのように、いつの間にか――和んでいた。



 新作スイーツを、佐崎と共に買いに行った。二人は、桜の部屋でゲームをしていた。拓也とよくやっていたらしいそのゲームは、柳沢さんもよく遊んでいるそうだ。


 自転車を漕ぎ、コンビニへと辿り着いた。すると、佐崎が提案した。色々買って、そのまま拓也んちで遊んでしまおうと。


 柳沢さんは既に、桜とゲームに熱中していた。あの時のことを思い出す。桜はカルピス、柳沢さんはオレンジジュース、僕と佐崎くんはコーラ。


 濃いめのカルピスを、僕は探したが生憎と売り切れていた。仕方がないので普通のカルピスを入れ、佐崎は菓子と、新作のスイーツを人数分カゴに入れてくれていた。


 戻ると、柳沢さんは桜に敗北していた。


「ああああーーーまた負けたーーー!!」

「これで12戦12勝ですね」


 完敗じゃないか、入ってすぐのその光景に笑ってしまった。


 佐崎の提案は受け入れられ、みんなそれぞれの飲み物とお菓子を取り出した。

 柳沢さんはオレンジジュース、僕と佐崎はコーラ、桜はカルピスを取り出す。


「カルピスが薄めになっているぞ」

「売り切れてたんだ、ごめんね」

「お兄ちゃんみたいだな」


 この光景に、拓也は居ない。それでも、確かにあの時のような光景だった。みんなで騒がしく遊びまくったあの日、気付けばみんな繋がっていた。


 おばあちゃんは、それを静かにリビングで聞いていた。楽しそうなみんなの声を一階から。


「――ありがとう。あの子に、素敵な友達を作ってくれて」



 気が付けば、日が暮れようとしていた。お母さんが帰ってきたことで、僕たちは解散することになったが、その前に夕食を頂くことになった。


 夕食はカレーだった。どうやら、おばあちゃんが準備は済ませていたらしく。すぐにカレーは出来上がった。


 辛味は少なく、ピリッとスパイスが効いたカレーは、辛いのが苦手な僕でもおかわりを頂いてしまった。他のみんなも、その美味しさに舌鼓を打っていた。


 夕食を食べ終わると、僕たちは帰ろうとするが、お母さんが車を出してくれると言ってくれた。

 柳沢さんの足を考えると、それが良いとなった。


 佐崎は明日やることがあるらしく、自転車を2台も積むわけにはいかなかったので、先に一人で帰ってしまった。僕も一人で帰ろうとしたが、流れで車に乗ることになってしまった。


 僕の自転車は、すんなりと車の後ろに入ってしまった。大型の車は、鱒釣りの時もみんなを乗せるだけの余裕があった。柳沢さんの家に向かって車は走り出した。


「ありがとね、桜のところにも来てくれて」


 僕たちを、恨んではいないのかと、少しだけ心配していたのだが、そんなことはなさそうに話し出した。


「私も、やっと心の整理がついてさ。でも、桜はまだ立ち直れてなかったの。私じゃ――桜を立ち直らせるのは無理だった。あの子友達も少ないから、心配してたの。でも、あなた達が来てくれた。本当にありがとう」


 感謝の言葉だった。


「いえ、僕たちがしっかりしていれば――」

「誰のせいでもないのよ」


 言葉は遮られた。


「ここに居る。誰のせいでもないの。人が死ぬ時は、いつだって突然なのよ。夫がそうだったわ」


 懐かしむように、そう言った。


「……そうですね。僕も、両親がどんな人だったのか知らないんです。生まれる前に、亡くなってしまいましたから」

「そう……」


 死は平等に、そして無慈悲で唐突に訪れる。

 それでも、残酷なバッドエンドをハッピーエンドに変えるかは、生きている僕たち次第なんだ。


「小説、書けたら私にも読ませてよ」


 柳沢さんはそう言われると、困ったように、


「私……バカだから綺麗に書けるかなんてわからないけど」


 と言うと、


「良いの。あの子が読みたかった小説を、私も読みたいわ」


 そう言われ、柳沢さんは少し笑顔になった。


「分かりました。楽しみにしていて下さい」


 そんな話をしていると、気が付けば早くも海辺沿いへと車は来ていた。

 夜空には星と月が、海は深い青色に染まっている。月明かりに照らされ、海面が少しだけ反射していた。とても綺麗な景色だった。


 家の前に着くと、柳沢さんは降り、礼を言いながら手を振っていた。次は僕の番だ。

 マンションに向かって、車は走り出す。


「おばあちゃん、桜をどう説得したと思う?」


 唐突に聞かれ、僕は答えに困った。


「正解はね、あの子の恥ずかしい過去のお話を掘り返したの」

「えっ……」

「ふふっ」


 拓也のお母さんはそう笑うと、話を続けた。


「あの子ね、中学生にもなって布団にお漏らししちゃったの。その時は家におばあちゃんしか居ない時だったから、おばあちゃんと桜だけの秘密だってことで、難を逃れたらしいんだけど。おばあちゃん昔っから性格悪くてね、その話を引っ張り出したら涙目で顔を縦に振ったらしいわ」


 涙目で笑っているその人は、とても楽しそうだった。


「なんで、お漏らししちゃったんですかね……?」

「あの子昔っから怖がりでね、お化けの話を友達から聞いてやっちゃったらしいの。だから、あの子に怖い話はあまりしないであげてね」


 可愛い一面を聞いた。僕も、少しだけ笑ってしまった。


 マンションに着くと、僕は車から降りた。


「ありがとうね、あの子の親友で居てくれて」


 僕は、自信を持って言った。


「僕の方こそ、素敵な親友と出会えたことに感謝しています。本当にありがとうございました」


 お辞儀をすると、そこまでしなくていいわよと言われ、僕は頭を上げた。


「面白い子ね。あの子も楽しかったと思うわ。元気でね」


 そう言うと、車は走り去ってしまった。

 僕は車が見えなくなるまで手を振ると、マンションに入っていった。


 帰ってくると、祖母が出迎えてくれた。


「ただいま」

「おかえりなさい、どうだった?」

「……上手くいったよ」

「――うん、その顔は本当だね」


 そう言うと、風呂が沸いてるとのことで、僕は風呂に入ることにした。体を洗うと、湯船に浸かり、1日の疲れを癒す。

 残りは綾奈紫さんだけだ。しかし、こればかりはコンビニに行っても見かけない。桜が見つけ出すことに賭けて待つしかない。


 きっと、綾奈紫さんは酷く傷付いている。自身のせいで、拓也が死んだようなものだ。絶望と罪の意識は深いはずだ。それを癒せるのは、きっと僕たちだけだ。そう決心すると、僕は風呂から上がった。


 体を拭き、髪を乾かし歯を磨く。時計を見れば時刻は既に午後の9時になっていた。時間の流れが早く感じた。


 リビングに行くと、ニャン太郎は膝の上で、ゴロゴロと喉を鳴らしながら祖母に撫でられていた。


 今日は甘えてこないニャン太郎に、僕はなんとなく自分から近付いて、顔と顔をくっつけた。今日は僕が甘える番だ。


 午後10時頃――僕は、机の上に置いているのを見て、自分が書いていた小説を思い出した。しばらく書いていなかった。いや、書く気力もなかった。

 そして今も、手を付けられそうにはない。ふと、小説用に書いていたメモを思い出し、手に取る。鱒釣りの時も、あの日もこの日も、色々なものをメモしていた。いつでも、小説に落とし込めるように。


「柳沢さんは凄いな、こんな状況でも小説を書こうって思えるなんて」


 僕は、そのメモを鞄に入れると、ベッドに倒れ込んだ。


 綾奈紫さんの行方が知れるまで、僕たちにできることはない。


 綾奈紫さんも元通りにできれば、また、みんなで遊びに行こう。美しい世界を見に行こう。そして、最悪のバッドエンドをハッピーエンドに帰るんだ。そんなことを思いながら、体は沈むようにマットレスに吸い込まれる。


「眠たい」


 アラームをセットすると、僕は寝る準備に入る。明日は日曜日、予定は無く、どうしようかと悩みながら、僕は布団に包まれる。


「佐崎くんは、用事があるらしいしなぁ……柳沢さんにでも会いに行くか」



 ――チャットを開き、柳沢さんに声をかける。オーケーと返ってきたが、その直後にもう一つ文章が送られてくる。


「ついでに、来るときにイマミヤスーパーでこれ買ってきて!――」


 拓也ならこう言っただろう――


「やめておけばよかった」と。



 買い物袋を片手に、柳沢さんの家に着いた。金も受け取ると、部屋へと通された。


「何して遊ぶ?」


 柳沢さんは、ゲームのカセットを出す。彼女はゲーム好きなようで、沢山のゲームが並んでいた。


「じゃあこれで」


 ゲームを遊びながら、僕は一つ、とあることを思い出した。


「今度さ、綾奈紫さんも元気になったら、東京に行こうよ」


 僕は拓也の代わりにはなれない。だけれど、拓也がやりたかったことを、僕はしてあげたい。


「東京?」

「うん……本当は……」


 名前を言おうにも詰まる。親友の名前を、僕は彼女の前で言っていいのだろうか。しかし、心配はあっさりと破られた。


「拓也?」

「……そう、拓也と一緒に行ったことがあるんだ」


 鋭い女だ。でも、その方が有難かった。


「その時にルートも考えててさ……本当は、拓也と柳沢さんで行く予定だったんだけど……みんなで行こう」


 拓也ができなかったことを、叶えるんだ。


「いいよ、みんなで行こう」


 柳沢さんは笑顔でそう言った。

 その時の笑顔を、僕は忘れられない。拓也が恋をしたのも頷ける。そして、柳沢さんは強い人だ。きっと、僕よりもずっと強い。


 帰る時間になり、僕は鞄を持とうとする。その時、空いていたチャックからメモ帳が落ちた。


「……」


 僕は、メモを手に取り、柳沢さんに差し出した。


「なにこれ」

「メモ帳、今まで僕が小説に落とし込めるように、思い付いたり、良かったものをまとめてたんだ。柳沢さんにあげるよ」

「いいの?」

「うん――僕は当分、小説は書けそうにないから、使ってくれる人に使ってほしい。書く時に役に立つかも。勿論、空のページに気になったことをメモしてもいいよ」


 柳沢さんは感謝しながら、それを受け取ってくれた。僕もそれで満足し、家を出る。手を振る柳沢さんに見送られながら、僕は自転車で坂を降りて行った。


 坂の向こうに見える海は、夕暮れの茜色を反射していた。とても綺麗だ。



 家に帰ると、課題を終わらせて、明日の準備をして寝る。なんだか、土日があっという間に過ぎてしまった気がする。それでも、充実していた。不満はない。



 翌日――学校が終わると、スマホにチャットが入っていた。桜からだ。


「綾奈紫さん、見つかったよ」


 なんと、本当に桜が見つけたのだ。


「私の友達に、同じ苗字の人が居たから聞いてみたの。そしたら、やっぱりそうだった」


 世間は狭いと言うが、あれは本当みたいだ。


「どうだった?」


 返事はすぐに返ってきた。


「部屋に篭って出てこないんだってさ。佐崎と同じだね。妹なんだけど、チャット繋げようか?」


 僕は頼むと、桜はチャットをその子と繋げてくれた。名前は秋というらしい。春と秋、生まれた季節の名だろうか、そんな考察をなんとなくしていた。

 取り敢えず、チャットに挨拶を書く。


「僕は涼宮透、よろしくね」


 返事はすぐに来た。


「秋です、よろしくお願いします」


 そのまま、僕は本題へと入る。


「春香さんに会うことってできないかな?」

「お姉ちゃん、ずっと部屋に引き篭もってる。多分、家族の誰も引き出せない」


 こうなれば一つだ。


「みんなで家に、会いにいってもいいかな?」


 直接話しに行くしかない。


「ちょっと待ってね、お母さんに良いか聞いてみる」

「お願い」


 チャットを終えると、桜に礼を書き、家へと帰った。家に帰ると、他の二人にも事情を説明した。

 了承を得ると、秋ちゃんの返答を待った。


 秋ちゃんとのチャットから、30分。返事は来た。


「土曜なら、私も居て空いてるからいいですよ。何時頃が良いですか?」


 小さめのガッツポーズを取ると、時間を決めた。


「分かりました。では、お待ちしています」


 すると、家の場所を書いた文章が送られてきた。

 それは、意外にも柳沢さんの家から近いところであった。いや、バイトをしているのだから当たり前なのかもしれない。


「ありがとう」


 そう送ると、可愛いスタンプで、どういたしまして!と返ってきた。


 あとは、土曜を待つのみ。きっと、なんとかなる。

 あとがき

 どうも、焼きだるまです。

 なんと、今回は1日で書き上げるという、私にしては偉業を成し遂げました!偉い!

 6000〜9000字って、1日に書く量じゃないんよなぁ。休みだからできる暴挙。まぁ、猛者は普通に書けるのかもしれない。負けてられないね。では、また次回お会いしましょう。

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