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アルテミスの夜空の下で  作者: 焼きだるま
3/11

3

 覚えていてくれた、それだけで嬉しかった。

 私は、友達が居ない。だから極端に感じてしまうんだ。あなたのことが好き、恋は盲目。私は、あなたにできることをしたい。


「◯◯◯〜!おにごっこしよ!」


 女の子の声がする。顔は見えない。まだ幼い、幼稚園児だろうか、その女の子は、僕の名前を呼んでいる。


「◯◯ちゃん!」


 僕は今眠たいんだ。


「起きろ〜!」

「うぐっ!」


 腹の上に、妹はダイブしていた。


 女の子に失礼ではあるが、妹は中学生。僕の腹にダイブなんてされたら、私の体は持たない。


「やっと起きた」

「やっと起きたじゃねぇ、もっと他に良い起こし方は無かったのか?」

「股間を潰すとか?」

「雄としての生命が絶たれるので、やめて下さい」

「じゃあよかったね」

「何も良くなんてな――良い匂いだ」


 魚の美味しそうな匂いが、僕の鼻に漂ってくる。


「だから起こしたのさ、飯だぞ!」


 仕方なく体を起こすと、既に食卓には料理が並んでいた。


 鱒釣りを終え、僕達は帰ってきた。どうやら僕は、疲れでそのまま、ソファで眠っていたらしい。


 椅子に座ると、目の前には狐色に揚がっていた鱒が、僕に食べてと訴えてくる。家族が揃って椅子に座ると、みんなで手を合わす。


「いただきます」


 よく揚がっていて、サクサクの中からは柔らかく、ホクホクな鱒の白身が、口の中でとろける。


 僕達は鱒フライを食べたが、みんなはどう調理して食べたのだろうか。スマホには、いつの間にかグループチャットができており、みんな色々な鱒料理の写真を載せていた。


 家のは何故かグループチャットに居る妹が、既に載せていた。



 ――翌日、僕は彼女に呼ばれ、彼女の家へと向かっていた。


 家に着くと、彼女は僕を出迎えた。リビングに通され、僕は椅子に座ると彼女は言った。


「アイスティーしか無いけど、良いかな?」

「君って、ネットの影響すぐに受ける人?」

「そうだよ?」

「ちゃんと理解して言ってる?」

「ホ◯ビデオの人のネタでしょ?」

「女の子なんだから、清らかに生きなさい」

「女の子がそういうこと言って何が悪い」


 ぶー、と頬を膨らます彼女は、アイスティーを二つ持ってきた。


「で、用はなんですか」

「書けたぞ、小説」

「ほう、それはどのようなタイトルで?」

「無い」

「?????」

「まだ決めれてなくてね、だから読んでみてほしい」

「……まぁいいけど」


 出された原稿を手に取り、僕は読み出す。内容は、ある少年が、友人達と町を冒険するといったものだ。


 しかし、内容は在り来りなものであった。ちゃんと書いているのは偉いが、語彙とかも足りていない。3時間ほどかけて読み終わると、彼女に聞く。


「君、国語の勉強してる?」

「全然?」


 無謀だと思った。どこからあの時の自信が湧いたのか、不思議で仕方ない。


「勉強、しよっか」

「……今日はもう帰ってもいいよ?」

「勉強、しよっか」

「……ほら!私他にもやらなきゃいけないこ――」

「ちなみに、テストは?」

「……赤点ギリギリ回避の身であります……」

「勉強、しよっか」


 やだー!と暴れる彼女を押さえながら、僕は彼女を、勉強の地獄へと落とすことにした。


「ああああああああああああああ!!!!!!!」



 ――6月の下旬、彼女と出会ってから、まだ2ヶ月半。気が付けば僕の周りには、三人の友人が居た。


 学校では彼女と、外では二人が、僕と会話をしている。しかし、今日は予定が無かった。天井を見ながら、何をするでもなくベッドに横になっている。


 ふと、あの時の夢を思い出した。


「誰だっけ……」


 幼い女の子の声、聞き覚えがあるその声。


「◯◯ちゃん!」


 何が聞こえる。


「お兄ちゃん!」


 その瞬間、僕は飛び起きる。


「飯!」


 どうやら、僕はまた眠ってしまっていたらしい。そして、また妹に邪魔をされた気がした。


 夕飯は、これぞ和食と言うような、シンプルなものであった。しかし、これも悪くはない。



 夕飯を終え、部屋へ戻ると、珍しく涼宮からチャットが来ていた。


「今度さ、一緒に東京に行かない?」


 突然のお誘いに、僕は返信に困る。


「急にどうしたの?」


 返信は、すぐに来た。


「あの子に、美しい世界を見せるんだったよね?だったら、東京なんてどうだろう。京都も良いな」

「なんで涼宮が、その事でそんな話をするの?」

「僕も、世界を見てみたいからさ。柳沢さんを連れてくよりも先に、東京に行っておけば、どういうルートで行けば良いかも見当が付く」


 なるほど、その案は中々に良い。


「分かった。けど、いつ行くの?佐崎とかは連れてかないの?」

「佐崎くんは少しお喋りすぎるからwできれば、落ち着いて会話ができる人が良いな」


 哀れ佐崎。そう思いながらも、僕は了承した。



 ――7月。土日の2日を使った、東京観光が始まった。


 隊員は僅か二名、隊長の涼宮と、小説を読む機械と化した僕であった。


 やはり、佐崎が必要だったのではないか?そう思ってしまうほどに、新幹線の中では話すことが無い。話すことが無い友達とは、果たして友達なのか。でも、涼宮は落ち着いていた。気まずそうではなかった。


 僕は、何かと思い込みが激しい。少し、僕も落ち着いた方が良いのだろう。



 観光ルートは、涼宮がある程度決めていた。それを元に、次また東京に来た時のルートを探る。


 東京タワー、浅草、その他にも色々、東京での観光スポットと呼べる場所はある程度、涼宮と歩き回った。


 食べ物も美味しい。東京タワーやスカイツリーから見た景色は、僕の心に焼き付いていた。


 あの景色を、彼女に見せれば満足してくれるだろうか。少なくとも、涼宮は満足していたらしい。


 不思議と、涼宮との会話にも慣れていた。たった二人の会話。なのに、気まずくはならない。涼宮は楽しそうだった。僕も、楽しかった。


 2日間の観光は、気付けばあっという間に終わっていた。


 彼女と行くルートも大方決まった。夏休みに入ったら、彼女を東京観光に連れて行こう。



 ――あの日以来、涼宮とは今までよりも、連絡を取り合うようになった。


 楽しかった。初めて、人とここまで関わりたいと思えたんだ。


 きっと、他者から見ればとても、可愛いことなのだろう。それでも、僕は嬉しかったんだ。友達が居ることが。


 夏休みが始まり僕は彼女の家で、五人集まってゲームをしていた。妹は何故か居る。もはや、みんな慣れっこだ。


 途中コンビニに行って、菓子とジュースを買ってくる係選手権が開催された。ゲームで一番スコアの低い者が、その役割となる。


 僕は負けない。生憎と、僕はゲームも上手い。



 負けた。



 あっさり。



 ――仕方がないので、コンビニへ向かう。コーラ2本に、オレンジジュースと濃いめのカルピス2本。菓子は僕のお任せとなった。


 この近くのコンビニには、来たことがなかった。買い物カゴに商品を入れていく。レジに向かい、カゴを置く。レジの店員と目が合った。


 彼女と同じ、長い髪をしていた。しかし、目はキリッとしていた。


 僕は、この人を知っている。

 あの頃と違い、かなり成長している。当たり前だ、あれは幼稚園の頃だ。そもそも、自分自身覚えていたことに驚いている。


「拓也」


 名前を呼ばれ、ビクッとしてしまった。


「……綾奈紫さん……お久しぶりです」

「……久しぶり」


 僕にとっての、初めての友達。それは幼稚園のことだった。


 僕は小さい頃から、あまり人と関わらなかった。関わり方が分からなかった。いつも先生と一緒に居る子、そう思われていただろう。


 先生はいつも、僕に他の子と遊んでみなさいと言っていた。でも、僕と遊んでくれる人は居なかった。


 そんな時だった。綾奈紫は、僕を遊びに誘ったのだ。


 名前が特徴的だったから、名前もすぐに覚えれた。なのに、何故忘れてしまったのだろう。


 幼稚園の記憶、父が迎えに来てくれたあの日。嬉しかった記憶があった。綾奈紫は、帰っていく僕に、手を振ってくれた。一人、手を振っていた。


 小学生になると、綾奈紫は居なかった。別の学校に居たのだろう。悲しかったのを覚えている。僕はまた、関われる人間の居ない世界に堕とされていた。


 一年生の頃に、父は急死した。その頃から余計に、僕は人と関わらなくなった。過去に居たはずの友達の存在すら、記憶から消してしまっていた。


「名前、その呼び方じゃなかった」


 少し、寂しそうな顔をしていた。


「……なんだっけ」

「春香……拓也がそう呼んだから、私も拓也って呼んでたの――覚えてない?」


 申し訳ない気持ちになった。やはり、僕は気が利かないのだろう。


「ごめん……」

「元気にしてた?」


 商品を手に取り、仕事をしながらそう聞いてきた。


「一応……」

「友達、できた?」

「……一応」

「そう――よかった」


 結局、その後は商品の入った袋を受け取り、僕はコンビニを出ようとした。


 せっかくの再会なのに、僕は、なんとも反応の薄い程度の会話しかできていない。


 涼宮と話していた時は、こんなことはなかった。自動ドアが開いた時、レジから声が聞こえた。


「この時間、最近は水木以外は入ってるから。また、来て」

「うん」


 呟くように言うと、僕は彼女の家へと戻った。

 今思えば、綾奈紫について、何も僕は聞いていない。明日、また行ってみようか。


 リビングに入ると、待ちかねたと言わんばかりの彼女が出迎えた。


 そういえば、僕は彼女を名前で呼んだことがない。涼宮や佐崎も、下の名前で呼んだことはない。綾奈紫は……なんで、下の名前で呼べなかったのだろうか。僕にとって、名前は…。


「お兄ちゃん、カルピスが薄めのになっているぞ」


 妹が文句を言っている。


「濃いめの売ってなかった」

「仕方ないなぁ」


 そう言うと、妹はカルピスを取り出す。佐崎と涼宮はコーラ、彼女はオレンジジュース。その日は、一日中ゲームをして過ごしていた。



 ――家に帰ると、夕食を食べ、風呂に入りそのままベッドへダイブした。


 綾奈紫、僕は君にどう接せば良いんだろう。忘れてしまった人と、僕はあの頃と同じように友達になれるのだろうか。



 翌日、僕はあのコンビニへと向かった。綾奈紫は居た。


「来てくれたんだ」

「一応……」

「一応って言葉好きだね」

「……なんて言えば良いかわかんない」

「拓也らしいよ」


 綾奈紫は、他に客が居ないことを見ると、連絡先を交換しようと提案してきた。


 その日は、適当に菓子でも買って家に帰った。午後8時頃に、綾奈紫からチャットが来た。


「ねぇ、今度何処かに遊びに行かない?」


 僕は返信に困っていると、再び、綾奈紫からチャットが来る。


「友達、連れてきて良いよ」


 僕は返信する。


「何処に行くの?」


 返信はすぐに来た。


「みんなで楽しめるところが良いんじゃない?柳沢さんや佐崎くんとか」


 僕は驚いた。何故、綾奈紫がその事を知っているのか。


「なんで知ってるの?」

「佐崎くんから聞いたよ、拓也のこと」


 またあいつか、そう思った。佐崎は僕に、一体何をして欲しいのだろう。


「美しい世界って、何処で見れると思う?」


 なんとなく、僕は綾奈紫にも聞いてみた。返信はすぐに来た。


「柳沢さんのこと、好き?」


 何故、そんなことを聞くのか、僕には理解できない。


「なんで?」

「ねぇ、恋人と一緒に居るとさ、世界の全てが美しく見えない?」


 僕には恋人は居たことがない。その為、綾奈紫が言っていることは、よく分からない。


「それは、柳沢と恋をしろと?」

「拓也にとって、柳沢さんは好きな人?」


 綾奈紫は、どんどんと踏み入ってくる。何故、そのようなことを聞くのだろう。


「分からない」

「拓也、自分のやりたいことをしなよ。他人に言われたからって、やる必要なんかないよ」


 その時、部屋にバスローブ姿の妹が現れた。


「風呂空いたよって言ってるじゃん」

「おっおう」


 どうやら、チャットに夢中で風呂から出た妹の声が聞こえていなかったらしい。


「風呂入ってくる」


 そう、チャットに打った。


 湯船に浸かり、天井を見る。僕にとっての彼女はなんなのだろう。彼女は、どう思っているのだろう。風呂から上がると、僕は綾奈紫にチャットを打った。


「約束したから、やめる気はないよ。あと、多分これが自分のやりたいことだから」


 自信があった訳じゃない。でも、なんとなくそう思った。



 ――結局、遊びには行かずに僕は、彼女の夏休み勉強会へと呼ばれた。珍しくやる気らしい。


 僕もまだ、終わっていなかったので付き合うことにした。何故か妹も付いてきていた。


 僕は、思い切って彼女に聞いてみることにした。


「僕は友達?」


 聞き方が変だった。うん、完全にミスだ。


「何々、もしかして……私に恋しちゃってる?」

「お兄ちゃん、そゆのは二人きりの時に聞きなよ」

「妹氏は取り敢えず黙ってくんない?自分でも言葉をミスりすぎて恥ずかしいの」


 ゲラゲラと笑う妹は置いておき、僕は続けた。


「好きとかは、あんまり分かんない。でも、友達なのか、自分がどう思っているのか、分からなくなっちゃった」


 彼女はなるほど、といった表情をすると、


「私は友達だと思っているよ」


 相手が友達なのならば、きっと僕にとっても友達なのだろう。いや、なら何故、僕は名前を呼ばない。


「そう……」


 少し、場が気まずい。


 僕は、菓子や飲み物を買ってくると言うと、一度家を出た。


 何をしているのだろう、何を疑心暗鬼になっているのだろう。僕の悪い癖だ。


 歩いていると、目の前には綾奈紫が、僕がここに来ることを知っていたように、そこに立っていた。


「どうだった?」

「……友達だよ」

「そっか、じゃあ良かった」


 すると突如、僕の唇に柔らかい感触が襲う――綾奈紫は、僕にキスしていた。


 咄嗟に僕は離れた。頭が働かない。何故?どうして僕なのか?


「どうして――離れるの?」


 分からない。でも、何か違った気がした。


「……ごめん」


 そう言うと、僕は走り去った。


 結局その後、家に帰ってもチャットは来ていない。嫌われたのだろうか。僕は、どうして拒絶してしまったのだろう。


 突然だったから?いや、それは違う。あれは確かに、自身の意思だ。


 こういった時に相談のできる友達は…一人居た。電話をかけると、涼宮はすぐに出てくれた。


「どうしたの?」

「キス、された」

「マジで!?誰?」

「…綾奈紫っていう…幼稚園の頃だったんだけど、友達だった人に」

「…?久しぶりに会ったってこと?」

「そう」

「良かったじゃん」

「…拒絶しちゃった」

「好きな人居たの?」

「…分かんない…居ないと思う」

「居ると思うよ、自分の意思で拒絶したなら、きっと居る」

「でも、僕には友達しか」

「それは君が決めたこと?」


 確かに、僕が決めた訳じゃない。相手が友達だと言ったからそう思ったのだ。


 ならば、僕は彼女に惚れているのか?……あの橋の上で、彼女に見惚れた?……そう――なのかもしれない。


 彼女と色々な場所へ行った。それは、とても楽しかった。僕は、自分の知らない内に恋をしていたのかもしれない。


「なるほど……」

「拓也の分かりやすいところだけど、名前呼んだことないでしょ?柳沢さんの」


 そうか、名前を呼ばなかったのはそういうことだったのか。


「うん」

「想いを伝えてみなよ」


 そう言われ、僕は東京観光のことを思い出す。


「東京、連れて行って言ってみるよ」

「いいね、中々のロマンチストだ」


 涼宮との会話は自然と楽しくなる。今度、下の名前でも呼んでみようか、変な感じになるかな。



 翌日、綾奈紫からチャットが来ていた。


「昨日はごめんね。今週さ、みんなで街巡りしない?」


 街巡り、悪くはない。彼女の望んでいる美しい世界も、もしかしたら見つかるかもしれない。


「いいよ、いつ?」


 返信はすぐに来た。


「明後日」



 ――急だったが、みんなたまたま予定が空いていたらしく、来れることになった。


 彼女は大喜びで参加するらしい。しかし、そこまで歩きまくるのは足の負担となる。車椅子は…あまり良くなさそうだ。


 綾奈紫がある程度のルート、行くところを決めていた。しかし、柳沢への考慮は感じられない。


 そこで、僕と彼女は別行動を取ることにした。柳沢のペースで行けるルートを、涼宮と相談しながら考えた。


 佐崎、涼宮、綾奈紫は三人でルート通りに。僕と柳沢は、なるべく目的地は合わせつつ、負担の少ないルートで動くことにした。


 綾奈紫にこのことを伝えると、いつもならすぐに来る返信は、時間がかかっていた。


「いいよ」


 その返信を見て、僕は安心した。



 予定の前夜。僕は、彼女と電話をしていた。結局、電話なんかしてやるもんかと、心に決めていたことはすんなりと解除されていた。


「アルテミスとオリオンの話知ってる?」

「なんかオリオンが死んで、それに恋してたアルテミスは悲しんで空に打ち上げて星にしたってやつ?」

「そう、それを使った小説って書けないかな」

「なるほどね、良いんじゃない?何かしらは書けると思うよ、悲しい恋のお話とか?」

「いいね!恋のお話か!」

「タイトルに意味も込めると良いんじゃない?」

「どんなの?」

「自分で考えなよ」

「えー」


 ぶー、と頬を膨らます彼女の顔が浮かんだ。どうやら、小説の方も上手くいきそうだ。



 予定日――五人は駅の前に集まっていた。妹は他に予定があるらしく、今日は居ない。


 予定通り分かれ、僕と柳沢も歩き出す。昼のタイミングで、みんなと同じ場所に同じタイミングで来れるようなルートとなっている。


 彼女の歩く速度は、今まで一緒に色々なところに行ってきたから分かっている。


 色々な場所へ行った。新しくできたショッピングモール、リサイクルショップ、前に行けなかった公園にも行った。


 昼飯があるので、カフェには入らなかったが、彼女は満喫していた。


 途中、休憩も挟みつつ、昼食に予定していた場所へ向かい、三人と合流した。カドカワレストラン、チェーン店ではあるが、ここへは最近できたらしい。


 美味しいと評判で、皆、楽しみにしていた。席につき、僕たちはそれぞれの料理を頼んだ。ドリンクバーに、飲み物を取りに行く係を決めるジャンケンが開催された。


 柳沢のみ、審判役としてジャンケンには不参加だ。これに関しては誰も文句は言わない。


 ジャンケンの結果、今度は僕が勝つことができ、三人で取りに行くことになるが、なんとなく申し訳ない気持ちがあった僕は、立ち上がろうとする綾奈紫を止め、結局、男三人で取りに行くことにした。


 代わりに行くと言った時の、綾奈紫の嬉しそうな顔は、僕の心を苦しめた。


 僕は、どうすれば良いのだろうか。結局、あの時のことを、しっかりと返せていない。何故拒否したのか、自分でも自信がないのだ。


 それを確かめる為の東京観光でもある。その時まで、綾奈紫には悪いけど。我慢してもらおう。


 食事を終えると、店を出る。すると、綾奈紫が話しかけてきた。


「次はどこ?」


 取り敢えず僕はそれに答えると、綾奈紫は急にこんなことを言い出した。


「私もこっちに行く!」

「佐崎と涼宮はどうするのさ」

「二人で行ってて!って言う」


 なんとも自分勝手だ、しかし、僕の言葉よりも先に、綾奈紫は二人に向かって行った。


 彼女にこのことを聞くと、オーケーのサインが出たので、仕方なく綾奈紫も同行することになった。


 正直、何を考えているのか分からない。綾奈紫は、次々と動く。しかし、柳沢はそんなにすぐには歩いてはいけない。


 僕も流石に注意をする。綾奈紫は、少しだけ落ち込むと、ごめんなさい、と返した。


 それでも、綾奈紫はどこか嬉しそうだった。少しだけ、気味の悪さすら感じる。しかし、彼女と綾奈紫が普通に会話しているのを見ると、少しだけほっとした。



 ――同時刻、涼宮と佐崎は、予定通りのルートを歩いていた。


「佐崎くん」

「何?」

「どうして、こんなことをするの?」

「何が?」

「綾奈紫さんに、拓也のこと教えたんでしょ?」

「そうだけど、なんで?」

「……拓也は多分、そこまで多くの人と関わりは持たない。だから、無闇に増やせば、いずれ拓也は関係を切ってしまうよ」

「どうしてそう思うんだ?」

「なんとなく」

「そんなの分かんないだろ。あいつ、いつも一人で居たんだ。こっちから繋がりを作らないと、あいつは友達ができない」

「…友達は数じゃないよ」

「ゼロじゃ何もできねえだろ」

「ゼロじゃないよ」

「俺のはお節介だってか?」

「佐崎くんには、佐崎くんの考え方があると思う。だから否定はしない。でも、向こうのペースにも合わせてあげよう」

「…分かったよ」


 佐崎はすんなり認めた。彼なりの優しさでもあるのだろう。


 でも、そんな佐崎の存在も、僕はメモしていた。人によって考え方や感じ方、接し方も変わる。僕はそんな人間関係をメモしていた。小説に落とし込む為。いずれは、柳沢さんにも共有できたら良いな。


 柳沢さんは言わないけど。きっと、柳沢さんも恋をしている。あくまで僕の勘だけど、そんな風に見える。


 そして、綾奈紫は、あまり良くないことを考えている。僕は、親友として、拓也のことを守ってやりたい。


 ならば、付いていくべきだっただろうか……いや、それこそさっき言った、お節介になってしまう。僕は、佐崎と一緒に色々なところを見て回ろう。


 拓也、僕も本当は友達かなんてことは、よく分からないんだ。だから、これは僕が勝手に思っていることなんだけどね。僕たちは、親友なんだ。


 僕は、君の助けになりたいよ。あの時、僕は君に助けを求めた。でも、助けることはできなかった。それは、拓也にも力が無かったからだ。


 でも、今は違う。僕たちは成長した。君にだって、僕にだって互いを助け合えるんだ。あの日、僕に相談してくれて、僕は嬉しかったんだ。


 ありがとう、君の存在に、僕は助けられた。

 あとがき

 どうも、焼きだるまです。

 今回で、察しの良い方は気付くでしょう。私が何を描きたいのかを。まぁ、取り敢えず続きを楽しみに待って頂けたらなぁと思います。では、また次回お会いしましょう。

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