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アルテミスの夜空の下で  作者: 焼きだるま
11/11

 これは僕たちが紡いだ、一つの物語。


 階段を登る。僕は、久しぶりに日本へ帰国していた。美里は、見たいところがあると、日本へは帰国せずに、今はまだ海外に居る。


 お墓が立ち並ぶその中に、僕は、拓也のものを見つけた。


「久しぶり拓也」



 ――必死に勉強をし、大学を卒業した後僕は、一つの会社を作り上げた。美里と共に始めたその会社は、最初の方こそ大変だったが、次第に認められ始め、今じゃ数年で世界でも有名な大企業へと成長を遂げた。


 僕たちは、信頼できるものに後を託し、一生では使い切れないだろうその金で、世界中を飛び回って美しい世界を探している。


 彼女は今も小説を書いており、その一つが最近、大賞を取り、書籍化された。それと同時に、アルテミスも評価され、こちらも販売されることになった。


 しかし、彼女の書く手は止まらず、今もそのネタを探して、美しい世界を飛び回っているのだ。僕もそれに付き合っていたが、たまには日本に帰りたくなったので帰国した。


 その理由の一つとして、拓也に話に来たからだ。


 僕はもう30歳、君も30歳。そういえば、まだ親友同士で酒を飲んでいなかったと思い出すと、ここに来たくなった。


「酒、どれが好みに合うかわかんないから、いっぱい買ってきた。ここに置くよ」


 日本酒、ビール、ハイボール、ワイン。僕も、いくつか開けて飲み始める。


「拓也、拓也が僕に託したあの日から、色々あったんだよ。今日は、それについて酒を飲みながら話すよ」


「まず――桜は大学を卒業して、素敵な男性と巡り会えたようで、なんと昨日結婚したんだ。僕も結婚式に参加したよ。久しぶりに見たけど、凄い可愛かった。男の人も、優しそうな顔をしてたよ。幸せそうだった。きっと、今度結婚したよって報告しに来ると思う。それとも結婚すること、拓也は聞いてたかな?」


 涼宮は笑いながら、話を続けた。


「佐崎くんと春香さんは、第二子がもうすぐ産まれるよ。兄弟になるんだってさ。騒がしそうだよね。佐崎くんはサラリーマンしてるよ。春香さんはすっかりお母さんになってた。意外だろ?あの二人が結婚するなんて。僕も最初はここまで上手くいくなんて、そこまで思ってはいなかった。だけど、結婚することを聞いた時は本当に驚いたよ。凄いよね」


 涼宮は、次にワインに手を出した。紙コップにワインを注ぐ。


「前に話したよね、秋ちゃんっていう春香さんの妹が居てさ、その子も今は看護の仕事をしているらしいよ。良いなぁ、僕も入院することがあったら秋ちゃんの居るところにいきたいなぁ」


 ワインを飲みながら、涼宮は墓に背を向けて、向こう側にある町を見ている。墓は開けた山の中にあり、そこからは町が見える。


「君のおばあちゃんとお母さんも元気だよ。おばあちゃんに至っては、最近ウォーキングを始めたらしい。まだまだ桜には負けてられないんだってさ。もう100歳を超えたのに、本当に元気だよね。僕も負けてられないな。でも、旅をする元気はまだ美里の方が勝ってるらしい」


 ははは、と笑う涼宮は、そのまま話を続けた。


「そして、美里と僕は結婚した。文句は言わないでくれよ?君が託したんだ。こうなっても仕方ない。――でも、君はむしろ安心してくれるんだろう?大丈夫。美里のことは大切にしているよ。でも、まだ旅はしたいから子供はあと一年待ってだとさ。そんなことしてたら、時期を逃しちゃうのに。仕方のない人だよ全く。でも、振り回されるのも悪くはないけどね。美里も楽しんでる。そうそう、君に見せたかった本があるんだ」


 そう言うと、涼宮はアルテミスの夜空の下で、と書かれた本をお墓の前に置いた。


「君のことも書かれている小説だ。美里が書いたやつ。君にも読んでほしいんだ。ここに置いておくからさ、今度……うーん。僕が長生きしてやっと死んだ時に、感想を聞かせてよ。それにまだまだあるんだ」


 涼宮は、美里が書いたもう一つの本と、もう一つの原稿を取り出した。


「こっちは新しいやつ。そして――この原稿は僕が書いたやつだ。実は、まだ美里にも見せてない内緒のやつでさ。僕なりの小説を久しぶりに書いたんだ。だから、ここで君に読み聞かせてあげるね。あの時、君が僕の小説を読んでくれたように、いつか感想を聞かせてほしい。喜んだまえよ?まだ世に出る前の小説だ。ここから世界的にも有名になる。多分。それを初めに読めるんだ。こんな激レアなチャンス、君にしかないんだからね?」


 そう言うと、涼宮は楽しそうに自身が書いた小説を読み出した。


 物語は、失ってしまった親友へ向けた、届くことのない手紙のお話。それは――紛れもない涼宮と拓也のことを描いた小説だった。



 朗読は、何時間も掛けて続いた。もうすぐ夕方に差し掛かる頃、涼宮は読み終えた原稿を仕舞い、帰りの準備をする。


「どうだったかな?僕は、拓也のことを忘れたりはしない。これからも親友だ。だから、また今度ここに来るよ。その時は、同じく酒を持ってきて、本になった僕の小説を持ってきてあげるね。勿論、美里の本も持ってくる」


 そう言うと、涼宮は立ち上がり、お墓を見る。


「だから、待っててね拓也。また、会いに来るよ。僕のかけがえのない親友だからね」


 風が涼宮に流れてくる。涼宮は、鞄を持ち、立ち去っていく。親友を背に、彼は歩みを止めない。数ヶ月、一年にも満たない時間で、僕たちはかけがえのない友達、親友を作り上げた。


 これは、みんなと――


 美しい世界を見たいと願った一人の少女と――


 友達の居なかった 僕 が紡いだ物語だ。

 あとがき

 どうも、焼きだるまです。

 アルテミスの夜空の下で 完結!

 本当に今までありがとうございましたぁあああ!!!!

 ここまで続けることができたのも、応援してくれた皆様のお陰であります。感謝してもし切れません。

 アルテミスの夜空の下で は、私が知識ゼロの状況から始めた作品の一つであり、2作目に当たるのですが。

 書き続けてきて、段々と書き方がわかってきたり、後々になってルールやマナーweb小説での読みやすい書き方などを知り、今も読み返すと、最初の頃との書き方の違いが分かり、自分でも読んでいてとても面白いです。

 沢山書きたいですが、ウケが悪かった時の反応が怖いのでここら辺で……

 あとは、これから読まれる読者様方に託します。アルテミスの夜空の下でを、今まで本当にありがとうございました。

 実は、次回作も既に決まっておりますので、続報をお待ち下さい。1ヶ月と短い期間でしたが、私も書いていて楽しかったです!

 短編連作小説、人外も(2023年5月9日の時点)まだまだ続いておりますので、そちらも是非!

 これにて、後書きを終わりとさせて頂きます!では!また別の作品でお会いしましょう!

 さようなら!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ∀・)素晴らしい物語でした。なにより「物語としてのコンセプト」ですよね。ここにすごくグッと惹かれてく感じがありましたよ。柳沢さんを巡る話かと思いや“彼”を巡るおはなし。メタを弄るおはなしと…
感想一覧
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