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アルテミスの夜空の下で  作者: 焼きだるま
10/11

8

 嘘から始まった、一つの物語。引き裂かれても、私たちは繋がり続ける。失ったものは星へ、月明かりが照らす美しい世界を、私たちは見に行こう。


 何とか僕たちは、有馬温泉に辿り着くことができた。しかし、何故ここなのか、彼女に聞いても答えは得られない。


 駅を出ると、僕たちはまず、有馬親水公園へと向かう。有馬川が中央にあり、そこへ降りる階段があった。


「うぉーっほー!すごーい!」


 川沿いの歩道を囲む建物は壁のように、その世界を独立させていた。確かに綺麗だ。彼女は燥ぎながら、川沿いを歩き始めた。


 僕も、彼女の歩行の邪魔にならない程度の距離で、いざという時に助けれる一定の距離を取り歩きながら、辺りを見渡していた。


 川沿いから上がり、建物の付近を歩くとお店などが並んでいる。食べ歩きにはもってこいだ。


 僕たちは、気になった食べ物があれば、それを買っては食い、買っては食べた。どれもとても美味しかった。そのまま、僕たちは予約していたホテルに向かう。


 昼も良いが、夜にも出歩こうという感じになっていたので、まずは温泉を楽しもうではないか。


 旅館に向かっていると、その方から来たのであろう観光客が、落とし物をしたのが見えた。


「すみません!これ、落としましたよ?」


 僕がそれを拾い、男に渡した。


「あぁ、申し訳ない。ありがとう。あなた達も観光ですか?」

「はい」

「高校生ですかね?仲が良いようで」


 僕は少し、恥ずかしくなる。そんな僕を置いて、柳沢さんが男に聞いた。


「美しい世界を見に来たんです。ここを観光してて見つけた、美しい世界はありませんでしたか?」

「美しい世界か……なら、ここは全部美しいよ。面白い人たちだね」

「彼女が、小説を書きたいらしくて、美しい世界を見て回っているんです」

「なるほど、それは中々楽しそうですね。ここでも楽しんでいって下さい。では」


 そう言うと、男は手を振り、笑顔で去っていった。僕たちも手を振り見送ると、予約していた旅館へと向かう。


 正月明け、少しだけ人は多かったが、観光はできるほどであった。僕たちは旅館に入り、手続きをすると部屋へと向かう。今回は柳沢さんがどうしても、と言うので二人一部屋だ


「女の子と二人きりだなんて、変なこと考えないでねぇ?」


 嫌にニヤニヤと悪い顔をしている柳沢さんが、僕にそんなことを聞いてくる。


「僕と一緒で良かったの?僕のいびきはうるさすぎて、近所から苦情が来たくらいだよ?」

「ウソォ!?」

「嘘」

「だよねぇ」


 冗談はよしてくれよ〜というような顔をしているが、冗談を言ってきたのは彼女の方。引っ掛けてくるのならば、僕もそれ相応の引っ掛けをしてやろうというわけだ。


 畳と木が、部屋の暖かさを作り出していた。窓の外は、温泉街が見える。値段の割に、とても綺麗な旅館だ。


 僕たちは、とある準備をすると――互いに頷き合い、温泉へと向かった。


 ここへ来たらば温泉は必ずだ。温泉は、色々な種類があった。温度も丁度良く、一つ一つ僕たちは堪能した。僕たちと言ったが、流石に混浴ではない。


 正月は、ゆっくりこそしたが、色々動いたりもした。その疲れが一気に癒やされる。それは彼女も同じであった。


「癒やされるぅ〜」


 風呂から上がると、同じタイミングで彼女も出てきた。このままゆっくりするのも良いが、明日には帰るので、観光は今日だけだ。準備をすると、僕たちは観光に向かった。


 日本三大名泉の一つである有馬温泉は、歩いているだけでも、大量の温泉が目に入る目に入る。


 足湯なども多く、僕たちは休憩の際には足湯を堪能して回った。


 よい湯まんじゅう。山芋と黒糖を使用し、生地に甘さを抑えた餡の詰まったおまんじゅうだ。食べ歩きの際に食べたこれは、柳沢さんと百点を付けたほどに絶品だった。


 他にも色々なものを食べ歩いては、休憩に足湯を堪能し回った。


 中には、ドクターフィッシュという、人間の角質を食べてくれる魚の足湯まであった。足湯に魚と聞いて驚いたが、本当に居るのを見ると、世界には色々なものがあることを思い知らされた。


 二人で10分間、ドクターフィッシュは僕たちの足に群がり、角質を食べ始めた。


「うっひゃー!くすぐったい!」

「うぅん……これはっ……でも、凄く気持ちいいね」

「うん!」


 くすぐったいが、気持ちいいという感覚は、人を癖にする。気が付けば、もう10分になっていた。


 他にも色々回った。夜にもなり、僕たちは旅館に戻ることにした。その間も少しだけ寄り道しつつ、温泉街を歩いた。夜の温泉街も綺麗で、本当はもっと歩きたかったが、柳沢の足が限界だ。


 旅館に戻り、夕食を食べる。夕食は、食べ切れるか心配になるほどだったが、どれも美味しかったのでお腹に入った。


 妊婦腹第二章、開幕。あとは旅館でゆっくりするとしよう。



 気が付けば、柳沢さんは何やら小説を書き始めていた。


「調子はどうだい?」

「うん、結構書けた」

「そっか、望んでいたことは叶った?」


 柳沢さんは、ペンを置くと手のひらに顔を乗せ、窓の向こうを見ながら言った。


「楽しかったよ。美しい世界も沢山見れた」


 確かに、僕たちは色々なところに行き、色々なところで遊んだ――


 ゲームセンター、鱒釣り、みんなで集まってゲーム、スポーツ、街巡り、東京観光。そして、有馬温泉。


 もう……みんなと会って7ヶ月ほどだろうか。それは、短い期間なのかもしれない。拓也と一緒に遊べたのも、たったの4ヶ月だ。だけれど、僕たちのこの一年にも満たない時間は、とても濃く、とても大切な日々になっていた。


 決して忘れられない思い出たち。寂しかった僕たちは、いつの間にか繋がって、みんなで集まっていた。


 たったの数ヶ月で、僕たちは絆に結ばれた。たったの少しのことで、全てのことが変わった。


「ねえ」


 彼女が話し出した。


「私のこと好き?」


 突然だった。いや、この人はいつも突然だ。……だけれど、僕も同じ気持ちであった。


「……」


 なのに、声が出ない。嬉しいはずなのに、声が。


「顔真っ赤だねー」


 ニシシ、といつもの悪い顔で彼女がふざける。この時ばかりは、その顔に救われたような、そうでないような気もした。


「ありがと、私を色々な場所に連れて行ってくれて。拓也との約束を、涼宮くんが引き継いで果たしてくれて良かった」


 笑顔だった。本当なら、この笑顔は僕が見るものではなかった。本当なら、ここに拓也が居て、僕が居なかった。拓也が、彼女と歩むはずだった一つの道だ。


 だけど、拓也はここに居ない。そして、彼女がこれから描く小説を最初に読めるのも、僕だけなんだ。


 夜空が綺麗だった。星が見え、月が照らす温泉街。窓の向こう側は、建物の光で溢れていた。空と地上のプラネタリウムは、僕たちが眠るまでの間続いた。


 もう一度風呂に入ると、布団を敷き、僕たちは寝る準備に取り掛かる。寝る前に、トランプで遊びながら。今までの話をしていた。


 彼女は言った――これは最終章なのだと。

 どうやら、彼女の目的は、もうすぐ果たされるらしい。僕たちの物語を小説にする。しかし、その最後が僕なのは、やはりそういうことなのだろうか。


 物語の主人公は、最後に何をすれば良いのだろう。でも、きっとそれは彼女に聞いても答えを得られない。僕の行動で、それは決まる。


 パーカーは彼女の勝ちだった。良い時間になったので、僕たちはそれぞれの布団へと潜り込む。襖の向こうから、月明かりが部屋に入ってきている。


 朝かと勘違いしてしまいそうなほどに、月明かりは明るかった。襖が無ければ眩しかったかもしれない。


 部屋は静かだ、きっと彼女も同じだろう。



 ――部屋は静かだ、だけど耳鳴りが止まない。私の世界はいつもそうだった。会話をしていれば、気になるほどではない。だけれど、私の病気は足というよりは神経だ。


 私は常に、耳鳴りを聞きながら過ごしている。周りの音が無くなると、いつも耳鳴りが私を包んでいた。眠れないわけではない。だけれど、考え事をしていると少しだけ気になりもした。


 耳鳴りは――寂しさを感じるからだ。それは多分、ただの気のせいなのだろう。だけれど、拓也が居なくなったあの日から、私は耳鳴りをうるさく感じてしまった。


 耳鳴りが鳴る時は、静かな時。静かな時は、誰も居ない時なんだ。今までそれは、決して苦じゃなかった。


 慣れてしまったんだ。みんなが居ることに。騒がしい友達が、大切な人が居る環境に。


 両親はいつも家に居なかった。私に不自由をさせない為と言ったが、私は側に居て欲しかった。寂しかった。拓也は、いつ呼んでも来てくれた。


 耳鳴りのある世界は、友達の声でかき消されていた。それが良かった。いつまでもそうであって欲しかった。


 だけど、拓也はもう居ない。その代わりに、新しい友達が増えたり、涼宮くんが私の側に居てくれた。


 それは、拓也が死に際に言った約束を守るためだ。それでもよかった。誰かが側に居てくれるだけで、私は安心できたからだ。


 側に居る。だけれど、耳鳴りは私を襲っていた。拓也は居ない。私は、どうすれば良いのだろう――



 本当は、小説なんてどうでも良かった。


 ただ、誰かが側に居てくれるだけで良かった。


 橋の上、拓也に見せたあれは小説じゃなかった。


 あれは――小学生の時に書いた感想文の途中で書くのをやめたものだ。


 拓也なら、なんとなく私の側に居てくれる気がした。


 どうして、そう思ったのかはわからない。


 だけれど、それは現実になり、そして――最後には私から離れていってしまった――



「――どうして……だろう」


 彼女がそう呟いていた。


「どうして、だろうね」


 僕も、なんとなくそんな返事をした。何か、返事をしてあげた方が良かった気がしたからだ。



「ありがとう」


 よく眠れた。涼宮くんが返事をしてくれたから、耳鳴りが少しの間だけ聞こえなかった。拓也は居ない。でも、涼宮くんが側に居てくれる。


 拓也が残してくれた。私の側に居てくれる、かけがえのない美しい世界だ――



 ――朝、目が覚めた。彼女はまだ寝ている。僕は、時計を見る。彼女を起こし、朝食を取る。


 時間はまだあったので、最後に一回だけ風呂に入った。昨日から入ってばっかで、全身シワだらけの老人になるんじゃないかと心配になったけど、そんなことはなかった。


 準備をして、僕たちは旅館を出る。冬休み最終日、僕たちは自分たちの町へ帰る。


 有馬温泉を出る前に、お土産を買って帰る。名物系で、おばあちゃんが喜びそうなものや。みんなが嬉しがりそうなものも買っておいた。


 駅へと向かう。荷物はなるべく、僕が持っていた。その方が、彼女の負担にならないからだ。


 本人曰く、袋が二つならバランスが取れて、逆に歩きやすいとのことだったが、そうすると、彼女の方が明らかに持つ量が多くなってしまうのだ。


 ここは男を見せ、僕がほとんどを持った。僕はもう――昔みたいな力無しじゃない。肉体的にも、精神的にも昔よりは強くなった。


 改札を通り、電車を待つ。電車を待っている間、一つだけ、お土産を開けて食べたりもした。


 勿論余分に買っていた分なので、問題はない。煎餅系のものだったが、これもまた美味しかった。


 電車に乗り、僕たちは自分たちの町へと戻っていく。これが、僕たちの最終章だ。



 ――帰ってくると、僕たちは一度、いつもの公園へと集まることにした。お土産を渡したり、有馬温泉での話をしたりしながら、遊んだりもした。


 今度は、みんなで行こうとも話した。まだまだ冬は続く。どこかのタイミングで、またあそこに行くこともできるだろう。


 すると、雪が降り出した。しかも、今度は東京の時とは違う。この町は、あまり雪が積もらない。だけれど、この時は違った。


 雪は、数時間で積もり。公園は、真っ白な雪で満たされていた。


「雪遊びだー!」


 みんなで燥いで、雪だるまを使ったり雪合戦をしたりした。


「冷た!――よくもやったなー!」


 四人で雪合戦をしていた。佐崎くんと春香さんは、二人で雪だるまを作っていた。どうやら、東京観光の時に告白したらしく、二人は付き合っているらしい。


 帰り道の雰囲気的に、そんなことはないと思っていたのだが。どうやら、クリスマスのライトアップの際に、二人で会話をしていたのは、そういうことだったらしい。上手くいっているようで何よりだ。


 妹組は、容赦なく僕たちに雪玉を投げつけてくる。時に、彼女と協力して、三体一で僕に集中砲火してきたこともあった。


 相変わらず容赦がない。だけど、僕も負けてられない。その標的は、雪だるまが完成し高みの見物をしていた佐崎くんだった。


「喰らえ!」

「びゃっ!」


 顔面にクリーンヒットし、情けない声を上げた佐崎くんに、春香さんは笑いを堪え切れていなかった。


「やりやがったな!こんの――!」


 結局、最後はみんなで雪合戦になった。春香さんも乗り気で投げていた。


 僕の失われた小学生時代。それは、高校三年生になってやっと取り戻された。


 私の寂しさは、いつの間にか沢山の仲間に囲まれて楽しさに溢れていた。


 俺の強引さは、たまにはみんなを繋ぐ架け橋になっていた。


 私の罪の意識は、いつの間にか明るい気持ちへと変わっていた。


 私の偽りの友達は、いつの間にか、騒がしい本物の友達たちによって、現実となっていた。


 私の日常は、私に似た友達のお陰でこんなにも変わった。



 僕の日常は、ある日突然失われた。だけれど、後悔はない。みんなが叶えてくれた――



 ――冬休みが終わり、三学期が始まる。高校生としての、最後の期間だ。


 ある日の金曜――僕は、彼女に呼ばれ、家へと向かっていた。海は茜色に染まり、僕は坂を登っている。


 家に着くや否や、彼女によって告げられたのは、お泊まり会であった。


 いつも突然だが、即日の何の用意も無しは無謀ではないか。流石の僕も今回ばかりは正気を疑った。


「まぁまぁ、良いではないか」


 何も良くはない。決して良くはないのだ。

 まぁまぁ、と言った感じで、僕は彼女に引っ張られ家へと入る。言うことを聞かねば、僕のヘソを噛み切ると脅してきた。


 どこかの雷の話だろうか、何故ヘソを噛み切られなければならないのか。これが分からない。


 しかし、僕も諦め癖が付いたようで、諦めて言うことを聞くことにした。おばあちゃんに連絡して、今日突如泊まることになったことを伝えた。


 どうやら、理由もあったらしく。彼女の書く小説が、もう少しで完成するとのことだった。


 僕がここへ呼ばれたのは、その仕上げに必要なのだそうだ。そして、僕が飯を作れるという噂を家のおばあちゃんから聞いたらしく、作ってほしいとのことだった。


 この人の人脈はどこから辿ればそうなるのだろうか、春香さんのあの時も、彼女一人でどうにかできたのでは?と思えるほどだ。何故、友達が居なかったのか理解に苦しむコミュ力と行動力だ。


 いや、それがあっても馴染めないことはある。時に、小さい内から大人びた知識や行動をしていると、周りはまだ子供なのでその者は異端となる。


 小さな子供にとって、異端は自分より上ではなく、自分よりも下だと捉えるらしく、みんながその者を見下したり、無視したりする。


 その子は本当のことを言っているのに、誰も信じてはくれない。小さな子供にとって、正解は自分の中だけなのだ。周りに正解はない。


 それに、彼女が障害持ちなのもあったのかもしれない。どうして、僕たちは成長してからでないと、気付くことができないのだろうか。


 みんな、同じ人間なのに。自分が正しいなんてことは、必ずではないのに――



 夕食が作り終わると、彼女を呼んだ。僕は生憎、彼女が思っているほどの料理はできない。だけれど、オムライスだけは得意だった。


「うぉっほー!すごいふわとろ!いただきまーす!」


 スプーンを手に取り、彼女は一口、オムライスを口に入れる。すると、彼女はその一口を時間を掛けて味わい始める。


 恐らく今頃、アニメのような解説シーンが、彼女の脳内に流れているのだろう。


「早く食べないと、オムライス冷めちゃうよ」

「はい、食べます」


 面白い人だ。


 食器を片付けると、彼女は自分の部屋に戻っていった。先に入ってていいよ!とのことで、僕は、仕方がないので風呂に入ることにした。


 服は、父親のを借りてとのことだ。中々帰ってくることのないらしい両親は、彼女のことをどう思っているのだろうか。……いや、きっと両親なりの育て方なのだろう。


 育て方に正解不正解は沢山ある。だから、このやり方も否定はできない。実際、彼女は何不自由なく生活できている。金には、そこまで困っていないだろう。


 シャワーを浴び、体を洗うと湯船に浸かる。僕は、この時一つ――覚悟を決めていた。


 きっと、彼女は一人では生きていけない。だけれど、両親は側に居ない。拓也との約束も、あれは美しい世界だけではないはずだ。そして、僕自身がそうしたいと願っている。


 風呂から上がると、僕は彼女から言われた通りに、父親のものと思しきものを借りた。服はぶかぶかだったが、仕方がない。僕の身長は普通より少し低めだからだ。


 歯を磨くと、僕は彼女の部屋に向かった。ドアを開け、中に入る。


「お、さっぱりした?」

「うん」

「服ぶかぶかだったね」


 笑いながら言う彼女の手元には、今現在進行形で書かれている原稿があった。


「実はさ、もうすぐ出来上がるんだ」


 楽しみにしている彼女の椅子から、少し離れた後ろ側に僕は座った。


「ねぇ」

「何?」

「僕は決めたよ」

「?」


 今度はちゃんと口にする。


「僕は、これからも君と一緒に居たい。君から描かれる世界を、僕は見ていきたいし、君にも僕から描かれる世界を見てほしい」

「おぉ、それロマンチックで良いね」


 息を一つ吸う。


「だから、付き合って」


 海辺のベランダ、窓は空いており、風が僕たちに流れてきた。彼女は、後ろを振り返って僕を見たまま、返事をした。


「じゃあ、私からも一つ。今日、この小説が書き終わるまで、そこに居てほしい」


 僕は頷いた。彼女も笑顔だった――



 君は何を思い、何を書いているのだろう。

海辺のベランダ。アルテミスの夜空の下で、風に靡く君の髪を見ながら。僕は、君から描かれる世界を待っていた――



 ――結局、僕はそのまま眠ってしまったらしく、目が覚めたら彼女が不満そうに、ぶー、と頬を膨らませていた。


 既に朝だった。彼女は朝になるまで書き続けていたようだ。書き終えた原稿の束を、僕に渡す。だけど、流石に寝起きでは読めない。


 一度、一階に降りて、朝食と珈琲を作った。トーストにツナとマヨネーズ、そしてブラックペッパーを乗せた簡単なものだ。


 だけど、彼女はそれを喜んで頬張った。彼女の珈琲は、砂糖を二つぶち込み、ミルクを入れた甘さ全開の珈琲だ。僕はブラックで飲める人間なので、久しぶりにブラックで頂いた。


 少し休憩すると、先程渡された原稿を僕は読み始める。それは、僕たちが今までしてきたことの集大成だった。


 タイトルは「アルテミスの夜空の下で」


 美しい世界を見たいと言った少女を中心に、ある男の子がその願いを叶えるため、動き回っては友達が増えていく、青春小説だった。


 正直、まんま過ぎないかな、とも思ったけれど。読んでいると、今まで僕たちがしてきたことが、鮮明に書かれており。


 僕は、気付いたら泣いていた。原稿を濡らさないよう、僕は原稿を机に置いた。


 変わったんだ。小学生の頃、僕は人生を恨んだ。友達もそこまでできずに居た。だけれど、佐崎くんが強引に引っ張って、僕は勇気を出してあの頃のトラウマに打ち勝った。


 変わったんだ。僕には親友ができていた。たったの数ヶ月という、かなり短いものだったけど。僕は、それでもかけがえのない親友なのだと思えた。


 変わったんだ。彼女の為に動いたこの生活は、様々な美しい世界を僕に見せてくれた。景色だけじゃない。様々な繋がりが、僕を魅了させたんだ。


 変わったんだ。彼女を思う気持ちは、いつの間にか友達ではなくなっていた。


 変わったんだ。世界は、美しかった。あの頃の自分には、世界は汚く見えただろう。だけど、歩いてみれば世界は美しかった。


 まるで、月が照らし、星々が輝く夜空のように、その一つ一つが美しく輝いていた。


 アルテミスの夜空の下で生まれたこの小説は、僕にとっての美しい世界そのものだった――



 ――結局、書いた小説を出版社に持ち込んだところ、残念ながら上手くはいかなかった。


 僕は良いと思えたのだが、小説の書き方に少し問題があったらしい。残酷だけれど、これが現実だった。


 だけど、彼女は諦めていなかった。僕も、諦めていなかった。僕は約束した。これからも君に、美しい世界を見せると。


 彼女も約束した。必ず、みんなが認めてくれる小説を書くことを、僕の期待に応えれる小説を書くと。


 もうすぐ、僕たちは大学生になる。将来のことの方が大事だけど、それと同じくらい、彼女との旅を、僕は大切にしていきたい。


 拓也が、彼女にやろうとしたことを、僕が追う星を、僕は、これからも歩き続ける。彼女と共に、この足で。

 あとがき

 どうも、焼きだるまです。

 はい。次回、最終回です!アルテミスの夜空の下で、を応援してくれた皆様!ほんっとうにありがとうございました!

 是非、最後まで見て行ってください!では!次回!最終回でお会いしましょう!

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