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アルテミスの夜空の下で  作者: 焼きだるま
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 小説に何を求めるのか、あの自由に描ける世界に、私は何を描くのだろう。


 君は何を思い、何を書いているのだろう。

海辺のベランダ。アルテミスの夜空の下で、風に靡く君の髪を見ながら、僕は、君から描かれる世界を待っていた――



 あれは、友達も居なかった僕が三年生になった時。みんな、進路も大方決まってきていたようで、僕だけが置き去りにされていた気がした。いや、実際そうだったのであろう。


 特にやりたいことも決まらぬまま、新学期が始まる。小、中と友達のできなかった僕が、今更高校で友達ができるはずもなく。ただ教室の隅で本を読んでいるだけの置き物となっていた。


 本だけは、僕を置いていかなかった。自分のスピードで進む物語には、いつだって助けられていた。自分のペースで良いのだと。物語の主人公のように、いつか花咲くのだと。


 でも、そんなのは自分が勝手に思っているだけで。現実は僕を無情にも、置いていった。何も得られぬまま、また学年が上がり。今度こそ逃げ道なんてものが無いことを、僕は知った。


 桜の雪は人々に舞い落ちる。カップルや友達同士、新しいクラスについて話し合う者。様々な人々が学校へと向かっていた。


 僕はただ一人、誰とも話さず学校へと向かっていた。桜の雪は、そんな僕にも降っていた。みんな平等であると、そう言うように人々へ舞い散る。


 橋の下、川の水面には桜のカーペットができていた。流れのままに、このままみんな海へと向かうのであろう。僕は、その中の川底へ沈んでしまうのであろう。なんてことを考えながら、学校へと向かう。


 新学期が始まると、みんなはすぐに新しい友達を見つけたようで、楽しい雰囲気が場を包んでいた。


 僕は一人、新しく買った小説を読んでいた。主人公は、桜の散る頃に別れた恋人と再会する。


 そんな、ありふれた内容でありながら、その世界に引き込まれていくのはやはり、文才と呼ぶべきものなのであろう。独特の言い回しや、登場人物の個性や世界観。描かれていく、その物語の全てが僕を誘う。


 気が付けば始業式のある日は終わっており、下校の時間となっていた。僕はまた一人で、帰路に就く。


 まだ太陽は上にあり、雲が散らばる青空は小説ならば、どう表現するのだろうか。そう思わせるような綺麗さがあった。


 少しだけ心も温まり。春の陽気に包まれながら、あの橋に辿り着く。


 一人の女子高生が手提げ鞄を持ちながら、川を見つめていた。桜が散らばるカーペットの隙間からは、住宅街と雲の散らばる青い空が映し出される。横を通り過ぎようとすると、


「ねぇ――こういった川って、小説ならどう表現するかな?」


 驚いた。僕に話しかける人なんて誰一人居なかったのに、こんな僕に向かって、彼女は話しかけていた。咄嗟に出た言葉は、あっえっ、という情けのないものであった。


「ふふっ、ごめんね急に話しかけちゃって。小説よく読んでるからさ、こういう時の表現知ってるかなーと思ってさ」

「……桜のカーペット?……でも隙間があるならそれもおかしいのだろうか……」


 必死に考えるが、今更考えてみればその表現が合っているのかも分からない。すると彼女は、


「私は桜の――」


 何かを言いかけるが、やっぱり分からないや、と彼女はそう言ってしまった。髪は長くストレートのそれは、春の風により少しだけ靡いていた。


「小説は好き?」


 彼女がそう聞いてくる。


「好きというか、それくらいしかやることがないというか……」

「どんな小説を読んでるの?」と聞く彼女に僕は、

「ラノベとか……気になった小説を読んでるからジャンルって言われると、なんとも」

「ふーん、小説読んでるなら人間失格とか読んだことあるよね?」

「読んだことがないな……一度は読むべきなのだろうけど、やっぱり、興味が惹かれないと読む気になれない」

「うん、私も読んだことない」


 今の話し方であれば、読んだことがありそうなものだが。彼女も僕と同じで、興味のある本しか読まないのだそう。


「なんで僕に話しかけたの?」


 そう問うと、彼女は、


「小説を読んでるなら、この風景をどう表現するのかなーって、これさっきも言ったね」

「他の人でもよかったんじゃ?」

「やだよ、人との話し方分からないもん」

「僕は人じゃないんですか」

「じゃあ同類?」

「こんな同類が居たとは驚きだな」


 そう言うと彼女はフフッと笑った。


「ねぇ、君は夢はある?」


 無いよ、と答えると、


「ねぇ、私さ小説を書いてみたいの」

「書けばいいじゃん」

「それがさ、家からあんま外に出ないもんだから情報が無くて」

「出れば良いじゃん、てか今出てるじゃん」

 ぶー、と頬を膨らませる彼女に僕は、なんでそんなこと僕に言うのさと聞くと、

「君、名前は?」

「花橋拓也」

「凄い!丁度今、橋に桜の花が散ってるね!」

「君の名前は?」

「問題!私の名前はなんでしょう?」

「それ当たったら宝くじよりも凄いんじゃないの?もし当てれたらなんか景品ある?」

「ふっふっふー、当てることができたのならば。私の秘蔵の小説を読ませてやろう」

「やっぱいいや」


 ぶー、と頬を膨らます彼女に、僕は少し面倒くさくなってきたが、仕方がないので付き合ってやることにした。


「柳沢美里」


 えっ!?なんで分かったの!?と驚く彼女に対し、僕は彼女の下の地面に指を差した。


「名前書いてる紙落ちてますよ」


 ぎゃー!っと叫びながら手提げ鞄へと紙を入れる彼女。なんでそんな紙を落としてるのか理解に苦しみながらも、一応で聞いてみる。


「……原稿……小説の」

「原稿に名前書くって珍しいね?感想文かな?」

「うるさいなぁ!これ最初に書いたの小学生の頃だったんだもん!」


 顔を赤くして言う彼女に対し、小学生の頃のものを何故今持ってるの?と聞くと、


「登校前にさ、探し物してて。その時にこれが出てきてさ……昔、私って何か物語を書きたいって思ってたんだよね、小説も読まないのに。今になってこれを見つけてさ、続きを書いてやろうって思ったの」


 なるほどね、と頷くと続けて彼女が話す。


「私さ、足があまり良くないんだよね。遠出したくても大変でさ」


 すると僕は、


「車椅子使えば?」


 そう言った後の、彼女の悲しそうな顔を僕は忘れられない。


「違うの、私は歩いてこの世界を見たい」


 その時初めて、彼女を理解した。彼女は半端に歩けてしまう、だからこそ諦められないのだ。


「……だとして僕に何を求めているのさ?」


 そう言うと彼女は、


「連れて行ってほしいの、私にこの世界の美しさが見れる色々なところに。諦められないこの気持ちを、小説に書いてやるんだ!」


 力強く話す彼女の目は、本気であった。


「……両親は?」

「仕事であんまり帰ってこないから、遠くに出かけることなんてない」


 数秒、返答に時間をかけると、


「分かったよ、連れて行ってやる。でも僕は陰キャだから、君のご要望に沿えるかは分からないよ?」


 それでもいい、と言った彼女は改めて、自身の名を柳沢美里と言い。よろしくね、と手を差し出した。僕も彼女に手を差し出した。


 連絡先を交換すると、僕は先に家に帰った。


 今思えば、かなりやばいことを言ってしまった気がする。僕だってまともに外になんて出ていない。それどころか友達なんて居たことすらなかったのだ。それが、この世界の美しいところを見せなければいけない。ぶっ飛んだ話だ。


 やっぱり話す人を間違えていたのでは?そんなことを考えつつも、まずは近場で良さげな場所を探す。


「デートならばまずは、おすすめの場所を検索すれば……って、何を考えてるんだ!?」


 付き合ってもいないのに、とんでもないことを考えてしまった自分の頭を壁に打ち付ける。


 一階ではリビングから顔を出した母親が階段の上を訝しげに見ていた。僕の部屋は二階にあり、となりの部屋が妹、父親は海外で仕事をしていて部屋は無く、一階に母の部屋と祖母の部屋があった。


 場所を決めれず考え込んでいると、連絡先を交換していたことに気が付きスマホを開く。彼女とのチャットを初めて開きメッセージを送る。返答はすぐに来た。


「お洒落なカフェと桜が見える場所が良い!あっ代金は拓也くんの奢りね!」


 馴れ馴れしく下の名前で呼びながら当たり前のように僕の奢りだと言う彼女に少し、イラッとしながらこちらも返答する。


「探してみるけど、生憎とまだ一回しか会ったことのない人に奢る気はない」


 ぶー、という頬を膨らませたスタンプがチャットには送られてきた。


 さて、この時期ならば桜が見れるカフェなんぞどこにでもあるであろう。……いや、小説に落とし込める場所だ。何か良さげなところを、そう考えながらしっかりと調べ上げた。


「桜が見えて――公園とかか?……なるべく足の負担にならない。この近くなら、ここだな」


 そこは、新しくできたカフェで道も歩きやすく桜や大きな公園にある池が、カフェからガラス越しに広がる。


「よし、明日下見に行って。明後日か、明明後日の土日に決行しよう」



 ――翌日の金曜日。登校すると、彼女が校門に居た。やっほー!っと大声をかけてくる彼女に僕は少し猫背になり、おはようと小さめな声で答えた。


 教室まで行くと驚いた、彼女も同じクラスであったのだ。


「どんだけ周り見てないのさ、言ったじゃん君のこといつも小説読んでるって」


 確かに言われてみればクラスが別なのであれば、わざわざ影の薄い僕のことを覚えている訳がないであろう。彼女は席に座ると、僕も席に座った。


 彼女の席は角の窓際族な僕とは真逆の、教卓側から見て少し左に座っていた。そんな彼女は僕と同じく、あまり人とは関わりが無かったようで人と話している姿は見れなかった。


 昼休みになると、僕はいつも第二校舎の奥の屋上に続く階段へと向かう。そこで弁当を食べるのだ。今日も第二校舎へと向かっていると、後ろから声をかけられた。彼女が一緒に昼食を食べようと僕を誘ってくる。


 側から見れば付き合っていると思われるだろうか?そんなことを考えながらも、その場を誰にも見られたくなかった僕は即答し仕方なく彼女をいつもの階段へと連れて行った。



「こんなところでいつも食べてるの?」


 そう言う彼女に僕は、


「悪かったね君の求めてるような場所で食べてなくて」


 本当ならば小説に落とし込めそうな場所は他にもあるだろう、だが生憎と人の居るところで食べる気にはなれないのだ。そんなことを考えていると、


「いや!良いよここ!人の現れない空間、落ち着いて食べられる自分だけの聖域。小説に落とし込めるよ!」


 そんなところいくらでもあるだろうと、そう思いながらも箸を進める。彼女の弁当は彩りがあり、バランスの取れたザ・お弁当といった内容をしていた。


 僕の弁当は昨日の残り物で肉団子やら野菜炒めやらが入っていて、白米には申し訳程度のゆかりが添えられていた。


「弁当、自分で作ってるの?」


 なんとなく、聞いてみた。


「うん、お父さんとお母さん忙しくってさ、ご飯とかは自分で作ってるんだ」


 いや、というか親家に居ないんだからそうか。


「料理上手なんだね、教えてもらったの?」

「自分で調べたのさ」


 えっへん、と自信満々に言う彼女の姿は悔しいが割と可愛かった。いや、割とは失礼か。


「家、どこだっけ」

「海辺の方、郵便局の近く。私の部屋さ、ベランダがあって、そこから見る海がすっごく綺麗なんだよ!」


 楽しそうに話す彼女の言葉から、どんな場所を想像していると。


「そういえば、連れて行ってくれるところは見つかった?」


 そう聞いてきた彼女に僕は、


「大方、まだ下見はしてないから明日か明後日の土日にでも行こう」


 しかし、彼女はなんと、


「なら今日行こうよ!」


 そんなことを言ってきた。即日で動こうとする彼女に驚いていると。


「土日は人が多くなる、今日ならきっと!」


 なるほど、確かにそこは考えていなかった。流石人と関わらなかった男。もうこの人が全部決めて良いんじゃないかな、なんて思ってしまった。


 だが、約束は守る。言ってしまったのなら連れて行くしかない。僕は義理堅いのだ。


「でも、金曜も割と人多いんじゃ?」

「帰ってすぐに行けば問題ないよ!」

「そんなすぐに動けるの?迎えに行こうか?」

「要らないよーだ!走るのは好きなんだよーだ!」


 心配になりながらも、もう話を止めることはできそうになかった。



 帰宅後、僕はすぐに用意をして外へと出た。その際妹に「お兄ちゃん…十回くらい頭でも打った…?」と言われてしまったが失礼な、お兄ちゃんは昨日、自室の壁に三十回は頭を打ちつけたぞ。


 カフェに着くと、まだ早かったのか彼女の姿はまだ見えなかった。


「やっぱり迎えに行くべきだったか」


 そんなことを思いながら、彼女にチャットを打つ。


「着いたけど、大丈夫そう?」


 返答はすぐに来た。


「家の近くなんだけど……足挫いちゃった……ごめん先に帰ってていいよ。今日はやめとこう」


 その瞬間、僕は走り出す。どうやら僕は、周りのことを考える能力が欠けているらしい。足のことをもっとしっかりと考えるべきであった。


 この辺りで海辺にある郵便局は一つしかない、そこへ向かって走り出す。外に出ない僕の全速力はそこまで長く持たず、速度がどんどんと落ちていく。


「大丈夫、ここからは近い。すぐに辿り着く」


 そう自分に言い聞かせながら街を走り抜ける。海が近付くと、潮の匂いが流れてくる。僕はヘトヘトになりながら郵便局近くまで来ると、座り込んでいた彼女を見つけた。


 彼女は驚いたように顔を見上げた。


「拓也!?なんでここに」

「すまなかった、やっぱり迎えに行くべきだった」

「……拓也は悪くないよ、私が要らないって言ったから」


 その言葉を否定できない僕はきっと気が効かないのだろう。彼女を起こすと、肩を貸し彼女の家へと歩き出した。彼女を背負えるほどの力がない自分をこればかりは恨んだ。



 ――家に入ると彼女の部屋へと連れて行く。中は綺麗に整っており。カーテンの向こうには確かに、ベランダ沿いの海辺が見えていた。


「一階のリビングにあるテレビ台の中のとこに湿布があるからさ、それ取ってきてくれない?」


 頷くと僕は、階段を降りてリビングへ湿布を探しに行った。家には誰も居らず。本当に殆ど一人で過ごしているのだと、家の感じを見れば分かる。テレビの下を探していると、薬などが入った箱があり湿布がそこに入っていた。それを取り出し、持っていく。


 部屋に戻ると、ありがとー!と湿布を受け取り足に貼り付けた。どうすればいいか、困っていると。


「うん、もう大丈夫だよ!ありがとう。ごめんね折角良いところを見つけてくれたのに。また、今度行こっか!」


 そう明るく言う彼女に僕は頷くくらいしかできなかった。



 ――彼女の言う通りにその日はそのまま家へと帰った。何か買ってこようか?とも言ったが、このくらいなら大丈夫!特に家にあるものでなんとかなるから気にしないで!と言われ、そのまま帰ることになってしまった。


 彼女曰く、今日はもう小説を気合いで書いて過ごすのだそう。僕は予定が潰れてしまいやることが無くなってしまった。たまには、妹にでも構ってゲームでもするかな。そんなことを考えながら帰路に就く。


 この2日間、僕にしては色々とあった気がした。いつもなら家で課題を終わらせ、小説を読むかゲームをする。外へ出るのは買い物くらいか。そんな僕が外出先を探し、外へ出て走って自分以外の家へと入る。凄く可愛いことではあるが、僕にとってそれは色々なことであった。



 翌日――運動をしていない僕の体は筋肉痛に襲われていた。チャットには彼女から、ごめん!やっぱ動けそうにないから何か飯になるものを買ってきておくれ!という文章が送られてきていた。


 筋肉痛に襲われている体を無理やり動かし、仕方がないのでコンビニで適当にサンドイッチやら弁当やらを買って、彼女の家へと自転車を走らせる。


 川沿いに海辺へと向かう。昨日よりは川に浮かぶ桜は少なくなっており。住宅街と青空がよく映し出されていた。


 彼女の家に着くとインターホンを鳴らす。すると、鍵が開く音が聞こえ中に入る。そこには申し訳ないといった顔をしている彼女が出迎えた。



 ――袋を渡すと何か食べる?と聞いてきたが、お前の分しかないよ、と言い筋肉痛も酷かったので早々と帰ることにした。金を請求するのは今度にしておいてやろう。


 結局自腹で餌付けをする形で、その週は終わった。小説を書くには何が大切なのであろうか、確かに外に出たことで色々なことに感情を動かされた。それを、物語に落とし込むことは、大切なのかもしれない。


「あいつが動けるようになったら、カフェなんかよりも、もっと心躍らされる美しい世界を見せてやるか」


 その日から僕は、外出をよくするようになった。新学期が始まった春、僕の人生は少しだけ変わった。


 いつもならば家でゴロゴロしていた自分が、外に出ている。人と話をしている。どこか、良い場所がないか街の人に聞いたりもした。今までの僕では考えられないことだ。


 誰かを思うということは、ここまで人を動かせるのか。そういったことに感心しながら街を自転車で街を走る。


 今日は、どこへ行こうか。彼女の望みはどこならば叶うだろうか。そう考えていると、ある若い男の声に呼び止められた。


 聞き覚えのあるその声の正体は中学校の時の同級生であった。佐崎敏久、僕に唯一何回も話しかけてきた物好きな男であった。


「久しぶりだな!拓也、元気か?」


 驚いた。そこまで自分からは話もせず気にもしていなかった僕は、こいつの存在すらも忘れていたのだ。


「佐崎――久しぶり」

「おぉ!名前忘れられてるかと思ったよ。お前が外に出てるなんて珍しいな!なんかあったのか?」

「ちょっとね…佐崎も元気にしてた?」

「おう!俺は元気だぜ!高校生活俺みたいな友達はできたのか?」


 友達……その定義はよくわからない。佐崎のように、一方的に話しかけてきただけでも友達なのであろうか。ならば彼女は友達なのか?それもまた、分からない。


「俺さ、友達なのに一方的でさ。お前の話もっと聞いておけばよかったなって思って、また会えねえかなって思ってたんだ」


 佐崎も同じだったのだ、友達とは何なのか、人との関わりはとても難しい。彼女は僕のことを友達と思っているのだろうか。僕は、彼女をどう思っているのか。


 佐崎と連絡先を交換した後、佐崎に彼女とのことを話、ならば一駅先にある図書館などはどうだろうか。という助言を受け取ると、僕は自転車を走らせ図書館へと向かう。


 確かにあそこは小説に落とし込める本が沢山ある。風景だけではない、そういったものもまた彼女の望んでいることなのではないか。そう思いながら目的の場所へと向かう。



 図書館に辿り着くまでに幾つか、良さげな場所も見つけた。そういったところも周りながら図書館へ行くのも良いだろう。


 彼女の小説はどういったものになるのだろうか、どういったものを書くのか。それもまた彼女に聞いてみよう。その日は色々下見をして家へと帰った。



 ――家に帰ると晩飯の用意が丁度されており、少し内容が豪華であった。家族からは彼女ができた記念だと言われたが、丁重に否定した。


 部屋に戻ると、彼女のチャットに次の予定日と場所を書く。彼女からの返信は無かった。きっと早めに寝ているのであろう。


 窓を開けると、夜風がカーテンを揺らした。もしかしたら彼女も今、夜風に当たっていて寝落ちでもしているのだろうか。


 そんなことを考えながら、アラームを設定し布団に潜り込む。明日からは、また学校だ。憂鬱さに襲われながらも、少しだけ、また彼女に会えることが楽しみになっていた。


 そうか、会えることが嬉しい。それは友達なのかもしれない。そんなことを考えながら眠りについた。



 翌朝、登校するが彼女は学校に来ていなかった。帰りに朝見ていなかったチャットを見てみると。


「ごめん!明後日まではちょっと動けないから学校はお休みするよ!図書館!確かに行ったことなかった!楽しみにしてるね!電話でなら話せるからまたお話ししよ!」


 と言った文章が書かれていた。どうやら彼女は明日も居ないらしい。家に会いに行くのは流石に友達でもしないか……いや、そういえば電話機能を使っていない。


 今まで電話なんてしたことがなかった。だけど、人の声が聞ける。それだけでも満足ができるものなのか。たまには、電話というのをしてみるのも良いのかもしれない。


「きっと何か話ができるはずだ」


 電話を鳴らすが、1分ほど経っても彼女は出なかった。数分後、彼女からチャットが来た。


「お風呂入ってた!ごめん!てへ!」


 二度と電話なんかしない。してやるもんか。そう心に誓った。佐崎から来ていたチャットには、このゲームやってるか?という文章の下に、妹とよくやっているゲームが載っていた。


「やれるなら通話しながらやろうぜ!」


 というチャットを見て、僕は先程の誓いを変更し、彼女とは電話をしないと決めたのであった。


 佐崎とのチャットには、いいよ、と返信して家へと帰る。なるほど、人と関わるのは案外、楽しいものなのだな。そう感じながら、その一日を終える。

 あとがき

 どうも、焼きだるまと申します。二作目の小説となる アルテミスの夜空の下で はファンタジー要素無しの作品となりました。今後展開がどうなるのか、楽しみに読んでいただき、待っていただけると嬉しいです。それではまた次回お会いしましょう。

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