さがしもの
ぼくのおじいちゃん、ちょっと変。
あれぇ、どこいったかなぁ。
いつも何かを探してる。
おじいちゃん、何を探しているの?
あのなぁ、メガネがないんじゃあ。
おじいちゃん、ネガネならあるよ。頭の上。
おや!ほんとじゃ。ありがとう。
おじいちゃんはメガネをかけて微笑んだ。
なんで見つけられなかったんだろう。
ぼくのおじいちゃん、ちょっと変。
はて、どうしたものか?
いつも何かを探してる。
今度はどうしたの?
えんぴつが見当たらないんじゃあ。
おじいちゃん。えんぴつならあるよ。耳のとこ。
お! こんなとこに! ありがとう。
なんで忘れちゃうのかな?
ぼくのおじいちゃんちょっと変。
いつも何かをさがしてる。
どこおいたかのう。
今度は何を探しているの?
ものを書くための紙がないんじゃあ。
ノートならあるよ、ポケットの中。
ちょこんとはみ出て見えている。
これじゃないんじゃあ。
ぼくのおじいちゃんのさがしもの。
ポケットに入ってないメモ用紙。
何に使うの?
何に使うんだっけなぁ?
これじゃだめなの?
だめじゃなぁ。
うーん、困った。僕も探してみる。
引き出しの中。やーい。
あっ、
おじいちゃん、このチラシの裏が真っ白だよ。
それじゃだめじゃ。
本棚の中。やーい。
あっ、
おじいちゃん、この落書き帳は?
それじゃだめじゃ。
ものおきの中、やーい。
あっ、このノート最後の方使ってない。
それじゃだめだ。
ところでお前さん、このノート、この名前は誰のことかの?
そこに書いているのはぼくの名前。
えっ、おじいちゃんぼくのことだよ。
そうか、わしの孫と同じ名前じゃな。
ぼくのおじいちゃんちょっと変……。
わしの孫、この前うまれたばかりでな、とっても可愛いんじゃ。
おじいちゃん、いつの話しているの?
ぼくもうこんなに大きくなったよ。
これはお前さんのノートか?
そうだけど、もう使ってない。
学年が変わったから変えたんだ。
そうかそうか。
貰っていいか。
ぼくが頷くとおじいちゃんはノートを大切そうに抱きしめた。
ぼくのおじいちゃん、
昔はこんなじゃなかったんだ。
ぼくがおじいちゃんの家に行くって電話したら、
いつも家の前で待っててくれた。
おお来たか、って僕の名前を呼んで暗くなるまで一緒に遊んでくれた。
あの優しいおじいちゃんはどこに行ったの?
しばらくして
おじいちゃんはお星さまになった。
優しいおじいちゃんも
変わったおじいちゃんももういない。
引き出しの中、やーい。
本棚の中、やーい。
ものおきの中、やーい。
おじいちゃん、何を探しているの?
小さな男の子がワシを見つめてる
はて、なにを探してるんじゃったかの。
男の子の目は輝いていた。
まだ何にでもなれる未来を写しているかのようだ。
ワシにはもう、ない。
探しても、見つからないんだ。
ぼくも一緒に探してあげるよ。
無邪気に、男の子が押し入れを開けて、やーいと未来を探す。それすらワシには眩しかった。
この子が入れば、大丈夫だ。
やーい、と呼ばれて起き上がった。
今日はなんだか気分が爽快だ。
これはお前さんのノートじゃな。
ふと声がして顔を上げると、白い服を着たおじいちゃんが一冊の本を持っていた。
どうして、死んだはずのおじいちゃんがここに居るのか。聞きたくても声が出なかった。
いい人生だったようじゃな。
おじいちゃんが持っていた本を手渡してきた。
「これ……」
恐る恐るページをめくる。ワシの誕生日から始まるその本には、ワシの人生が全て書かれていた。
73年分の、長いようで短い人生だ。
「ここに、あったのか」
おじいちゃんが頷く。
おじいちゃんも、ずっと探していたんだね。
ワシはその本を全部読んだ。忘れていたこともたくさんあった。
おじいちゃんはずっとそばで待ってくれていた。
長い時間かけて読み終えて、ワシは本を閉じた。
これ以上待たせてはいけない。
「いこうか」
おじいちゃんがワシに手の平を見せて言った。どこにいくのかは聞かなくても分かった。ワシは本を小脇に抱えると、おじいちゃんの手に自分の手を重ねた。
やーい、と遠くから声がする。
だれかが自分の人生を探している。
自分の人生はなかなか見つかりません。
私はいつでもやーいって探している気がします。