契約と記憶
「さぁ、死体の処理は終わったし次は葵ちゃんの番だよ」
(え? あなたは鬼ですか?)
狼たちがいた場所が地獄絵図になってしまい、その後処理を終わらせた私に対してユウコさんが更に狼を追い詰める鬼畜発言、しかも実際に行動するのは俺自身。
「だってそもそも葵ちゃんを強くすることが目的でさっき見本を見せたのよ? それに、さっきの逃がした狼も葵ちゃんのために『行動操作』を使って近くに残してるのに…」
(ユウコさん何してるんですか!)
わざわざそんなことの為に名前からして(倫理的に)やばいスキルを使うユウコさんに若干引きつつ俺はユウコさんに着いていく。
*****
「さーて、葵の実力は如何程のものかしら」
私が指示した通りに狼を狩り始めた葵を、私自身は木の幹に座りながら観ている。
「葵は良い身体持ってるけど、やっぱりまだ慣れてないせいでぎこちないわね」
葵はまだ殺し合いになっている状況に怖がってなかなかその身体の脅威を狼に向けていない。
「爪でひっかけば肉を切り裂きその巨体でぶつかればボウリングのピンの様に吹き飛ばせるのにね…」
そう言うと女は葵に対して『思考誘導』のスキルを再び使った。
*****
爪に狼がぶつかりそのまま狼の身体が真っ二つになる
(あ/れ?)
さっきまで感じていた嫌悪感が急に消えて身体が自然と狼に対して牙を向く。
もちろん比喩的な方でだけど……いや、比喩じゃない
おかしい明らかにおかしい、今こんなことを考える余裕があるくらいにはおかしい。
待てよ、そういえばなんで前の狩りの時は動物を殺すのに躊躇わなかったんだ?
お
か
し
い
なんだこれなんだこれ
き
も
ち
わ
る
い
おかしい、おかしい。おかしい……
頭の中で何度も何度も同じ言葉が巡る。
その時、狼の群れの一匹が噛みついてきた
『邪魔だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』
葵は狼に向けてブレスを力いっぱい吐き出した。
狼に向けて放たれたブレスは狼を焼失させてなお、勢いを殺すことなく地面を抉り、狙われた狼以外の群れごと周りを吹き飛ばした
*****
葵の巨体が倒れる
「あらら、使いすぎちゃったかしら。色々と考えない様に脳を弄っちゃったからね」
女は葵の傍に近寄り頭を膝に乗せると、自身が吐いた嘘を思い出し苦笑する
「なによ、さとりと蛇と人間のキメラって……」
それは嘘を言っている自分に対してかそれとも…
「次からはもう少し慎重にしなくちゃね。そうしないとまた記憶を蘇らせる段階からになってしまう」
今まで繰り返してきたことを思い出しながら女は反省する。
そんな女の耳に久方ぶりに肉声が響く
「そうなったらもう時間が無くなってしまうな」
ソイツはいつの間にかユウコの隣にが現れていた。
黒色の髪、
表情を隠すベール、
頭部以外を覆う魔術師を彷彿とさせる様な服装、
そしてベールに隠された口から聞こえて来る怪しい男性の声には感情が載っていない。
「……今回がラストチャンスなのね」
ユウコは黒髪の男に対して質問する
彼の考えていることは読み取れない。
それだけこの者は自分よりも規格が高い。
「そうだ、貴様ともう一人との契約は最終的には遂行してやるが、貴様がその時まで耐えられるかは契約外の内容だからな」
「そういえばもう一人の方の契約は最後の一人だけなんだっけ」
「そうだ…とはいえアレは時間が経てば勝手に生まれ変わる2000年の時とお前たちがアレを弱めたからな」
「私は何もしてないんだけど」
「ふっ……そうだったな」
「まぁ良いわ…さてそろそろお昼になってくるころだし葵を起こさなくちゃね」
女は葵の頭に手を当て記憶を操作する。
「[狼の群れは自分が殺した]っと、一応スキルの使い方と生物の殺し方も覚えさせとかないとね。次は記憶に違和感を感じないようにして、まぁ多少のことは後で覚えるときのことを忘れた体で話せば勝手に勘違いしてくれるだろうし、このぐらいでいいかな」
ユウコは葵の頭から手を離し、次に研究者が【庭】と呼んでいるスキルで創られた『箱庭の世界』の中にいる生物の記憶を操作し作られた生物の補填を行う。
嘘で塗り替えられた真実は、ただ葵にバレない為に塗りつぶされる。
◇
「あ…い…ゃん…お…ち…ん、葵ちゃん!起きて」
(あれ?ユウコさんどうしたんですか?」
なんで俺仰向けになってるんだ?
「なんでって葵ちゃんがお昼ご飯食べたら眠くなったって寝ちゃったんじゃない」
あれ? そうだっけ? えーと、思い出せー、思い出せー
えーと、確かユウコさんが狼の群れを崩壊させた後、その群れの残った奴らを俺が潰したんだっけ。
「ちがーう、それは昨日のやつ。今日はスキルの練習と基本的な動物の狩り方を教えたでしょう」
(あぁ、そうでしたね思い出しました)
「もう、今日の分の食材はとってあるから夕飯に行きましょう」
そう言ってユウコさんは俺の手を引っ張る
というかユウコさんの力強!!!
(ユウコさん痛いです…)
「あぁ……ごめんね」
俺はユウコさんの背中を追いかける、
その背中になにが隠されているのかも考えず。
一個だけユウコさんは強いです。




